いけない魔術の使い方12
「それで? 用件っていうのは?」
「うん。お別れを」
「お別れ?」
「今更だけど僕は運び屋だ。モノをとある場所からとある場所へ……とある人からとある人へ……運んであげるのが僕の仕事だ」
「何か仕事が入ったの?」
「うん。まぁね」
「次はどこへ行くんだい?」
「鉄の国だよ」
「隣の国だね。鉄血砦まで馬で三日だっけ?」
「そ。鉄の国は僕のスポンサーみたいなところがあるからね。云われりゃ応じずにはいられないのさ」
やれやれと肩をすくめるシャルロット。
「それで? 今度は何を運ぶんだい? またイリーガルなモノかい?」
「いや、いたって健全。此度運ぶのはアイリーンだからね」
「は?」
アイリーンがポカンとする。
「私を……運ぶ……?」
「うん。まぁ。それが鉄の国の皇帝陛下のご要望だから」
「人さえシャルロット……君にとっては運ぶ対象なのかい?」
「そうじゃないなんて言った覚えはないけどね」
「然り然り。でもね……生憎とアイリーンは鉄の国の皇帝陛下の御許から逃げ出してきたんだ。またそこに連れ戻そうというのは皇帝陛下のエゴだよ」
「そんなことは感知しないね。僕はただ頼まれればそれを運ぶってだけだから」
「話し合いにつく気はないかい?」
「否だよ。それにもう一つ……これは一義にも関することなんだけどね」
「何?」
「アイリーンが大切にしている人間を見せしめに殺せとのお達しだ。だから……」
「だから?」
「一義……君には死んでもらう」
そう言った瞬間、シャルロットの体から吹き出す殺気が膨れ上がり、シャルロットが脱力していた腕に力を込めて上方へと振り上げた瞬間、
「っ!」
一義は身を捻って《何か》を避けた。
次の瞬間、後方のレンガ造りの壁に斬撃の痕が刻まれた。
「斬撃を……飛ばす……!」
「そう。それが僕の魔術」
「しかもウィッチステッキも無しに……詠唱も無しに……腕を振るだけで……! これじゃまるでドラゴンバスターの完成形じゃないか……!」
「そうでもないよ。腕を振らなきゃいけないから一義……君のように勘のいい人間には軌道を見切られる。ドラゴンバスターの……斬撃を飛ばす魔術の完成形は無詠唱かつノーモーションであるべきだ。僕のこれはただの上位互換だよ」
さっぱりとシャルロットは言うのだった。
「ま、どちらにせよアイリーンは不死身だからいくらでもやりようはあるんだけどね」
そう言った直後……あろうことかシャルロットは腕を水平に振ったのだった。
次の瞬間、シャルロットの振った腕の延長線上に斬撃が発生する。
「っ!」
一義は魔術を使って上方へと高く飛んだ。
対してアイリーンは反応が遅れてズバリとシャルロットの斬撃をくらって胴体を真っ二つにされた。
が、しかし、すぐに蘇生されるアイリーンの体。
「さすがは反魂のアイリーン。これくらいは容易く蘇生する……か」
シャルロットはくつくつと笑って、高く飛び上がった一義に目を向けると、
「空中では逃げ場も無いでしょ?」
そう言って夜空の一義目掛けて腕を振る。
振った腕の延長線上に斬撃が発生して、それは宙に身を置く一義に襲い掛かり、そしてその牙は一義を切り裂かんとしたが、
「っ!」
一義は《空中を駆ける》ことでそれを……斬撃を避けてみせた。
「「なっ……!」」
と驚いたのはアイリーンとシャルロットが同時だった。
「加速を得るってことはこういう事もできるってことだよ。まぁ僕の魔術の本質ではないけどね」
何が起こっているのか……一義は空中で足場も無いのに、トントンと、跳んでは落下し落下しては跳ぶということを繰り返していた。
まるでそこに足場があって、一義が跳びはねているかのように。
空中でトントンと跳んで跳ねる一義に、
「くっ!」
と呻いてシャルロットが両手を振る。
パワーイメージによる魔術の斬撃が四つ……シャルロットの振った腕の延長線上に投影されて一義に襲い掛かる。
しかして一義は宙を駆けることでそれらを避けるのだった。
そしてまたトントンと空中にて跳びはねる一義。
「シャルロット……手を引いてはくれないかな? 君を排除したくはない」
「残念だけどそれは無理だ。僕とて鉄の国の皇帝には頭が上がらないんだよ」
「そっか。じゃあ正々堂々果たしあおうか」
緊張感もなくポケッとそう言う一義に、
「語るに及ばず!」
と言って腕を振るうシャルロット。
シャルロットの振るう腕の延長線上に斬撃が発生するが、一義は空中を駆けてそれを避けるのだった。
シャルロットの斬撃を空中で躱して躱して躱し続ける。
「ちぃ……!」
シャルロットは焦ったように一義目掛けて斬撃を振るうも、一義は的確にシャルロットの腕を観察して斬撃を予測して躱しながらシャルロットに肉薄する。
ブンとシャルロットは十字に両腕を振るう。
十字架の形をとった斬撃を、一義は宙を蹴って避ける。
さらに加速。
一義はジグザグに宙を蹴ってシャルロットの斬撃を躱し、シャルロットの背後をとる。
同時に着ているジャケットから槍の穂先のような短剣……クナイを取り出してシャルロットの首を狙う。
それはシャルロットの首に致命傷を与えるはずだったが……現実はそうはいかなかった。
「……がふっ……!」
一義は突然の衝撃に血を吐いた。
一義の脳の命令が足腰には通じなかった。
それも当然……一義の体は両断されていたのだから。
シャルロットは自身の背後に腕など振ってはいない。
しかしてシャルロットの放った斬撃が一義を真横に両断したのだった。
「無詠唱ノーモーションの魔術……!」
一義がそう言う。
「そうだよ。ドラゴンバスターの完成形。使えないなんて僕は一言も言っていないよ?」
「そりゃそうだね……ガフッ……!」
と吐血して、一義の意識は闇に沈んだ。
シャルロットの無詠唱ノーモーションの斬撃の魔術を受けて一義は死んだのだった。




