いけない魔術の使い方18
即ち、
「触れた者を弾き飛ばすことで空気の壁にぶつけさせ燃焼させるってことかな?」
「それであってるよ」
そういうことなのだ。
一義に触れたモノは超光速で弾き飛ばされて空気の壁にぶつかって燃え尽きる。
レーザーカノンの場合は燃え尽きることがないため、単純に反射して光砲の魔術師を殺しせしめた。
全てを弾き飛ばす盾であり、全てを弾き飛ばす矛でもある。
即ち矛盾の魔術師……それが一義の魔術である。
「しかして君のマジックキャパシティは常人の数千分の一だと言っていたじゃないか。現に君は三日前の僕との戦いでそんな強力な魔術を使わなかった。使えばあっさりと勝てただろうに。それは何故だい?」
「単純に……本当に笑いたくなるくらい単純に……使いたくなかっただけだよ……。これは……この魔術は……僕の愚かさの証だから……」
一義は苦笑いをする他なかった。
「つまり一義……君は僕に実力を隠していたという事かな?」
「違うよシャルロット。僕が君を助けた時も、君と戦った時も、たしかに僕は常人の数千分の一のマジックキャパシティしか持ってはいなかったんだよ」
「まさか反魂を助けるために未知のパワーが覚醒した……なんて言うつもりじゃあるまいね……」
「それも違う。マジックキャパシティは先天的なモノだ。後天的に増えたり減ったりはしないよ」
肩をすくめる一義。
「冷静に考えてよ。何で僕は《あれほどの戦闘力を持つかしまし娘を連れてこなかった》んだと思う?」
「?」
わからないと首を傾げるシャルロット。
「発想の転換が必要だよ。姫々……音々……花々……共通する名前を持ち僕につき従うかしまし娘。そして有り得ないほどマジックキャパシティの小さな僕。つまりそれは前提を覆せばわかる話だよ」
「……っ! まさか……!」
ハッとなるシャルロットに、
「そう。その通りだよ」
一義はコックリと頷く。
前提を覆せばこんなことは謎でもなんでもないのだ。
要するに一義は本来これだけ強力な魔術を扱えるマジックキャパシティを持っているのである。
そしてそのマジックキャパシティを何かの魔術に使っているとしたら?
例えば……姫々、音々、花々という人間を具現して維持することにマジックキャパシティの大半を使っているとしたら?
つまりそれはそう云うだけの話なのだ。
「これで加速する魔術の正体もわかるでしょ?」
「斥力場を一瞬だけ自身の足場に展開することで自分自身を弾き飛ばして加速し、空中を駆ける。なるほど……たしかに魔術としては一貫しているね……」
「そういうこと」
よく出来ました、と一義はパチパチと拍手をする。
「これがいけない魔術の使い方って奴だよ。どうする? それでもシャルロットは僕に挑むかい?」
「止めておくよ。僕の斬撃の魔術は君の斥力の魔術には勝てない。跳ね返されでもしたら僕が死ぬ。いいさ。反魂は返してあげる。どこへなりとも連れていけばいい」
シャルロットは嘆息してそう言うのだった。
しかしてアイリーンは躊躇うように二の足を踏んだ。
「私といれば一義に迷惑が……」
「そんなことを僕は気にしないよ。そしてね……そういう時はこう言えばいいんだ……『助けて』って」
「でも……そのせいで一義がまた死ぬことに……」
「ならない。僕の強さは見ただろう。君の不平等に誓って言うよ。僕は僕の死によって君を悲しませることはもうしない」
「一義……!」
とアイリーンが一義に駆け寄って抱きついた。
「ごめんねアイリーン。悲しい思い……させちゃったね……」
「いいんです……。一義が生きているならそれで……」
「いいや。僕は僕の都合で君を守るための全力を尽くさなかった……。それは責められるべきことだよ……」
「いいんです……。今こうして一義と抱き合えているのですから……」
金色の瞳から涙を流してアイリーン。
「ごめんね」
「構いません」
そう言って真白い瞳と金色の瞳を交錯しあって抱きしめ合う一義とアイリーンだった。
そして一義は言う。
「シャルロットもおいで」
「アイリーンをさらった僕を許すつもりかい?」
「君は鉄の国の皇帝の意志に従っただけだよ。何も悪くなんて無いさ」
「そう言ってもらえるなら気も休まるね」
苦笑するシャルロット。
その深緑の瞳に映るのは安堵の感情だ。
「それで?」
と一義は今度は周りを囲む兵隊たちに目をやる。
「邪魔する人間はいるかな?」
と問うも、
「「「「「…………」」」」」
答える者は誰一人としておらず。
「それじゃ……行こうか。アイリーン。シャルロット」
「はい」
「そうだね」
一義はそんなアイリーンとシャルロットを連れて鉄血砦から出る。
そして鉄血砦の外に出た一義は、ペタリと鉄血砦の外壁に手を添えた。
「ところで僕の魔術……矛盾は結構器用な魔術でね。触れた物体の定義を拡大解釈することが出来るんだ」
「「?」」
アイリーンとシャルロットは首を傾げる。
「つまり……」
と一義が言った瞬間、一義が手を添えた鉄血砦の外壁を起点に、鉄血砦の全てが吹っ飛び消失して、一瞬遅れて炸裂音が鳴り響く。
「「…………!」」
絶句するアイリーンとシャルロット。
「こういうこともできるわけさ」
さっぱりと一義は言う。
五千を超える兵士と強大な砦の全てが超光速で弾き飛ばされて空気の壁にぶつかって消失した。
驚かない方がどうかしている。
過去どれだけの霧の国の軍隊が苦汁をなめさせられた鉄壁の砦がたった一人の魔術師によって滅んだのだから。
「シャルロット」
「はひっ」
「鉄の国の皇帝に伝言を頼むよ。もし次にアイリーンを狙うことがあれば今度は帝都がこうなる……ってね」
「わかった。伝えよう」
「うん。よろしくね。じゃあ帰ろっか……アイリーン」
そう言って一義はアイリーンに向かってニッコリと笑うのだった。