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王立魔法学院入学式とその後08


 場所は霧の国のシダラの一角にある定食屋。


 一義と姫々と音々と花々とジンジャーは六人掛けの席についていた。


 そこで一義がかしまし娘に問う。


「ところで姫々……音々……花々……」


「何でしょうご主人様?」


「なぁにお兄ちゃん?」


「何だい旦那様?」


「君たちは部活の勧誘には誘われなかったのかな?」


 一義がそう聞くと、


「誘われましたよ……。うんざりとするぐらい……」


「音々も! 音々もうんざりしたよ!」


「あたしたちには旦那様がいるから部活に構っている時間がないって言って拒絶したけどね……」


「なるほどね」


 一義は出されたお冷を飲みながら納得するのだった。


「ご主人様はどこかの部活に所属する意思があるのでしょうか……?」


 姫々がそう言って、


「もしそうならわたくしは同じ部活に所属いたしますが……」


 おずおずと提案する。


「あ、それは音々も賛成! お兄ちゃんがどこかしらの部活に所属するのなら音々も所属するよ!?」


 追従する音々に、


「旦那様が行くところ即ちあたしたちが行くところだからね」


 断言する花々。


「本当に姫々さんも音々さんも花々さんも一義のことが好きなんですね……」


 ジンジャーがそう言う。


「はい……。それはもう……」


「音々はお兄ちゃん大好き」


「旦那様はあたしの心の太陽だからね」


 かしまし娘はそう答える。


「そこに序列はあるのですか?」


 ポツリと問うジンジャーに、


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 一義と姫々と音々と花々は押し黙り、


「まぁわたくしが一番ご主人様に尽くしてはいるのですが……」


「音々のことをお兄ちゃんは一番可愛がってくれるから!」


「旦那様はあたしを一番想ってくれていることは自明の理だからね」


 かしまし娘はそう主張した。


「…………」


 一義はだんまりを決め込む。


「ガルル……」


「フシュー……」


「シャーッ……」


 かしまし娘がお互いに牽制しあっているところに、


「一義はどう思っているのですか?」


 ジンジャーが問う。


 一義は、


「全員に均等に愛しているつもりだよ」


 お冷を飲みながら淡々とそう言った。


 それから四方山話で時間を潰していると、定食が運ばれてきた。


 一義は月見うどん……姫々は焼き魚定食……音々と花々はカモ蕎麦……ジンジャーは湯豆腐をそれぞれ頼んでいたのだった。


 一義およびかしまし娘は器用に箸を使って食べ始めたが、


「すみません。スプーンとフォークを……」


 ジンジャーは申し訳なさそうにウェイターにスプーンとフォークを頼んだ。


「ああ、そういえば……」


 これはうっかりと一義は苦笑する。


「西方の人に箸は馴染みがないよね……」


「よくそんな器用に操れますね」


 ジンジャーが変に感心した。


「まぁ慣れだよ……慣れ……」


「ふーん……」


 湯豆腐をハフハフと熱そうに食べながら納得するジンジャーだった。


「ところで……」


 とこれは銀髪侍女の姫々。


「ジンジャー様……でしたか……。ご主人様とはどんな御関係で……?」


 少しばかりの殺気を乗せて姫々はジンジャーを睨みつける。


「あ……それは音々も気になったかも!」


 音々も食いついてくる。


「まさか旦那様。あたしを差し置いて異郷の娘に惚れたなんて言わないよね?」


 花々は花々であからさまに牽制を放つ。


「いやいや……そんな……一義とは同じクラスメイトであってそれ以上でもそれ以下でもないですよ?」


 おずおずとジンジャー。


「本当ですか……? ご主人様……」


「本当? お兄ちゃん……」


「本当かい? 旦那様……」


 疑いたくはないが真実を確かめずにはいられないといった様子で確認してくるかしまし娘に、一義はうどんをチュルリとすすって、そして言った。


「かしまし娘は僕の恋愛観を知ってるはずだと思うけど?」


 ただそれだけの言葉で、


「…………」


「…………」


「…………」


 沈黙するかしまし娘。


 一人ジンジャーだけが、


「?」


 まったく意味がわからないと首を傾げる。


「もしかして一義は特殊性癖の持ち主なんですか?」


「ううん。僕は至って正常だよ。可愛い女の子が好きなんだ。じゃなきゃ姫々や音々や花々を傍に置いたりしないよ」


「やん……。ご主人様……。わたくしが可愛いだなんて……」


「えへへ! お兄ちゃんに褒められちゃった!」


「ふむ。まぁ……あたしとしても悪くない言葉だね」


 可愛い女の子という言葉に過剰反応するかしまし娘だった。


「結局のところハーレムを作って……しかして本命はそこにはおらず……しかし特殊性癖でもない……。なら一義の本命ってなんですか?」


「いない」


「好きな人はいない……と?」


「ニュアンスは違うけど言葉としては合ってるよ」


「?」


 やはり「まったく意味が分からない」とジンジャーは首を傾げる。


「…………」


 一義はそれ以上は言わないとばかりに無言でうどんの征服にとりかかる。


「ところでこれ……次の新聞のネタにしていいですか?」


 ジンジャーがそう尋ねると、


「……いいんじゃない?」


 とどこまでもそっけなく一義。


「わたくしとご主人様がラブラブだと記事に載せてください……」


「音々とお兄ちゃんがラブラブだって書いていいよ!」


「あたしと旦那様がラブラブだって書くといいね」


 かしまし娘がジンジャーにそう迫って、


「…………」


「…………」


「…………」


 しばしの沈黙。


 後に、


「ガルル……!」


「フシューッ!」


「シャーッ!」


 と、やはり睨みあうかしまし娘だった。


 ジンジャーはクスリと笑い、そして言う。


「皆さん……そんなに一義の事が好きなんですね……」


 その言葉に、


「それはもう。ご主人様はわたくしの宝です……」


「お兄ちゃんは音々の光だよ!」


「先にも言ったけど旦那様はあたしの心の太陽だよ」


 躊躇いなく言い放つかしまし娘。


「…………」


 一義は無心でうどんをすするのみだった。


「ふむふむ。ハーレムはいれど本命は無し……と。それでは一義は姫々さんと音々さんと花々さんが誰かに靡いてもいいのですか?」


「うーん。それは困る」


「もしかしてキープですか?」


「別にそこまで悪質なモノではないけどね」


 苦笑する一義。


「でも本命でもない女の子を複数はべらせてるってだけで非難轟々だと思うのですが……」


「まぁ言い寄ってくる人間は……それはそれでいいんじゃないかな? 別に僕はかしまし娘を束縛しているわけじゃないし。ただ……かしまし娘が僕以外の誰かに靡くことがないってだけで……」


「すごい自信ですね」


「まぁ色々あってね」


 うどんを咀嚼、嚥下、食べ終えて、お冷を飲みながら一義は言う。


「うーん。そうですか。いいネタになりそう……」


 メモをとりながらジンジャーは嬉しそうに呟くのだった。


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