パワーレールガン04
そして三日後。
王立魔法学院のコロシアムの準備が整い、一義と代表七名の決闘が行なわれるのだった。
観客席は満員。
客は鉄血砦を陥落せしめた矛盾の魔術師の力をその目で見たいがために集まったようなものである。
「誰もが僕の勝利を確信しているはずだね」
と一義は言った。
場所はコロシアムの控室。
一義はリラックスして座っていた。
姫々と音々と花々とアイリーンとビアンカとシャルロットとジンジャーとハーモニーも控室にいるのだった。
「旦那様、勝算は?」
そんな花々の言葉に、
「それを君が聞くのかい?」
嫌味で返す一義。
「一義は矛盾の魔術を使うのですか?」
そんなアイリーンの問いに、
「今回は使わないよ」
一義は肩をすくめてみせる。
「それで勝てるんですの?」
とビアンカに
「うん。まぁ……。多分……」
曖昧な一義。
「…………」
ハーモニーが一義の袖を握る。
「大丈夫だよ。無傷で勝って帰るから」
よしよしとハーモニーの頭を撫でた後、一義は、
「姫々」
と姫々を呼んだ。
「何でしょうご主人様」
そんな姫々に、
「銃弾を取り出せる?」
そんな注文を出す一義だった。
「それは……無論……」
「じゃあ出して」
「銃弾だけですか? 銃は必要ではありませんの?」
「さすがにマスケット銃を七つも持って戦場に赴くわけにはいかないよ」
一義は苦笑する。
「ご主人様がそう仰るなら」
と言ってハンマースペースから銃弾を十四個取り出して一義に渡す姫々。
「火薬も持たず……銃も持たず……銃弾だけ持ってどうするつもりなのかな?」
とこれはシャルロット。
「それは決闘が始まってのお楽しみ」
一義はウィンクすることで応えた。
「死んじゃ駄目ですよ一義……」
とジンジャーが心配そうに言ってくる。
「大丈夫だよ! お兄ちゃんは最強だから!」
「うむ。旦那様は無敵だ」
音々と花々がフォローする。
「そういうこと」
と一義自身も頷く。
そして、
「一義さん……決闘場までお越しください」
と案内人に呼ばれて一義は腰をあげるのだった。
*
一義が決闘場に顔を出すと、
「来たぞ! 矛盾だ!」
「肌が浅黒い……!」
「髪が白い……!」
「なんて邪悪な姿だ……」
そんな声が一義の上に降りかかった。
「散々な言われ様だね……まったく……」
やれやれと一義。
もっとも、好意的な声もちらほらとは聞こえてくる。
難攻不落にして鉄の国の軍事拠点であった鉄血砦を陥落させた霧の国の英雄たる一義を憧憬する人間も少なくはないのだ。
一義は王立魔法学院の制服のポケットに手を入れて、ジャラジャラと姫々の具現化した銃弾をもてあそび、決闘場の中央まで足を運ぶ。
「逃げずに顔を出したことは褒めてやる」
代表七名の内の一人が腐臭のする笑顔でそう言った。
「お褒め預かり恐縮だね」
肩をすくめる一義だった。
まるで気負いというモノが無い。
強者の貫録だ。
そして一義は七名の自称ハーレム親衛隊の代表と握手を交わした後、五十メートルの距離まで離れて決闘の開始の合図を待った。
そして審判が、
「始め!」
と叫ぶと同時に緊張が一義と七名の代表者……ばかりか観客まで迸った。
次の瞬間、
「「「ファイヤーボール!」」」
と七名の内三名が火球を魔術で生み出し一義に向けて放った。
一義はパチンと指を鳴らす。
そして三つのファイヤーボールは斥力の壁によって反射させられて対応できなかった術者をこんがりと焼いた。
それに怯んだ残りの四名目掛けて一義は手に持った銃弾を《加速させて発射》した。
五十メートル先のファイヤーボールを撃たなかった四名の太ももを銃弾が貫通する。
「「「「ぐ……が……!」」」」
銃弾で太ももを撃ち貫かれて体勢を崩す四名。
そして立っている者は一義だけとなった。
自身の魔術によってこんがりと焼けた代表者三名。
一義の弾丸によって太ももを撃ち貫かれて戦闘不能になった代表者四名。
こうしてあっさりと決闘は終わるのだった。
*
決闘後、一義とハーレムたちは学院の食堂で昼食をとっていた。
「で?」
とシャルロットが問う。
「何さ」
と一義が答える。
「アレはどういうことだい?」
「質問が抽象的すぎるよ」
「火薬も銃身もなく姫々にもらった弾丸を加速させて撃ち貫いたことだよ。僕が聞いているのはね」
とシャルロット。
「それは私も疑問に思いました」
「音々も!」
「あたしもだね」
「私もです」
「わたくしもですわ」
「私もだよ」
「…………!」
シャルロット以外の人間もシャルロットに追従した。
「原理としては簡単だよ?」
野菜スープをスプーンですすりながら一義は言う。
「して? その原理とは?」
「反発による加速。僕が斥力を操るのはシャルロットは知っているだろう?」
「しかして姫々と音々と花々を具現している以上、君の斥力の展開は弱々しいものであるはずだ」
それは当然の疑問だった。
魔術によって姫と音々と花々を具現化している今の一義は常人の数千分の一のマジックキャパシティしか持ちえないのだ。
故に斥力による加速は弱々しいものになるのが必定。
「だから多段的に加速した」
一義は軽い調子でそう言った。
「多段的に加速……?」
眉をひそめるシャルロットに、
「うん。多段的に加速」
頷く一義。
「どういうことなんだい?」
「つまりね。段階を踏んで連続的に斥力場を発生させて銃弾に干渉、結果として超音速まで加速させたんだよ」
どこまでもあっさりと言う一義に、
「っ!」
シャルロットは絶句した。
当然である。
一義の言っていることは滅茶苦茶な内容であるからだ。
銃弾を斥力場を使って多段的に加速と言うのは簡単だが、実際の困難さは想像を絶する。
凄まじい脳のハイスピードスイッチに完璧な空間把握能力、瞬発的なタイミング管理に連続的な斥力場具現が必要となる高高度な技術の結晶だ。
常人ではまずありえない発想である。
「火薬を使って瞬発的な加速をするのではなく段階を踏んでレールで流すように銃弾を加速させる技術だね。そうだね……であるからレールガンとでも名付けようか。斥力場によってレールガンを放つからパワーレールガンとでも呼ぶのが正しいかな?」
一義は軽くそう言うのだった。
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
ハーレムたちは絶句する他ない。
それほど桁外れの精度を持った技術であるからだ。
「ま、魔術を制限された僕のささやかな奥の手だよ」
一義はそう謙遜して黒パンを千切って口に含むのだった。
後にパワーレールガンによって一義は四過生に昇進するのだが、それはまた別の話となる。