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ep.01 僕たちの地球が見たい

「地球には〝土〟というものが、あるらしい」

「そんなの知ってるよ」


 仲間たちのやり取りを、横に聞きながら、ミライ・ノイマンは期待に胸をふくらませていた。


 なにしろ、アドヴァンスド・ミライ・ネットワークの中でしか見たことのない〝地球〟が、間近に迫っているのである。いかにドライブ技術の発展が、仮想空間におけるリアリティを極限まで追及したと言ったところで、やはりどこかに〝偽物である〟という意識がある以上は、そんなに深くは楽しめない。


「だいたい、土なら木星軌道のステーションにもたくさんあったじゃない」

「でも全部バイオボックスに入っててさぁ……」

「やっぱ〝リアル・アース〟みたいな感じなのかなぁ」

「そりゃそうよ」

「えー、違うよ。もっとこう……」


 木星軌道上のステーションで育った仲間たちの想像は、尽きることがない。


 ミライや彼と同世代の少年少女は、いわゆるジュピター・チルドレンの第五世代と言われる子供達だ。地球人の活動圏がアステロイドベルトに到達したのがおよそ150年前、木星の衛星軌道上にステーションを建造し、新たなる資源採掘のための足場としたのが100年前。その100年前、希望に燃えてやってきた木星移民船団の子孫が、ミライ達だ。

 ミライの祖父や祖母達も、大多数が、既に地球の大気の味を知らない。およそ80年前、アステロイドベルト上に建国された国家群が独立を宣言し、地球連邦政府と睨み合いになったためだ。抗争は、ラグランジュポイントから火星付近にまで点在するコロニー群を巻き込んでいき、人類史上初の宇宙戦争を引き起こした。


 が、それもまぁ、10年も経てば沈静化し、アステロイドベルトの豊富な資源をバックに戦い続けた独立国家群も、ミライ達が生まれる頃にはようやく音を上げ始めていた。ミライ達がジュピター・チルドレンとして初めて、地球の土を踏めるようになった背景には、そうした歴史的な事情が存在する。


「ねー、ミライー」


 隣の席から覗き込むようにして、少女が声をかけてくる。


「ずっと静かにしてるけど、どうしたの? 酔った?」

「別にいつも通りじゃない。僕は楽しんでるよ」

「そぉー?」


 アカリ・ヤムチャコは、第七ジュピターステーション居住区の、隣の家で生まれた、いわばミライの幼馴染である。居住区と言っても、ジュピターステーションはその生存性のため、快適性を犠牲にせざるをえないところがあり、300年ほど前に初めて建設されたISS、いわば国際宇宙ステーションに近いものとなっている。さすがに重力発生装置くらいは備えているのだが、それでも青々と茂る草木や、土の匂い、川のせせらぎなどというのは無縁の空間だ。


 だからこそ、ジュピターステーションでは娯楽としてアドヴァンスド・ミライ・ネットワークが栄えた。ワープ通信によって地球のサーバーとやり取りが出来、ネットワーク内でやり取りされるいくらかのオンラインゲームタイトルは、彼らの知らない草木や土や川などの存在を教えてくれる。


「あたしね、おじいちゃんやおばあちゃんから、地球の土をお土産に持ってきてくれって言われてるの」

「まるでコーシエンだね」

「なにそれ」

「かつて地球では、コーシエンというところに行くとその土を持って帰る文化があったそうだよ」

「へー。地球では土なんていっぱいあるのにね。変なの」


 ところがどっこい、その〝土〟にもいろいろあるのだ。ジュピターステーションのバイオボックスで見られる〝土〟はいわゆる植物の栽培に適した種類のものなのだが、もっとサラサラしたのとか、ねばねばしたのとか、地球にはいろいろな種類の〝土〟がある。この辺は、ゲームで〝普遍的な地球〟のイメージにしか触れてこなかったジュピターチルドレンは、なかなか興味を持てないだろうし、知らない部分だ。


 ミライは割と、そうした知識を持つことで優越感を得るタイプである。暇さえあれば、アドヴァンスド・ミライ・ネットワークにアクセスして、様々な知識を引き出していた。


「でも地球の土には、地球でしか住んでいない細菌とかがいるから、途中で殺菌しなきゃいけないかもね」

「えー、なんかそれ、やだなぁ」

「バイオボックスの土も、もとは地球に土だったらしいけど、やっぱ100年も経つと独自進化してたりするみたい。船に乗るとき、僕たちも殺菌消毒したでしょ?」

「ミライの話は、夢がない! つまんない!」


 アカリは唇を尖らせる。そんなことを言われても、と、ミライは思った。


 ミライだって地球が楽しみなのは事実なのだ。いや、アカリや仲間たちよりも具体的な知識を持っている以上、彼らよりはるかに期待を抱いている自信がある。ただ、知識を持つモノとしての冷静な視点が、時として彼らには興ざめに感じるらしく、そうした時ミライは妙な疎外感を感じてしまう。


「ナンセンス」


 自分の中の寂しさを紛らわせるために、ミライがぽつりとそう呟いた時だ。


『艦内の皆様にご連絡を申し上げます』


 艦内アナウンスから、野太い男の声が響いた。艦長だ。ジュピターステーションのターミナルを発つ時にも、挨拶があった。


『現在、当艦はアステロイドベルトの中を順調に航行中ですが、今しがた、緊急性の高い救難信号を感知いたしました。皆様はご存知のことと思いますが、宇宙間航行規定に従い、当艦はこれよりそちらの救出を試みます。到着には、若干の遅れが生じる可能性がございますので、ご了承くださいませ』

「救難信号だって。大丈夫かなぁ」


 アカリの声は、本気で心配するような色合いをにじませている。ミライはなるべく慎重に答えた。


「この付近、独立戦争の名残でまだ宇宙海賊がいたりするから、それにやられたのかもしれない」

「うーん、無事だといいねぇ……」


 本来ならば、救難信号自体が宇宙海賊の罠の可能性もあるので、アステロイドベルト付近で安易な救助活動に走るのは迂闊である。宇宙間航行規定を無視して、救難信号を放っておく事例も多いと聞いていた。

 が、この輸送客船の艦長は、経験も豊富な百戦錬磨の宇宙の男である。そう簡単に、ポカはやらかさないだろう。ミライは、まったく代わり映えのしない宇宙空間の様子を窓から眺め、そのように考えていた。





 ブリッジには、にわかに緊張が走った。目測にして、距離約1万2千。アステロイドベルトの中を漂いつつ、救難信号を出しているその船は、数日前に火星を発ち行方不明になっていたと聞いた調査船そのものであったのだ。データ照合の結果、型式番号と製造番号までが一致する。

 しかし、なぜ火星から地球に向かったはずの調査船が、反対方向のこちら側で発見されるのか。不可解な状況から、ブリッジには混乱が走る。しかし、船が救難信号を発しているのは事実であって、これを無視するのもまた、人道的見地からはばかられた。


 ブリッジクルーの視線が艦長に向けられる。立派な口ひげを蓄え、普段は好々爺然とした艦長も、この時ばかりは険しい表情を見せていた。


 その折、不意にブリッジと通路をつなぐ扉が開く。関係者以外の立ち入りを厳重に禁じているはずのこの空間に、ほかのクルーとは全く違う服装の女性が姿を見せた。スーツ姿の女性は栗色のポニーテールを揺らし、軽く一礼をする。


「お疲れ様です、艦長」

「ノノ総裁。何か、ありましたか?」

「いえ、」


 巨大なメインビジョンに映し出された調査船の姿を見て、ローズマリー・ノノは表情を曇らせた。


「失礼ながら、艦の通信情報を確認させてもらいましたところ、この船の姿を認めましたので」


 傍受したということではないのか。通信士が複雑な顔を作っている。木星開拓のスポンサーであるツワブキ財団総裁といえど、許されるようなことではない。が、艦長が何も言わなかったので、通信士も黙らざるを得なかった。


 第二世代以降のジュピターチルドレンには、いわゆる生体量子回路は組み込まれている。これによって、より少なく小さい機材を用いてアドヴァンスド・ミライ・ネットワークにアクセスができる、いわば簡易的な生体改造手術の結実だ。当然、この生体量子回路を悪用すれば、ワープ通信空間への不正侵入も可能なわけで、そうした行為は木星条例で厳重に禁止されている。

 しかし、ツワブキ財団の総裁ローズマリー・ノノに備わっているのは、生体量子回路とも少し異なる通信機能だ。それを知るものは、この場においては艦長しかいない。


「艦長、当艦はあの調査船の乗組員、および積み荷の救助を行う。そうですね?」

「まぁ、そうなりますな。多少、不穏な要素はありますが……」

「わかりました。艦長の決定には意を唱えません。ですが、細心の注意を払うようお願いします」


 ローズマリーの言葉に、艦長は眉根を寄せた。


「総裁は何かを知っておられる?」

「知ってはいますが、すべてを語るには時間がないでしょう。特に積荷には注意してください。六枚のモノリスがあるはずです」


 それは、艦長を含めた多くのクルーが知っていることだ。ニュースでも流れていた。


「そのモノリスの状態如何によっては、積荷の放棄を要求したい、と?」

「いい勘をお持ちです。艦長、聞き入れていただけるのであれば、私はそうしたいと思っています」


 ともあれ、そうしたやり取りの最中にも、調査船との距離は近づく。救助艇を出せる距離まで近づいたこともあって、ひとまず、そちらの報告を待つ流れとなった。

 救助艇には、宇宙救命士が三名、および海賊の罠だった場合に備えて訓練された木星自警団の兵士が三名乗り組んでいる。ローズマリーの険しい表情が、ブリッジクルーの緊張感を高めていった。だが、救助艇が調査船に取り付き、数十分後である。奇妙な情報が、ブリッジにもたらされた。


「モノリスがない?」

『はい。船内には衰弱した調査船のクルーが7名。いずれも命に別状はありませんが、積み荷の中に報道されていたようなモノリスは見つけられませんでした』

「………」


 ローズマリーが考え込む。艦長はそれを横目に見て、このように声をかけた。


「ノノ総裁、ほかの積み荷は、普通に回収して構いませんな?」

「はい。結構です。ただ、やはり細心の注意を払うようお願いいたします」


 遺跡で発掘されたモノリスに、どのような秘密があるのだろうか。ローズマリーが語らない以上、それを知るすべはブリッジクルーには存在しない。艦長は指示を出し、そこからさらに十数分後、救出における全ての作業工程を終了させて、救助艇は艦内に帰投した。衰弱した調査船のクルーは、7人が7人、メディカルルームへと搬送される。


 やがて、艦長が救助終了の旨を告げる艦内アナウンスを流したが、そのときに至るまでローズマリーは険しい表情を作ったままであった。





「結局、酔ってんのってアカリの方じゃん……」

「ううぶー……。かたじけない……」


 救助完了のアナウンスが流れ、輸送客船は再び地球を目指しての航行を再開した。燃料には余裕を持たせているため、そのあたりの心配は必要ない。ただ、ミライは隣の席のアカリが顔を真っ青にしているのを見て、別の意味で気を揉まなければならなくなった。


 宇宙酔いしたアカリに肩を貸して、メディカルルームへと連れて行く。救助されたばかりの人でごった返しているだろうが、まぁ酔い止めをもらうくらいはいいだろう。


「失礼しまーす……」


 ドアが開き、そっとメディカルルームの中に入る。白衣の担当スタッフがせわしなく動き回る中に、一人だけ青いスーツ姿の女性が立っていた。どこかで見た顔だな、と思いつつも、ミライはそれを思い出せない。スーツの女性は険しい表情を作り、腕組みをしたままベッドに並べられた7人の男女を眺めていた。おそらくは、救助された船のクルーだろう。


「ミライ……やばい、吐きそう……」

「が、我慢してよ……」


 口元を抑えるアカリに、いつもの可憐な様子は見られない。ミライはいつ艦内の床を汚さないかハラハラしながらも、メディカルスタッフから酔い止めの薬をもらう。ここはそうそうに退散しておいたほうがいいだろう。


「なんか、大変そうだったねー……」


 客席に戻る途中の通路で、アカリがそんなことを言った。


「でも、命に別状はなさそうだったよ」

「そーなんだ。よかった」


 通路の途中に給水スポットがあるので立ち寄った。手渡された錠剤を口に含んで、アカリが水を飲み干す。


「というか、まだ錠剤なんだ……」

「古いけどその分実績があるってことだから……。船に積まれてる薬はまだほとんど錠剤だよ」


 薬がすぐに効いてくるなどということはありえないのだが、プラシーボ効果もあってなのか、アカリの顔色は若干良くなった。こういう時は、彼女の単純さというか、わかりやすさというか、そういったものが羨ましい。

 少しばかり元気になったアカリは、先ほどのメディカルルームに運ばれていた7人のことをやたらと気にかけていた。顔色悪かったねー、とか、悪いもの食べたのかなー、とか。そんな、アカリではないのだから宇宙空間で迂闊に変なものを食べたりはしないよ、と言ったところ、彼女はあからさまに不機嫌になった。めんどくさい娘である。


 ま、これもどうせしばらくすれば放置すれば直るのだろうな、と考えていたその時である。


 通路を並んで歩いていた二人の後方で、急に何かが弾ける音がした。ミライとアカリは、同時にびくり、と背筋を伸ばす。恐る恐る振り向くと、ちょうど出てきたばかりのメディカルルームの扉が、吹き飛んでいるのがわかった。


「え、な、なに……? どういうこと……?」


 アカリが表情を引きつらせてそのようなことを尋ねてくるが、当然、ミライにわかろうはずもない。

 だが、直後にメディカルルームから聞こえてきた悲鳴が、ただならぬ状況であることを告げていた。


「まずい、アカリ」


 逃げよう、とミライは告げる直前、アカリはメディカルルームの方へと駆け出していた。


「ちょっ、おいアカリっ!」

「何があったのかわかんないけど、放っておけな……うっ……!」


 威勢のいいことを言おうとして、思わず口を抑えてうずくまるアカリ。言わんこっちゃないのだ。これだから!

 ミライがアカリに追いすがり、肩を貸そうとする。そのミライの目に、メディカルルームの中から、ゆったりと姿を見せる人影が映った。それは、ベッドに寝かされていた被救助者の一人である。彼は無事だったのか、と思う心の余裕は、ミライにはなかった。その彼もまた。明らかに様子がおかしかったのである。


 全身から、やや硬質化した棘や触覚、鋏などを生やしている。吐く息も荒く、彼は周囲をぎょろぎょろと見渡し、すぐに、こちらへと気がついた。その瞳はもはや人間のものではない。複眼なのだ。


 ジュピターステーションに節足動物の類は存在しない。それどころか、人間以外の生きた生物を見かけたことなど、愛玩用に作られた一部の遺伝子改造生物くらいであって、ミライにはおおよその生物については、〝知識〟でしか知らなかった。もちろん、アドヴァンスド・ミライ・ネットワーク上で生物に触れることはあったが、あれらもしょせんリアルではない。

 ミライの知識をたどる限り、あれは地球上に生息するいくつかの昆虫の特徴を、ない交ぜにしたものであるかのように思えた。


 だが、彼は人間だ。人間であったはずだ。


 異形と化した男は、こちらを向けて嗜虐的な笑みを浮かべている。正直、ミライはぞっとした。アカリは口元を覆ったまま臥せっている。彼女を連れたまま、果たして逃げられるだろうか。それでも、置いていくなんて選択肢は、ありえないか。

 ミライはアカリに肩を貸して、立ち上がる。こちらの逃走の意思を図ったのだろうか。異形は背中に翅を広げた。


 メディカルルームから、もうひとつの人影が飛び出したのはその直後だ。


 先ほど見かけた、青いスーツの女性である。彼女は栗色のポニーテールを揺らし、怪物へと飛びかかった。正確には、飛び蹴りを見舞った。黒い革靴が異形の頬を叩き、彼の姿が艦内の白い床へと転がる。だが、偉業はすぐに立ち上がった。

 女性は、ちらりとこちらを見る。だが、一瞬だった。すぐに視線を怪物へと戻した。


 女性が次に唱えたのは、不可思議な呪文である。


「フラクタライズ・サーバーの仮定構築を開始」


 その直後、彼女の周囲に次々とホログラフ化されたデータ情報が展開された。それを見て、ミライはハッとする。知っていたのだ。


 フラクタライズ・サーバー。およそ300年ほど前に提唱されたフラクタライズ理論に端を発した、量子力学における異端中の異端である。理論を実現するには途方もない情報量の制御を要し、実用は極めて難しいとされていたが、今のところ人類の活動圏においてひとつだけ、その制御を可能とした団体がある。


 ツワブキ財団。いま、ミライの目の前にいる女性は、まさしくその総裁、ローズマリー・ノノであった。


「フラクタライズ・サーバーの仮定構築を完了。バトルチップの転送を開始、」


 ローズマリーは周囲に展開される凄まじい情報量を、言葉と、指先と、そして量子波によって完全に制御していた。凄まじい勢いで仮定構築されたサーバーに、情報がインストールされていく。

 果たして異形は、その完成を待たない。駆け出し、ローズマリーに襲いかからんとするのだが、彼女は平然としたものだった。


「バトルチップ・ガイストをダウンロード」


 異形の鋏が振り下ろされる。刹那、ローズマリーの手に、黒い直剣が出現した。彼女は剣を振り上げ、鋏による一撃を防ぐ。


 これは、まさか。

 ミライは思った。かつて、アドヴァンスド・ミライ・ネットワークにアクセスしたとき、サーバー内で迷子になったことが一度だけある。その時、彼が知らずにたどり着いたデータの塊があった。後になって、彼はそれをツワブキ財団のデータベースであると知るのだが、今まで誰にも話したことがなく、ずっと心の中に封じてきたのだ。

 その時に閲覧した情報の中に、フラクタル・ミライヴ・システムと呼ばれるものがあった。

 フラクタライズ・サーバーを経由した、電脳空間上データベースのリアライズ。それを可能にするのが、フラクタル・ミライヴ・システムだ。サーバー内における仮想データの自己増殖と、それによって引き起こされるデータ・エントロピーの増大によって、意図的にフラクタライズ・エラーを引き起こす。


 いま、目の前で展開されているのは、まさしくそれであった。


 目の前に暴れている異形が何であるのか。なぜ、ツワブキ財団の総裁が、それと正面から渡り合っているのか。フラクタル・ミライヴ・システムとは、いったい何のために構築されたシステムであるのか。

 ミライは憶測を巡らせるが、刻一刻と変化する状況がそれを許さない。メディカルルームから出てきた異形は、昆虫男だけではなかったのだ。いずれも、地球に住まう生物の特徴を備えた男女が5人、ぞろぞろとメディカルルームから出てきて、ローズマリーを取り囲む。


 ローズマリーは動揺しなかった。片手を素早く動かして、ホログラフ・キーを叩く。コマンドワードが、フラクタライズ・サーバーに次なる動作を促した。


「擬似アカウント情報のインストールを開始、」


 彼女の口元に浮かんだ笑みと、瞳に宿した一抹の寂しさの所以を知る者は、ここにはいない。


「アカウントユーザー、〝セラ・キリュウ〟」

次回の投稿は、2015年の4月1日を予定しています。

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