一義の憂鬱06
一義たちは夕食を前にして喫茶店に寄った。
姫々とアイリーンとが大都市シダラの市場に夕食の材料を調達に向かっていて、一義と音々と花々とビアンカとジンジャーとハーモニーで茶を満喫しているところだ。
「まさか一義が四過生とは……」
青色のネクタイをした……三過生の証である……燈色の美少女ジンジャーがハーブティーを飲みながら毒づいた。
「当然だろう」
これは花々だ。
花々は額から伸びる角を弄りながら誇らしげに言う。
「そもそもにして旦那様が二過生というのがおかしな話なのだ」
確信を持った花々の言葉に、
「一過生で十分だしね」
一義が言葉を被せる。
そしてアイスコーヒーをストローで吸う。
「なんでそう自虐的なんですの?」
ビアンカが、
「わからない」
と問う。
対して一義は、
「力を認められれば頼りにされるからだよ」
至極真っ当なことを言う。
当然である。
武力とはそのためにあるのだから。
しかして一義の見解は違った。
「霧の国と鉄の国の国境なんて些細な問題だよ」
しがらみをしがらみと割り切った上でそう言ってのける。
「そんなことに命を使い潰される兵士たちこそ良い面の皮だ」
それは侮辱にも値したが罰する者はここにはいない。
「…………」
ハーモニーは我関せずと紅茶を飲む。
「では一義は力を否定すると?」
そんなジンジャーに、
「まぁね」
言い切る一義。
「しかして力無くして平和も無いでしょう?」
この反論はビアンカだ。
「まぁね」
一義はコピペする。
コーヒーを一口飲んで、
「話し合いで済まない段階があることは否定しないよ」
一義は朗々と言葉を紡ぐ。
「でも……それでも力はエゴイズムだと僕は思う」
自嘲気味に。
「自身を否定してるってことに気付いてる?」
そんなジンジャーに、
「無論」
躊躇いなく一義。
コーヒーを飲む。
「ところで」
ビアンカが話題を変えた。
「一義を学院の教授に迎えようとする動きがあるそうですけど真偽のほどは如何に?」
「事実だよ」
不快気に目を細める一義である。
「鉄血砦の一件が響いているそうですわね?」
「否定はしないよ」
「実際鉄の国は一義を欲していると聞きましたわ」
「否定はしないよ」
「まぁ鉄の国は置いておくにしても、どうするんですの?」
「何をさ?」
「学院の教授になるのかって話ですわ」
「そんな器量だと思う?」
自嘲気味に言う一義に、
「少なくとも生徒は集まると思いますわよ?」
ビアンカは確信を持って答えた。
「だからって……ねぇ……?」
一義は他人事のように呟く。
「お兄ちゃんならそう言うね!」
「旦那様は淡白だ」
これは音々と花々。
一義はコーヒーを飲む。
「納得いかない」
とジンジャーが眼で語る。
「一義は教授にならないの?」
「まぁね」
「勿体ないな」
そんなジンジャーの言葉に、
「僕が人に道理を教える立場にあると思うかい?」
苦笑して一義は問う。
「少なくとも劣等生にとっては希望の星かと存じますけど」
「重荷だね」
快刀乱麻だった。
「強くなりたいなら勝手にやればいい。そこに僕の介入する余地は無いよ」
本心から一義は言を紡いだ。
「教授にはならないと?」
「今のところはね」
苦笑する。
「一生徒の立場で十分だ」
紛れもない一義の心情だ。
「ふぅん?」
とジンジャーは頷く。
「それでこそお兄ちゃん!」
「まったくだ」
音々と花々が賛美した。
「仮に鉄の国が進攻してきたらどうするんです?」
皮肉気なビアンカの問いに、
「真っ先に逃げる」
一義は躊躇なく答える。
「…………」
一人取り残されたハーモニーは茶を啜るのみだった。