表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/315

いけない魔術の使い方17


 そして一義は太陽の魔術師に触れる。


 次の瞬間太陽の魔術師はフツリと消える。


 そしてまた一義は歩き出す。


 砦の本丸はもうすぐそこだ。


 一義に襲い掛かっては消えていく兵士たちの運命に思うところもなく一義は砦の本丸の扉に手を添える。


 するとこちらも鉄で出来ている本丸の扉はフツリと消え去った。


「おじゃましまーす」


 となんとも呑気に声を出して砦の本丸へと入り込む一義。


 迎えたのは幾千もの兵隊……ではなく……幾千もの蜂の軍隊であった。


「ようこそ鉄血砦へ。私が宮廷魔術師の一人にして……《蜂球》の魔術師だ」


 幾千もの……魔術によって生み出された蜂をつき従えて蜂球の魔術師が慇懃に一礼する。


「あ、ども。矛盾の魔術師です」


 緊張感を感じさせない口調でこちらも一礼する一義。


「では……死ね」


 そう蜂球の魔術師が言った瞬間、砦の本丸の玄関口に密集していた蜂の軍隊は一義を取り囲むように全方位から襲い掛かった。


 無論のこと蜂が魔術で生み出されている以上、攻撃的な性格を獲得しているのは当然として、さらに猛毒まで持っている。


 が、しかし、


「馬鹿な……!」


 蜂球の魔術師は驚愕するしか他なかった。


 一義に触れた蜂はそれだけでフツリとまるで夢の記憶のように消え去ってしまうのだったから。


 恐怖も躊躇いもなく襲い掛かる蜂の軍隊は、ある意味で人間の兵隊より恐ろしいが、矛盾の魔術の前には何の痛痒ももたらさなかった。


「馬鹿な馬鹿な馬鹿な……!」


「物質系の攻撃は僕には通じませんよ。すべて熱によって蒸発してしまいますからね」


 あっさりとタネをばらす一義。


「熱……だと……?」


「はぁ。まぁ」


 ぼんやりと答えて、蜂に囲まれながらも一義はポケットに突っ込んでいない方の腕を蜂球の魔術師に向ける。


 そしてその手の親指と食指をピンと伸ばし、中指と薬指と小指を握りこんで、指鉄砲を作ると、


「バン」


 と銃声を真似た言葉を発し、銃を撃つ真似をする。


 次の瞬間、一義の指先の延長線上にある蜂……蜂球……砦の壁等の障害物はフツリと消え去った。


「「「「「――――!」」」」」


 もはや意味がわからないと千人単位の兵士たちが狼狽える。


「熱による相転移の魔術か……。しかしそれならば余の敵ではないな……」


 三大魔術師……鉄血砦の駐在する三人の宮廷魔術師の最後の一人がそう言って姿を現した。


「余のことは知っておろうな? 《光砲》の魔術師だ」


「不勉強ゆえ知りません。もうしわけない……」


 ガシガシと後頭部を掻く一義。


 そこには緊張感の欠片も無い。


「見るに触れたモノを熱によって蒸発させる魔術のようだが……それだけならば余の魔術は防げぬぞ?」


「五十点……ってところだね」


 一義はそう評した。


「なぬ?」


「確かに僕の魔術は触れた者を高熱で燃やし尽くすけど……それは僕の魔術の本質じゃないよ……?」


「何はともあれ魔術防御を頼みとしているのなら諦めるのだな。魔術障壁が透明であるということは光を通すと云う事。ならば余の魔術は防ぎ得ぬ」


 そう言って一義に手を突きつけると


「レーザーカノン!」


 と光砲の魔術師は呪文を唱えた。


 次の瞬間、光砲の魔術師の突き付けた手から位相の揃った光……極太のレーザーが発射される。


 躱すとか躱さないとかの次元ではない。


 何よりも速い光の速度に対処できる人間などいない。


 ある意味で最強の魔術である。


 そして死体もなく焼き尽くされた。


 一義ではなく光砲の魔術師が……ではあるが。


 一義に触れたレーザーカノンはまるで鏡を使ったかのように反射して光砲の魔術師を呑み込んで虚空へと消えた。


「だから言ったじゃん……。熱は副作用であって僕の魔術の本質じゃないって」


 既に遺体もなく消失している光砲の魔術師の居た空間にポツリと言葉を投げかける一義であった。


「三大魔術師が……全滅……だと……!」


 驚愕に打ち震える兵士たち。


 そが持つは恐怖と混乱。


 一義という未知に対する本能的な拒否感。


 一義を囲むように千人単位の兵士たちが剣や槍や弓や魔術を構えて、


「「「「「…………」」」」」


 かたずをのんで見守っていた。


 そんな兵士の一人に、一義は、


「ねえ」


 と気さくに話しかける。


「は……はひ!」


 と狼狽えながら返す兵士の一人に、


「反魂のアイリーンはまだこの砦にいる?」


「…………!」


 コクコクと頷く兵士。


「そ。ありがと。いやぁよかった。さすがに鉄の国の王都にまでカチコミをかけるのは気が引けるからねえ」


 そう言ってガシガシと一義が後頭部を掻いていると、パンパンパンと手を打つ音が聞こえてきた。


「…………」


 音のする方に視線をやれば、そこには黄金の瞳に黄金の髪を持つアイリーンと、緑の瞳に緑の髪を持つシャルロットとが居た。


「いやいや。恐れ入るよ。太陽と蜂球までならともかく光砲のレーザーカノンまで防ぎ得るとは。君の魔術は熱には直接の関係はないとみるが……どうかな?」


「うん。関係ないよ」


「ではいったい君の魔術はなんだい?」


「斥力」


 あっさりと答える一義。


 最も根源的にして最も単純な力である引力と斥力。


 その内の斥力だけを取り出すのが一義の魔術である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ