パワーレールガン02
そして王立魔法学院にも放課後が来る。
ジンジャーは部活と研究室に行かねばならないため戦線離脱したが、それ以外のハーレムたちは一義にぴったりついてきていた。
一義の右腕に音々が抱きつく。
一義の左腕に花々が抱きつく。
一義の背中にハーモニーがおんぶの形で乗る。
姫々とアイリーンとビアンカとシャルロットは一義の後ろをついて歩いていた。
ちなみに今一義たちが歩いている場所は市場である。
市場に売られているモノをしげしげと眺めやりながら、
「それで姫々……」
と一義は問う。
「今日の献立……決まった?」
「東方と西方……どちらの料理をお食べになりたいでしょう?」
「ん~、なら西方」
「ではパスタなどどうでしょう?」
「この前作ってもらったチーズとクリームのパスタは美味しかったな」
「ああ……あれはアイリーン様にご教授を受けて作ったモノです……。称賛ならば私ではなくアイリーン様にお願いします」
「だってさ。ありがとアイリーン。美味しかったよ」
「あ……う……どうも……」
アイリーンは真っ赤になって、プシューと煙を頭部から吐き出した。
一義はくつくつと笑う。
「純だね……アイリーンは」
「恐縮です」
謙遜するアイリーン。
「音々も! 音々も純だよ!」
「旦那様、あたしも純だよ」
「図太く設定したはずだけどなぁ」
一義はそうからかう。
「「むう……」」
と音々と花々は言葉を失う。
そして一義とハーレムは市場をまわってパスタの材料を買い集めた。
それからシャルロットの「お茶にしないかい?」という提案によって一義たちは喫茶店に入るのであった。
一義はコーヒーを、ハーレムたちもめいめいにドリンクを頼む。
運ばれてきたドリンクを受け取って……一義だけはウェイトレスが怯えた都合上シャルロットが代わりに受け取ったが……飲みながら四方山話に花を咲かせる。
「一義」
と一義の隣の席に座っているシャルロットが挑発的な笑みを浮かべながら自身の頼んだ抹茶オレを差し出してきた。
「飲んでごらん。美味しいよ」
「じゃあ少しもらおうかな」
何の躊躇いもなく一義はシャルロットの抹茶オレに口をつける。
「ふふ」
と心底嬉しそうにシャルロットは笑う。
まるでこれ以上の幸せなど無いかの如く。
「間接キスだね一義」
ウィンクするシャルロットに黙っていなかったのは一義……ではなくその他のハーレムの女の子たちだった。
「「「「「「ずるい!」」」」」」
の一言に尽きた。
「勘弁してよシャルロット……」
ジト目でシャルロットを睨む一義。
「~♪」
シャルロットは何するモノぞと飄々としていた。
そんなシャルロットの可愛らしい悪戯に文句をつけようとした一義の言葉を塗りつぶし、
「東夷!」
と岩を連想させる野太い声が東夷……エルフ……即ち一義を呼んだ。
一義たちは喫茶店のテラス席に座っている。
市場の通りに面しているテラス席だ。
そしてそのテラス席と隣接している市場の通り道には数えるのも馬鹿らしいほどに大量の王立魔法学院の制服を着た男子が群れていた。
「…………」
コーヒーを飲んで、それから一義は問うた。
「ええと……皆様方は?」
無数の男子に睨みつけられているというのに一義はさっぱりとしたものだ。
男子の一部が見栄をきって宣言する。
「我らは姫々ちゃんファンクラブの者だ!」
別の男子の一部が見栄をきって宣言する。
「我らは音々ちゃんファンクラブの者だ!」
また別の男子の一部が見栄をきって宣言する。
「我らは花々さんファンクラブの者だ!」
また別の男子の一部が見栄をきって宣言する。
「我らはアイリーン様ファンクラブの者だ!」
また別の男子の一部が見栄をきって宣言する。
「我らはビアンカ様ファンクラブの者だ!」
また別の男子の一部が見栄をきって宣言する。
「我らは新聞部ジンジャーちゃん親衛隊の者だ!」
また別の男子の一部が見栄をきって宣言する。
「我らはハーモニー様ファンクラブの者だ!」
また別の男子の一部が見栄をきって宣言する。
「へえ。そう」
やっぱり一義は淡白な反応だった。
「僕のファンクラブは存在しないんだね」
抹茶オレを飲みながらシャルロット。
「ファンクラブ、欲しいの?」
問う一義に、
「別に」
そうシャルロットは切って捨て、
「一義……君さえ愛してくれるのなら僕はその情熱の炎を絶やさずにいられるさ」
一義に向かってウィンクする。
「可愛いねシャルロットは……」
一義は苦笑する他ない。
それからコーヒーをすすって一義のハーレムの美少女たちのファンクラブへと意識を向ける。
「さて……どういう案件かな?」
「東夷に告げる! 今すぐに彼女たちを貴様の束縛から解放し、あるべき場所へと帰順させよ!」
「あるべき場所に帰順させた結果として今の状態があるんだけどな……」
うんざりと言う一義。
コクコクと頷くハーレム一同。
「それは東夷……貴様の傲慢だ!」
「そもそも僕を責めるのはお門違いでしょ? 好きならアプローチするなり口説くなりご機嫌伺いなり何かしらすればいいさ。僕は止めないよ」
「まぁ私がご主人様以外に帰順することはあり得ないのですが……」
「音々がお兄ちゃん以外に帰順することはあり得ないね!」
「あたしが旦那様以外に帰順するなんてあり得ないがなぁ」
「私が一義以外に帰順するなんてあり得ないです」
「わたくしが一義以外に帰順することもあり得ませんわね」
「ま、僕には関係ない案件か……」
「…………。…………」
ジンジャーを除くハーレムたちはそんなことを言ってのけたのであった。
「「「「「「「「……うぅ」」」」」」」」
気圧されるハーレムの自称親衛隊たち。
すると突然大勢でたむろす男子たちのどこからか声が上がった。
「決闘しろ東夷! もしこっちが勝てば貴様はハーレムを解散させろ!」
そんな言葉に活路を見出した親衛隊たちは口々に、
「そうだ! 決闘だ!」
「まさか逃げるわけはないよな!」
「負ければ身を引け!」
そんな声を張り上げた。
何の権限があってそんなことを言うのか一義にはまったく理解の及ばない範囲ではあったが、
「いいよ。やろう」
一義はそう快諾したのだった。
「ご主人様?」
「お兄ちゃん?」
「旦那様?」
「一義?」
「一義?」
「一義?」
「…………?」
本気かとハーレムたちは目で問うた。
そんな美少女たちの戸惑いを無視して一義は言葉を続ける。
「君たちはそれぞれのファンクラブから一名だけ怪我や死亡を覚悟できる代表を選んで臨んでくれ。姫々派の代表と音々派の代表と花々派の代表とアイリーン派の代表とビアンカ派の代表とジンジャー派の代表とハーモニー派の代表……計七名の代表者を選抜……僕と一対七で戦おう」
「東夷……二言は無いな?」
「こっちが提案したんだ。無論ないさ」
平然とそう言って一義はコーヒーを飲み干した。




