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王立魔法学院入学式とその後09


 昼食を終えて一義とかしまし娘はジンジャーと別れて帰路についた。


 霧の国の王都であるミストに次いで規模の大きい規模を持つ都市……シダラ。


 それはひとえに王立魔法学院の存在が大きい。


 人が集まれば村となり、村が発展すれば都市となり、都市が発展すれば市場が出来る。


 多くの魔法学院の生徒が宿舎に入って魔法学院を登下校するため、魔法学院の周りには大きな市場が成っていた。


 魔法学院の生徒たちは登下校の際に市場を通ることになる。


 食欲をそそるじゃがバターの匂い。


 香しい花の数々。


 リットル単位で売られている新鮮な牛乳。


 香り高い茶葉の匂いも漂ってくる。


 そんな市場の通りを歩きながら、


「和の国にはない活気だね。さすがは王都に次ぐ規模を持つシダラだ。王立魔法学院がある限り、この市場は流動性を保つのだろうね」


 一義がそう評す。


 キョロキョロと市場に溢れる雑貨や食べ物を見ながら歩いていると、


「ご主人様……夕食に食べたいモノはございますか……?」


 姫々がそう聞いてきた。


「ん~? 姫々に任せるよ……」


 一義は考えを放棄する。


「では……シチューなどどうでしょう……?」


「ああ、いいんじゃないかな。朝、昼と東方食だったからね。夕食くらい西方食でもいいんじゃないかな」


「そうですか……。では夕食はシチューということで……」


 頷く姫々。


「まぁ昼食を食べた直後に夕食の話なんてしなくていいじゃん! それよりあそこのケーキ屋さん美味しそうじゃない? 入ってみようよ!」


 そう言ってケーキ屋を指差す音々。


「それこそ昼食後に言うことじゃないと思うけどね」


 苦笑する一義。


「いいじゃんいいじゃん! 乙女にとって甘味は別腹だよぅ! 是非とも西方の甘味も試してみたいね!」


「じゃあ入ろうか」


「うん! だから大好きお兄ちゃん!」


 嬉しそうに一義に抱きつく音々だった。


「こら……音々……時間も場所もわきまえずご主人様に抱きつくんじゃありません……」


 姫々がそうたしなめると、


「姫々……嫉妬?」


 音々はニヤリと笑う。


「そ……そういうわけでは……」


「焦ってる焦ってる!」


「そんなことありません……!」


 頬を赤く染めて反抗する姫々。


「ま、何はともあれ西方の甘味は東洋とは別物と聞く。ならば旦那様にとっても、あたしにとっても、十把一絡げにとっても貴重な体験となるだろう」


「誰が十把一絡げですか……!」


「花々なんかにお兄ちゃんは渡さないんだから!」


 そんな花々の挑発に、一義に寄り添って、


「ガルル……!」


「フシューッ!」


 と花々を威嚇する姫々と音々だった。


「……とりあえず」


 パンと一拍する一義。


「今のところ夕食の話をする必要はないし、ケーキ屋さんに寄ることにしようか」


「はい……。ご主人様の言うとおりに……」


「お兄ちゃんの言葉通りに!」


「旦那様の言うままに」


 そんなこんなで……その日の午後の時間をケーキ屋で過ごす一義とかしまし娘だった。




    *




 その日の夜。


 かしまし娘が揃えた食材を元に姫々がシチューを作って、それを皆々で食した後に、


「ふう……」


 一義は風呂に入っていた。


 風呂は大陸東方では当然の文化であるが、大陸西方では非常に珍しい文化である。


 とはいえ例外として温泉の湧く土地では風呂の文化は存在する。


 王立魔法学院を擁するシダラにも温泉は湧き、シダラにも二、三の共同浴場があるが一義はエルフ……東夷ということで入浴は拒否されるのだった。


 そんなわけで一義とかしまし娘は風呂の設置されている宿舎を故意に選んでそこに住んでいる。


「ふい~。やっぱりお風呂は最高だね。人の文化の臨界を極めたるもの……つまり風呂だね……」


 そう言ってお湯に肩までつかる一義だった。


「そうですね……。ご主人様……」


「いい湯だね! お兄ちゃん!」


「ああ、まったくだよ。旦那様……」


 ビキニの水着を着た状態でそう返答するかしまし娘だった。


 姫々は程よく発達した体つきで、音々はツルペタの体つきで、花々はスイカップの持ち主である。


 三者三様の体つきに、一義の視線は狼狽えたようにあちらこちらと彷徨う。


 ちなみに一義も水着を着ている。


「……ていうか今日は僕……一人になりたいって言わなかったっけ?」


 ジト目でかしまし娘を睨む一義に、


「ご主人様の背中を流すのが……わたくしの使命でありますれば……」


「お兄ちゃんと一緒にお風呂に入りたかったんだよぅ!」


「あたしも旦那様とお風呂を共にしたいと思ってね」


 かしまし娘は照れたように言うのだった。


「まぁ……その気持ちは嬉しいけどさ……」


 一義は頬を赤く染めて後頭部をガシガシと掻く。


 それはお湯にのぼせたばかりではなかったろう。


 宿舎の風呂に浸かって、髪と体を洗うと、一義とかしまし娘は風呂を出た。


 そこで躊躇いなく水着を脱ぎ、タオルで体を拭うかしまし娘を見ないようにして一義は自身の体をタオルで拭う。


 そこに、


「ご主人様……我慢する必要はありませんよ……? 性欲が溜まっているのならわたくしにぶつけて構いません……」


 姫々がモデル体型を強調して挑発するように言う。


「……構うから」


 うんざりと一義。


「お兄ちゃんは奥手だからね! 音々のロリボディは中々いいと思わない?」


 音々がロリータボディを精一杯見せつけて挑発するように言う。


「……思わない」


 うんざりと一義。


「旦那様……溜まっているのならあたしを使って構わないよ? そのためにこそあたしはいるのだから……」


 花々がスイカップを持ち上げて挑発するように言う。


「そんなことのために花々を従わせているわけじゃないんだけど……」


 うんざりと一義。


 それから一義は素早く体と髪とを乾かして、脱衣所を出る。


「あの挑発さえなければまだまともなんだけどね……かしまし娘は……」


 そう言った後、はたと一義は真実に気付く。


「その原因は僕……か……。やっぱり……」


 やっぱりガシガシと後頭部を掻く一義であった。


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