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いけない魔術の使い方09


「全員に行き渡りましたでしょうか……?」


 姫々がそう言う。


「ふわ……今日はお茶漬けかぁ!」


 音々がそう言う。


「これはまたシンプルな」


 花々がそう言う。


「もし至らぬところがあれば遠慮なく忌憚なく仰ってほしいです」


 アイリーンがそう言う。


「この独特の香りはなんですの?」


 ビアンカがそう言う。


「ワサビ……と呼ばれる香辛料だよ。和の国独特のモノだ」


 シャルロットがそう言う。


「香辛料……ということは辛いんですか?」


 ジンジャーがそう言う。


「…………」


 ハーモニーはといえば桃色の瞳をキラキラさせながら一人だけ大盛りのお茶漬けを見つめていた。


 そして一義の「いただきます」の言葉を皮切りに、各々が食事の礼をとって夕餉を開始した。


 箸でグチャグチャとお茶漬けを混ぜてズルズルとすする一義。


「そんな風に下品に食べるものなんですの?」


 とこれはビアンカ。


 貴族の出でありマナーを叩きこまれたビアンカにしてみればありえない食事なのだろう。


「諦めて」


 一義はそう言う。


「はぁ、まぁ否やはありませんが」


 スプーンでお茶漬けをかき混ぜてすくい、口にするビアンカ。


 そして、


「…………! …………! …………!」


 絶句するのだった。


 鼻を押さえて涙目になるビアンカ。


 そしてそれはジンジャーもであった。


 燈色の瞳から涙を流しながら天井を仰ぐジンジャーだった。


 二人ともワサビの辛さをもろにくらって悶絶した。


「な、なんですのこれは!」


「これ……ゲホッ……なに……!」


「だからワサビだって」


 と言って平然とお茶漬けをすする一義。


「うん。いい香り。美味しいねワサビ茶漬けは……。ワサビの香り、出汁の香り、お茶の香り、海苔の風味……それぞれがそれぞれを引き立てあっていて一個の完成された世界を持っている。うん。これは美味しい」


「恐縮です……」


「ありがとうございます。シャルロット……」


 姫々とアイリーンが感謝する。


「ハーモニーはどう? お茶漬け美味しい?」


「…………」


 コクコクと頷くハーモニー。


 ワサビなぞ何するものぞと大盛りの器に盛られたお茶漬けを美味しそうに頬張っていた。


 そんなこんなで一義たちは夕餉を終えるのだった。


 お茶漬けの後なのに……という懐疑もなく一義は姫々の淹れてくれた緑茶を飲みながらホッと一息ついていた。


 姫々とアイリーンは食器を仲良く洗っていた。


 どうやら丁寧な物腰に通ずるものがあったらしい。


 音々と花々とビアンカとジンジャーとハーモニーはリビングでカードゲームに興じていた。


 それぞれがそれぞれの湯呑みを自らの隣に置いている。


 姫々の淹れた茶であった。


 シャルロットは一義と対面になる形でダイニングテーブルの席に着き、本を読んでいた。


 その手元には湯呑みが。


 味噌汁に続いて緑茶もまた西方ハーレムのブームとなっているのだった。


 一義と姫々と音々と花々にしてみれば当然の嗜好品なのだが、西方ハーレムには驚嘆すべきモノであったらしい。


 物珍しいというのもあるだろう。


「ああ、またワイズマン!」


「わたくしもワイズマンですわ!」


「じゃあステップ」


「…………!」


 とカードゲームを楽しむハーレムたちの声がリビングから聞こえてくる。


 対して、キッチンでも姫々とアイリーンが話していた。


「今日のワサビ茶漬け……美味しかったです。こんな料理も和の国にはあるんですね。勉強になります」


「何を仰います……。アイリーン様も手伝ってくださってはありませんか……。カツオ出汁の香り……とても良うございました……」


「私は言われるままに手伝っただけですので……」


「削り節の作り方も様になってきています……。アイリーンが和の国の料理を作れるようになるのもそう未来の話でもないでしょう……」


「一義は食べてくれるでしょうか?」


「無論です……。ご主人様はお優しい方ですから……」


「ですから不安なんです。どんな料理を作ろうとも一義は『美味しいよ』としか言わない気がして……」


 そんなキッチンの会話に、


「ふふ……」


 シャルロットは読書を止めてくつくつと笑うのだった。


「何がおかしいのさ……シャルロット……」


「いやね。愛されていはすれど……博愛主義にも困ったものだ……とね」


「それは……わかるけどさ……」


「この際それは罪悪ではないかな?」


「優しいだけじゃ駄目ってこと?」


「理解しているじゃないか」


 やはりシャルロットはくつくつと笑うのだった。


 そうこう読書と並行して四方山話をする一義とシャルロットだった。


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