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ep.04 アカリの真実(前編)

 冥瘴気ミアズマというものが存在する。それが初めてこの世界で確認されたのは、300年前のこと。こことは違う、異なる世界からもたらされた概念だ。生態細胞を活性化させるが、同時に理性や知性といったものを著しく減衰させる。要するに、生物を凶暴化させる“モノ”だ。

 それは物質ではなく、ではどのようなものかと言えば、説明する概念は300年前には存在しなかったし、今もない。既に魔法という言葉は御伽噺の中の存在になっていたし、世界の裏側にある神秘の存在は、公には隠匿され続けてきた。


 それでも、冥瘴気の存在は解明された。マジマが取り扱う鍵のうちの1本は、その産物だ。自らの肉体を冥瘴気によって一時的に強化させる。

 こうした、異世界からもたされた技術による特殊な“鍵”を、彼は何本か持っている。


 例えば、既に滅んだ“血”の一族から抽出した鍵。

 例えば、身体の内側に流れる“霊脈”を活性化させる鍵。


 マジマが長い年月を生きながらえてきたのも、異形化した肉体とは別に、そうした様々な鍵によるドーピングの結果でもある。


「おおおおおおッ!!」


 獣のような叫び声をあげ、マジマは昆虫人間に跳びかかる。長く伸びた鋭利な爪が、スーツを引き裂き、しかし外殻に阻まれた。


「おっさん、服はやめてやれよ服は」


 キョウスケがマイペースな声で指摘する。


「そいつ、女だぞ。まぁ、後で元に戻るかそんな余裕はないかは置いておいてもだ」

「うるさい。口ではなく手を動かせ手を!」

「手を動かさなくても戦えるのが、オレのいーところだ!」


 減らず口で叫び返すと、キョウスケはにやりと笑い、空いた右手を掲げて昆虫人間を睨みつけた。


 ぶわ、と空気のたわむ感覚がある。不可視の力場が形成され、それは昆虫人間に対して強い圧力として襲い掛かった。外殻はぎしぎしと音を立て、その肉体を上から強引に抑えつける。殺すなよ、とマジマは思ったが、口には出さない。キョウスケだって積極的に彼女を殺害しようとしているのではない。ただ、殺す時はやむを得ない状況。それだけのことだ。

 昆虫人間は、不可視の力に押さえつけられつつも、その中で辛うじて身動きは取れていた。1歩、1歩と、ゆっくり前に歩き出す。


「やっぱ動くかぁ! 出力には自信あるんだけどなぁ!」


 キョウスケは掲げていた手を外し、力場を解除する。両手で剣の柄を押さえるのと、昆虫人間がつんのめるのは同時。勢い余ってさらした隙に対して、少年の持つ宝剣、クレセント・ナブラが閃く。がきん、という音がして、怪物の後頭部に刃が直撃した。

 マジマは更に別の鍵を取り出す。それを自らの身体に差し込むと、体内に生じた捕縛術の『才能』が胎動し、目に見える形で異形化した。キョウスケが追撃を加えたばかりの昆虫人間に対して、両手に長く伸びた縄状の触手を伸ばす。


「マジマさん、後ろだ!」

「むッ……」


 聞こえてきたミライの声に反応して、マジマは触手の矛先を変える。触手は鞭のごとくしなり、背後からの奇襲に対応する。しかし、とびかかってきた屈強な怪物に対して、鞭打べんだはなんら効果を示さない。怪物は、屈強な肉体を持った、1本角の昆虫――カブトムシをモチーフにしていると思しき出で立ちをしていた。


「そういえば俺が若い頃、火星を舞台に昆虫人間が戦う漫画があったぞ!」

「へぇ、おっさんが若い時っていくつ?」


 キョウスケは、もう1体の昆虫人間を相手にしながら、余裕そうに尋ねてくる。


「32、3だったかな」

「そんな若くないじゃん……」

「なんだと!? 今の1/10だぞ! おまえで言えば1歳のときだ!」

「うるせー! それでもオレの2倍だろうがよ!」


 そもそも若さで言えば今でも若いつもりだというのに、心外だ! いや違った。そうじゃない。

 目の前のカブトムシ男の力は未知数だ。だが、もう片方の――カマキリ女とでもしておこうか。あちらより難敵なのは想像に難くない。だいたいこういう場合、カブトムシが強キャラなのはお約束だが、それは別にしてもだ。


 カブトムシ男は、複眼でマジマを睨む。ギチギチと口元を鳴らしながら、不意に、その顔をキリギリス女の方へと向けた。カマキリ女は、その刃をキョウスケの剣と打ち合わせているさなかだ。剣戟においては、キョウスケにやや分があるように思えた。

 不意に、カブトムシ男が動く。甲冑に覆われたかのようなその拳を振り上げ、マジマへ向けて振り下ろした。マジマは跳ねるようにしてかわし、鞭をしならせる。触手が腕に絡みつくが、しかしカブトムシ男は、その触手ごとマジマの身体を振り回し、床へ思いきり叩きつけた。


「うぐおっ……!」

「あ、おっさん!」


 連鎖的に、キョウスケに生じる隙。バカ、とマジマは言おうとしたが、肺から空気が出るだけだった。相手に集中せずに戦えるほど、場数を踏んでもいないだろうに。

 だが、キョウスケの身体にカマキリ女の刃が襲い掛かることはなかった。生じた隙を、カマキリ女は飛び退くために使う。そして、こちらを――正確にはキョウスケと、アカリという少女を、何度か気にするそぶりを見せながら、そのまま走り去って行った。


 カマキリ女が撤退したのを見て、カブトムシ男も腕に絡みついた触手を強引に引き千切る。そしてそのまま、カマキリ女のあとを追うようにして去って行った。キョウスケはそれを追いかけたりせず、代わりにすぐにマジマの方へと駆け寄ってくる。


「おいおっさん、大丈夫か?」

「気にするな……慣れている……」

「慣れるほど噛ませ犬が染みついてんのかよ」


 キョウスケに追撃を指示するべきだったのかどうか。難しいところだ。野放しにしてはいけない相手ではあったが、しかしキョウスケでは相手の情報武装を剥がせない。彼1人で、あの2体の怪物を相手にさせることになるし、それはあらゆる側面から考えて、非常に危険だ。

 ともあれ、ひとまず危機は去ったのか。マジマは、身体の中から鍵を引き抜いて、立ち上がる。そして、隅でこちらの戦いを見守っていたミライと、もう1人の少女――アカリに、歩み寄った。


「ケガはないか」

「大丈夫です。あのう、マジマさんは……」

「頑丈なのが取り柄だ」


 ミライもアカリも、何が起こったのかさっぱりわかっていない様子だ。無理もない。


「しっかしあいつら、なんで逃げたんだろーなー」


 腰に手を当てて、キョウスケは2体のアフターマンが逃げ去った方向を見る。

 確かに、わからない。急な撤退を促したのは、おそらくカブトムシ男の方だが。それが一体何故なのかまでは。戦力差で言えば拮抗していたか、あるいはあちらの方が有利であったかもしれない。少なくとも、マジマ1人ではカブトムシ男とやり合うには少々辛かっただろう。


「――都合の悪いものがある、って、言ってた」


 少女が、小さく言葉を紡ぐ。


「うん?」

「あの大きい方の人、都合の悪いものがあるから撤退するって。たぶん、その、ええと――怖い人? のほう」

「怖い人って俺か」


 ちょっと傷つく。


「でもそれっておかしくねぇか」


 おそらく当然であろう疑問を、キョウスケが口にした。


「戦力で言えば、おっさんは明らかに負けてたぞ。オレならわかるけど、おっさんの方が都合が悪いって、なんだ?」


 キョウスケは、少女が彼らの言葉を理解していたかのように話した件を、あっさりスルーしてそこを指摘する。彼が追及しないということは、少女の言葉はある程度信用できるということか。キョウスケの持つ力は多岐に渡るが、その中のひとつに読心能力もある。彼の父親ほど研ぎ澄まされてはいないが、真偽を判定する程度ならば容易にやってのける。


 さて、キョウスケの疑問を受けて、少女はかぶりを振った。


「わからない。良くないものを持ってるって言ってた」

「なんだろう。病気かな」


 失礼極まりないキョウスケの頭に、マジマは一発、げんこつを叩き込んでおいた。育ちは決して悪くないどころか優良高貴なはずなんだが、ときおり滲み出るこの口の悪さは誰に似たのか。母親ではないとすれば父親だろうが。


「よくないもの、ね」


 マジマは、先ほど引き抜いた鍵のうちの、1本を眺める。

 冥瘴鍵ミアズマキー

 冥瘴気を抽出し、アビリキィとして製造されたものだ。自分が持っている良くないものと言えば、思いつくのはこれくらいだが。


 まあ考えていてもしょうがないか。このあたりはいずれ、総裁にでも直接尋ねよう。


「そう言えば自己紹介が遅れたな。俺はマジマだ」

「あ。オレ、キョウスケ。キョウスケ・ホウリン。よろしくな」


 少女に対して挨拶をすると、少女はびっくりしたように目を見開き、そして少し、隣のミライを見た。


「僕はさっき知り合ったよ。キョウスケの方は、もう友達になった」


 別に他意はないセリフだろうが、除け者にされた気がしてやっぱり傷つく。


「えっと。アカリです。よろしく、お願いします」


 アカリが頭を下げたのを見て、キョウスケは笑った。


「もう仲直りできたみたいじゃん。よかったよかった」


 キョウスケの言葉に、きょとんとするアカリ。


「仲直り? あたしと、ミライが……?」

「え、あれ? まだだった……?」

「そもそもケンカしてたっけ。あたし達」

「これだよ……」


 ミライがこれ見よがしに大きなため息をつく。

 これだけで、2人の関係は察するの余りあるような気がした。ほほえましいと言えば、まあほほえましい。


「ところで、」


 と、ミライは話題を切り替えるように口にした。


「結局、お二人はなんなんですか? あの、わからないことだらけで……」

「まぁ、そりゃあそうだろうなあ……」


 いきなり怪物に襲われて、目の前で2人の人間がわけのわからない力で戦って。

 よく冷静でいてくれるものだ。むしろ、わからないことだらけと言いつつ、事情をある程度理解していそうなあたりが、こちらにとっては不可解ではある。それだけではない。何故、アカリは彼らの言葉を理解していたかのように喋るのか。


「でもまぁ、わからないことだらけなのは、俺も同じだよ」




「ジョン・パターソン。レリア・ファーツ。共に火星探査船の乗組員でした」


 ホログラフ投影で浮かび上がる2人の顔を、ローズマリーは目に焼き付ける。


 彼らは、火星から来たモノリスによって情報外皮を与えられ、怪物――アフターマンへと“進化”してしまった。おそらく、パターソンがバッファロー、ファーツがカマキリ。それぞれそうした虫をモチーフにしていると思われる。このうち、ファーツと思しき昆虫人間に関しては、火星で目撃されたばかりだが、パターソンの足取りは未だに掴めていない。


 さらにもたらされた情報によると、火星ではさらに、今まで確認されていなかった昆虫人間、カブトムシ型の屈強な怪物が確認されたという。彼らも情報外皮によって進化させられた存在であると思われるが、強奪されたモノリスによって生じた新たな被害者であるのか、それともモノリスの発見以前から密かに存在していたものなのかも、はっきりとしない。


「ともあれ、」


 モノリスは、くるりと後ろを振り返って、そこに並ぶ4人の男女を見る。


「今回は私が遅れてしまったためにアフターマンへの対処が遂行できず、申し訳ありませんでした。皆さんがご無事で何よりです」


 ミライ・ノイマン。アカリ・ヤムチャコ。キョウスケ・ホウリン。そしてマジマ。

 この4人はつい先ほど、ローズマリーを尋ねてやってきた。ローズマリーは財団の職員に指示を出し、まさにアフターマン対策に打って出ようとしていたその直前のことであった。


「それはいーんだけどよー」


 キョウスケが挙手をして発言する。


「ジジョーを説明してくれジジョーを。いろいろとわかんねぇことだらけでさ。そもそも、ミライとアカリは、ローズマリーさんの知り合いだったの?」

「ええ、先日知り合いました。まさか、こうしてまたお会いするとも思わなかったのですが」


 その言葉は半分近く、嘘が含まれている。

 いつか近いうちにまた、こうして話をしなければならないという予感があった。正確にはそれは、ミライではなくアカリの方だ。そしてその予感は、今回、アフターマンの襲撃を受けたことで、確信に変わりつつある。

 ――しかしまぁ、“予感”だの“確信”だの。ずいぶんと発想が人間らしくなったものだ。


「さて、事情の説明ですね」


 ローズマリーは一同を見回して言う。


「まずはみなさんの遭遇したアフターマンの件です」


 確認されたアフターマンは2体だが、それはローズマリーの持つ事前の情報と食い違っているという事実が判明した。ミライに話を聞いてみたところ、やはりファーツと共に確認されたのはカブトムシのアフターマンで、先日船内で目撃した牛人間とは違うらしい。


「あのカブトムシは、カマキリ女に対して何か指示を出していたように見えたが」


 マジマがそう言うと、アカリが頷く。


「うん。ええと、あの、角の生えてる方が偉そうだった」


 木星育ちの彼女に、昆虫の種類について言及できるだけの語彙はない。


 アカリを含めた彼らの見解が一致している以上、カブトムシ男の方が、カマキリ女より立場が上であると考えるべきなのか。アフターマンに関係の上下があるのかはともかくとして。

 しかしそうなると、あのカブトムシは、火星の探査船がモノリスを発見するよりも以前から存在しているアフターマン、ということになる。


「そのあたりは、目下のところ調査中です」

「では、奴らが俺の冥瘴鍵を恐れていたというのは」

冥瘴気ミアズマには高濃度の情報汚染能力があると言われていますね。ですがそれ以上のことは目下のところ調査中です」


 マジマの言葉にも、できる限りのことを伝える。


「じゃあ、」


 と、ミライが手をあげた。


「アフターマンが、アカリと――キョウスケを狙っていたというのは?」

「それは――」


 ローズマリーのAIプログラムは、このとき高速で状況の演算を行っている。

 稼働しているハードウェアは、ここにある電子頭脳だけではない。ワープ通信によって、地球の軌道周回上に浮かんでいる衛星も並列処理させる。これによって、思考にかける時間はゼロにも等しい時間で、結果が算出される。


 だがそれはすでに出ている結論を、裏付けるものでしかなく、


「――目下のところ、調査中です」


 それを正直に言葉にしないという結論が、付随して導き出される程度のものだった。


「結局何もわかってねーのかよ!」

「ええ。わかっていません。ですが、わからないわけではありません」


 キョウスケの抗議めいた声を、さらりと受け流す。その後もいくつかの質問。例えば、アカリが何故、アフターマンの会話を理解できたのかなどについて聞かれたが、同じ文句で切り抜ける。このあとのアカリの処遇については、ひとまずキョウスケとマジマを護衛につけて様子を見るということになった。


 そしてローズマリーは、少しばかりの躊躇の後に、アカリにこう告げなければならない。


「申し訳ありませんが、地球行きはひとまず待っていただけませんか」


 告げられたアカリは、まるで死刑宣告を受けたかのような顔をしていた。


「えっ……」

「申し訳、ありませんが……」


 心苦しいというのは、きっとこういうことを言うのだ。


 ジュピターチルドレンである彼女が、地球行きをどれだけ楽しみにしていたのかは、知らずとも想像はできる。それを停止あるいは中止しろと言うのだから、それは彼女にどれだけ衝撃的な要求であるか。

 だがここで、アカリは『やだ』とは言わなかった。


「仕方がないよ、アカリ」


 ミライも言い含めるように告げる。


「なんでかはわからないけど、アカリはアフターマンに狙われてるんだからさ……」

「う、ううう……」


 彼女は、決して頭の悪い子ではないのだろう。それを理解しているからこそ、駄々をこねることを避けている。だが、感情的には、アフターマンに狙われている恐怖よりも、地球に行けないかもしれないという無念の方が勝っているようにも見え、そのあたりはまぁ、年相応といったところだろうか。


「……ミライは?」


 ぼそりと、アカリが口にする。


「えっ?」

「ミライは……地球に行くの?」

「えっ、ど、どうかなぁ……。僕は別に地球には大して興味なかったけど、でも、一応その、団体行動だし……」


 そう言って、あたふたするミライ。アカリがちらりと、ローズマリーを見る。


 どうしたものかという逡巡は一瞬。キョウスケとマジマもまた、同時にこちらを見る。結論はすぐに出た。ローズマリーとしては、かなり頭を悩ませた部類には入るのだが、それでもまぁ、現実に即してみれば一瞬の話だ。


「木星移民船団の方には、私から話しておきましょう。ミライが望むのなら、彼女と一緒に火星に残ることを許可できます」

「えっ、ええっ!!」


 それこそまさに、ミライには寝耳に水だったようで、驚いて顔をあげる。

 先ほどまでこちらを見ていたアカリ、キョウスケ、そしてマジマの3人は、今度はミライの方をじっと見ていた。どうやら、彼らの心はひとつであるらしかった。アカリはまぁわかるとして、キョウスケもマジマも、変なところで変なおせっかいを焼くものだと思う。


 まぁ、人のことは言えないのだけれど。


「では、ミライにはこの後の件について説明をしますので、残ってください。アカリはラウンジで待機を。キョウスケとマジマは、彼女についていてください。マジマは冥瘴鍵をチラつかせるのを忘れずに」

「そんなチンピラの拳銃みたいな扱いでアフターマン除けにできんのかよ」


 ぶつくさ言いながらも、マジマはアカリ達と一緒に退出する。アカリはどうやら嬉しさのあまりスキップをしていた。弾んだ声で『じゃーミライー、またあとでねー!』と言うあたり、地球行きよりも、ミライと離れることの方が辛かったようだ。


「……あの、ノノ総裁」


 アカリ達が部屋を退出したあと、ミライが恐る恐る尋ねる。


「すいません、アカリのやつ、勝手で……」

「構いません。彼女の精神状態が安定する方が大事です。それよりも、あなたこそ申し訳ないことをしました。自由意思を奪うような流れになってしまいましたが」

「僕はまぁ……。地球に特に興味がない、っていうのも、本当のことですし……」


 頭を掻き、視線を逸らすミライ。


 地球に興味がないというよりは、どちらかというと、現実世界に対して執着がないというようにも見えた。ジュピター・チルドレンである彼は、生態量子回路で直接様々な情報にアクセスできる権限を持つ。だから、ネットワーク上にある情報はすべて、自分の知識のように引き出せるのだ。未知ではないものに興味はない。そういった様子がうかがえる。


 では、これはどうだろう。


「ミライ、これからのことを考えると、あなたに説明しておかなければならないことがあります」

「なんですか?」


 未知の情報に対し、彼はどのような態度を示すのだろうという興味があった。


 だがもちろん、そうした好奇心だけで、重要な情報を漏らすわけではない。アカリの情緒を安定させるために、ミライが不可欠になる可能性があった。で、あれば、彼はもはや、部外者ではない。

 少年の顔を前から見据えて、ローズマリーは告げた。


「先ほど検討中であったと言った、アカリが狙われる理由についてです」

次回更新は2017年4月1日です。

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