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いけない魔術の使い方14


「月子っ!!!」


 最大限の言葉で消えゆく月子の名を叫び……今度こそ一義は覚醒した。


「あ……れ……?」


 一義はキョトンとする。


 そこはもう月子が閉ざされている和室ではなかった。


 見慣れたベッド。


 見慣れたレンガの壁。


 頭上には高きライティングの魔法。


 一義が王立魔法学院に通うために買い取った宿舎の一室……その一義の部屋であった。


 そして、


「ご主人様……!」


「お兄ちゃん!」


「旦那様!」


「一義!」


「一義!」


「…………!」


 アイリーンを除くハーレムが覚醒した一義に抱きついた。


「心配したのですから……!」


「お兄ちゃんが目を覚まさないのかって!」


「あたしたちは!」


「心配したんですのよ!」


「この馬鹿!」


「…………!」


 ハーレムに抱きつかれて、しかして一義の思考は冴えわたった。


「そっか。夢か……。そうだよね。夢だって月子も言ってたもんね」


「月子様の夢を見ていたのですか……ご主人様は……?」


「うん。まぁね」


 一義は頷く。


「お兄ちゃん……まだやっぱり月子様のことを……!」


「うん。好きだよ」


 一義は頷く。


「旦那様……それほどまでに月子様のことを……!」


「うん。愛してる」


 一義は頷く。


「月子……ですの……」


 ビアンカが躊躇いがちにそう言い、


「月子って誰?」


 ジンジャーがそう問う。


「…………」


 ハーモニーもまた無言ながら問う。


「月子はね……僕が守れなかった女の子のこと……」


 そうして一義は話し出す。


 月子という存在を。


 一義の心の楔となっている女の子のことを。


 そうして月子という名の女の子のことを話し終えて、一義は本質を問う。


「……というわけ。それよりアイリーンとシャルロットは?」


「二人とも二日前の晩から帰っていません……。心配ではありますが……それよりもシダラの小路で倒れているご主人様の方が心配で……!」


「倒れた……。確かに僕は一度死んだはず……。あの傷から助かるなんて……」


 それはつまり……誰かの干渉によって助かったということだ。


 そしてそんなことのできる人間を一義は一人しか知らなかった。


 反魂のアイリーン。


 死した人を蘇らせる魔術師。


 誰よりも優しい魔術を持ち、誰よりも優しい心を持ち、一義と同質にして鏡合わせの過去を持つ金色の美少女。


「そっか。僕はアイリーンに助けられたのか……」


 水平に真っ二つに断ち切られた一義の体は傷跡もなく血痕もなく繋がっている。


 即ちそれは、


「最後の最後にアイリーンは僕を……差別してくれたのか……」


 そういうことであった。


 死を無かったことにできるが故に死を大切に思っている少女が行なった不平等。


 アイリーンの優しさ。


「君は優しいね。まるで僕みたいだ」


 一義はくつくつと笑うのだった。


「ご主人様……?」


「お兄ちゃん?」


「旦那様?」


「一義?」


「一義?」


「…………?」


 アイリーンを除くハーレムが一様にポカンとする。


 一義は笑うのを止めると、抱きついているハーレムたちを振りほどいて、そして軽やかに言う。


「うん。ごめん。何でもないよ。ただアイリーンの優しさに触れただけだから」


 そんな一義に……やはり「わからない」とハーレムたちは首を傾げる。


「うん。まぁこっちの話だよ。それより姫々……音々……花々……」


「なんでしょう……? ご主人様……」


「なぁに? お兄ちゃん……」


「なんだい? 旦那様」


「アイリーンがシャルロットに……鉄の国にさらわれた」


「「「「「っ!」」」」」


 絶句するハーレム一同。


「だから僕はアイリーンを助けに行く」


「しかしご主人様が意識を失われてから二日が経っています……! 今から言っても間に合いません……! おそらく鉄の国の鉄血砦についているでしょう!」


「うん。わかってる。だから矛盾を使う」


「「「っ!」」」


 かしまし娘が絶句する。


「本気かい?」


「冗談で言えないよ。こんなこと……」


「矛盾を使って鉄血砦に攻め込むの!?」


「そうだと言ってるでしょ」


「ではわたくしたちは……!」


「うん。まぁ……そういうことだね」


 一義はそう苦笑するのだった。


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