エレナという王女01
王立魔法学院は実力主義故に実力者にしか卒業というモノは無い。
一過生は三年で魔術を覚えられなければ強制退学。
しかも麻薬でボロボロの体になって魔術の研鑽以外を知らない人間を放り出してアフターフォローもない。
二過生は三年で進級できなければこれまた強制退学。
これにもアフターフォローはない。
三過生及び四過生は望めば状況によって卒業できるが、基本的に霧の国の戦力として利用するため……そして学院が発言権を高めるため……保護される身だ。
卒業証書を手に入れるのは王侯貴族お抱えの魔術師にスカウトされたり学院の教授になったりする者だけだ。
ちなみに一義はパワーレールガンを認められて四過生ではあるが、将来の展望については何も考えていないため今のところ卒業する予定は無い。
ので、学院に保護される身だ。
それはかしまし娘も同様で、および西方ハーレムたちも同様だった。
前に一度、一義はビアンカに、
「教授になんないの?」
と聞いたことがある。
答えて曰く、
「教授になるための勉強をしているところです」
と返された。
つまり学院の教授になるために魔術や教養の講義を受けて身につけている最中ということだった。
ビアンカは殺竜の魔術によって霧の国の軍属であり……もっとも学院の生徒であるという時点で軍属なのだが……中佐の地位を得ている。
ドラゴンバスター。
それはビアンカの異名にしてビアンカの魔術でもある。
殺竜の魔術師の名の通りドラゴンを狩るための魔術ではあるが、あまりに威力が強すぎるため霧の国と険悪な鉄の国……その軍隊への牽制として学院にいるのだった。
もっとも劣等生ということが劣等生に失礼なほどの究極劣等生たる一義……一番簡単にして基本でもあるライティングの魔術を五秒も維持できないほどである……に決闘で負けたことがあるのだが。
これについてはビアンカが弱いのではなく相対的に一義が強かっただけの話である。
一義のマジックキャパシティは学院の劣等生の平均……その数千分の一だ。
驚異的な才能の無さである。
そのことに対して一義は後ろめたさを持ってはいない。
「まぁなるようになるさ」
そんなことをうそぶくほどである。
ではどうして究極劣等生たる一義が四過生かというと、これは魔術とは別の一義の才能によるものだった。
閑話休題。
「くあ……」
と一義は欠伸をした。
ガシガシと後頭部を掻く。
それから、
「うーん……!」
と背伸びをして、窓から差し込む太陽の光を見る。
「昼くらいかな?」
つまり昼の今まで寝ていたことになる。
今日は学院の休日でもなんでもない。
立派な平日である。
しかして受けるべき……受けようと思っている講義が今日は無いため、
「惰眠をむさぼるから自主的に起きるまで起こさないように」
とかしまし娘に通達していたのだった。
「ああ、起きたね旦那様」
角を生やした鬼っ子……花々が一義の私室に入ってきた。
「おはよ」
「はい、おはよう」
挨拶を交わす一義と花々。
「昼食は?」
「出来てるよ。食べるかい?」
「うん」
「ではどうぞダイニングへ」
そう言ってダイニングの方向に腕を振る花々だった。
昼食は既に始まっているらしい。
ダイニングにいたのは姫々と音々と花々とハーモニーだった。
醤油の香りが一義の鼻孔をくすぐる。
今日の昼食は和風パスタ。
「おはようございますご主人様」
「おはよ! お兄ちゃん!」
「…………! …………!」
それぞれに一義に挨拶をする女の子たちに、
「はい、おはよ」
と返して、
「アイリーンとビアンカとジンジャーは?」
問う。
答えたのは姫々。
「お三方とも学院へ。アイリーン様は顧問室へ。ビアンカ様は研究室へ。ジンジャー様は新聞部の締め切りが間近であるとのことです」
「なるほどね」
それから姫々の淹れた緑茶を飲むことしばし、一義の前に和風パスタが置かれた。
「いただきます」
と犠牲に感謝して一義は食べだす。
「ハーモニーは顧問室に行かなくていいの?」
「…………! …………!」
特盛の和風パスタを食べながら何やら主張するハーモニー。
「旦那様が学院に行かないなら行く意味が無いってさ」
いつも通り花々が通訳してくれる。
「じゃあハーモニー」
「…………?」
「昼食とり終ったらデートしようか?」
「…………! …………!」
コクコクとハーモニーは頷く。
「ご主人様……それは……!」
「お兄ちゃん! ズルい!」
「旦那様……あたしたちは無視かい?」
銀色と黒色と赤色の美少女が不満を述べる。
「君たちとは後日……ね?」
そしてパスタをアグリと食べる一義。
「「「むう……」」」
とかしまし娘は不満げに沈黙した。




