パワーレールガン01
「ご主人様……お口を開けてください」
バキィ!
「お兄ちゃん! あーん!」
バキィ!
「旦那様、あーんだ」
バキィ!
「一義、あーん」
バキィ!
「一義、お口を開けてくださいませ」
バキィ!
「一義、僕のご飯も食べてくれたまえよ」
バキィ!
「一義、あーんだよ」
バキィ!
「……! ……!」
バキィ!
というわけで、一義は銀色と黒色と赤色と金色と青色と緑色と燈色と桃色の美少女たちと一緒に王立魔法学院の食堂で食事をとっている最中だった。
そして色とりどりの美少女たちは一義に慕情を寄せ、甲斐甲斐しくも一義に「あーん」を強要してくる。
ちなみにさっきから鳴っているバキィという音は、美少女たちに甲斐甲斐しくされている一義に対する嫉妬と憎悪を持て余し箸を握り折る生徒たちの鳴らす狂想曲だ。
その事実そのものにはあっさりとスルーし、しかしてその原因である美少女たちには嘆息する一義であった。
僕なんかの何がいいのやら……と思わざるをえない。
まぁ何はともあれ、
「ご主人様……お口を開けてください」
黒パンをちぎって一義の口元に持っていく銀色の美少女たる姫々。
「あーん」
と素直に口を開いて一義は受け入れる。
そして、
バキィ!
と食堂の誰かが嫉妬と憎悪によって箸を折る。
「お兄ちゃん! あーん!」
サラダをフォークに刺して一義の口元に持っていく黒色の美少女たる音々。
「あーん」
と素直に口を開いて一義は受け入れる。
そして、
バキィ!
と食堂の誰かが嫉妬と憎悪によって箸を折る。
「旦那様、あーんだ」
コーンスープを一義の口元に持っていく赤色の美少女たる花々。
「あーん」
と素直に口を開いて一義は受け入れる。
そして、
バキィ!
と食堂の誰かが嫉妬と憎悪によって箸を折る。
「一義、あーん」
黒パンをちぎって一義の口元に持っていく金色の美少女たるアイリーン。
「あーん」
と素直に口を開いて一義は受け入れる。
そして、
バキィ!
と食堂の誰かが嫉妬と憎悪によって箸を折る。
「一義、お口を開けてくださいませ」
浅漬けを一義の口元に持っていく青色の美少女たるビアンカ。
「あーん」
と素直に口を開いて一義は受け入れる。
そして、
バキィ!
と食堂の誰かが嫉妬と憎悪によって箸を折る。
「一義、僕のご飯も食べてくれたまえよ」
マメのスープをスプーンですくい一義の口元に持っていく緑色の美少女たるシャルロット。
「あーん」
と素直に口を開いて一義は受け入れる。
そして、
バキィ!
と食堂の誰かが嫉妬と憎悪によって箸を折る。
「一義、あーんだよ」
と食パンをちぎって一義の口元に持っていく燈色の美少女たるジンジャー。
「あーん」
と素直に口を開いて一義は受け入れる。
そして、
バキィ!
と食堂の誰かが嫉妬と憎悪によって箸を折る。
「……! ……!」
野菜のスープをスプーンですくって一義の口元に持っていく桃色の美少女たるハーモニー。
「あーん」
と素直に口を開いて一義は受け入れる。
そして、
バキィ!
と食堂の誰かが嫉妬と憎悪によって箸を折る。
折られた箸の数は十や二十では聞かなかった。
もとより使い捨ての箸であるから問題が無いと言えば無いのだが。
そして食堂でハーレムとイチャコラしている一義に対してささやかな怨嗟が漏れる。
「なんで東夷ごときが……!」
「馬鹿! 呪われるぞ!」
「ていうかアイツのハーレムだけで戦争できね?」
「鉄血砦を一人で攻略したってマジだと思う?」
「ミスト陛下がてきとうなこと言うとは思わないが……」
「誰か聞いて来いよ」
「嫌だよ。まだ殺されたくない」
そんなざわめきは聴覚の鋭いエルフである一義の耳にはしっかり届いていたのだが。
同じく聴覚の優れる花々を一義は見やるが、
「旦那様、あーんだ」
聞こえているはずの怨嗟など気にする風もなくスープを一義の口元に運ぶのだった。
「ま、いっか」
ぼんやりと一義はそう呟く。
「なにがいいのですか?」
「なにがいいの!?」
「なにがいいのかな?」
「なにがいいのです?」
「なにがいいのですの?」
「なにがいいんだい?」
「なにがいいの?」
「…………?」
クネリと首を傾げるハーレムたちだった。
君たちの扱いについてだよ……とはさすがの一義も言えなかった。




