いけない魔術の使い方07
「いるんですの!? ハーレム以外で!?」
「うん。まぁ」
「誰ですの?」
「月子って云うんだけど……」
「名前からして和の国の人間ですわね」
「うん」
「エルフですの?」
「ハーフエルフだったよ」
「だった……って……」
「うん。もう死んでる」
一義はあっさりと言う。
「今は亡き人への慕情に縛られているんですの?」
「うん。大好き。とっても……とーっても大好き……」
「それは幻想ですわ」
「知ってるよ」
「そんな想いを引きずって……だから一義は、わたくしたちハーレムに興味を持たない……と……」
「うん」
「…………」
沈黙するビアンカ。
「ハーレムを止めたくなったら止めてもいいよ。去る者追わずが僕の信条だから」
「まぁハーレムを止めたりはしませんわ。一義が今は亡き……今も無き……そんな想いに縛られているというのなら、その呪縛から解放させてあげるのがハーレムたるわたくしの使命ですわ」
「無理だと思うけどね~」
「それほどまでに想い入れているんですの?」
「うん……まぁ……今でも月子を想うと胸のここのところが……」
と胸板の心臓の部分を指差す一義。
「チクチクと疼くんだ」
「新しい恋に生きる気はないんですの?」
「今のところはね。そも……ビアンカ……」
「なんですの?」
「恋って何だと思う?」
「誰かを所有し独占したいという感情ですわ」
躊躇いもなく言いきるビアンカだった。
「あはは。そうだね。間違ってはいない。僕もそう思うよ」
苦笑するしかない一義。
「恋愛感情はつまるところ熱量ですわ。どれだけ熱中できるか。それがつまり恋心ではありませんの……?」
「うん。僕もそう思う」
「愛ともなれば想いを与えるものであるのだろうですけど恋はもう少し未熟ですわ。慕情を持つ相手を拘束して縛りたい。そんな我が儘が恋の本質ですわ」
「君は僕にそんな気持ちを持っているの?」
「わたくしだけではありませんわ。姫々も……音々も……花々も……アイリーンも……ジンジャーも……ハーモニーも……そしてわたくしも……皆々一義にそんな感情を持っているはずですわ」
「壮大だね」
「それだけの価値を一義は持っているということですわ。あなたはハーレムに対して責任を負う立場ですのよ?」
「面倒くさいことは苦手なんだよ。僕は月子を想えていれればそれでいい」
「死者への想いは結構ですけど一義は現在にも目を向けるべきですわ」
「できるものならそうしてるよ」
一義はケーキを食べながら肩をすくめる。
「一義は不器用だね」
そう言ったのはシャルロットだった。
「一義と月子さんとの間に何があったのかは知らないけど……それでも呪縛のように一義を縛る……それはとても素敵なことじゃないかな?」
「うん。僕は月子が大好きなんだよ」
「ですからその感情に折り合いを、と……!」
「無理だろう。一義はそんな簡単に割り切れるほどの感情を月子さんに抱いていない」
「よくわかっているね……シャルロットは……」
「これだけの美少女に囲まれて……ゲイでもなく不能でもなく……ありのままに不干渉を貫けるということだけでも君の月子さんへの感情は察するに余りある」
「うん。まぁね」
一義は頷く。
「ですけど……それでは一義が救われない……ですわ……」
「救われなくていいんだよ。僕なんか……」
「それは傲慢ですわ! あなたを想う人間がいるのに……そこから目を背けるのはズルいと思いますの!」
「ビアンカ……君は言ったね……恋は熱量だと……。僕もそう思うよ。故にその熱量の向かう先を僕は選べないんだ。熱量はただ我が身を焦がすだけのモノでしょう?」
「でも……それでは一義が救われない……!」
「いいんだよ……救われなくても……。僕は月子との思い出を胸に……ハーレムに関わりながら生きていく……」
「そんなことは許されませんわ!」
「だから許されなくてもいいんだってば」
うんざりとそう言う一義に、
「一義は優しいね」
とシャルロットがそう漏らす。
「優しくなんかないさ。僕はハーレムに対して残酷な仕打ちを行なっている」
「だからさ。そう思っているのが即ち優しいってことじゃないかな?」
「価値観の相違だね」
「一義はなんだかんだ言ってもハーレムに対いて罪悪感を持っている。ならばそれは優しさだと僕は思う。これは君のハーレムに対する優しさに他ならないよ」
「そこまで持ち上げられるモノじゃないよ」
「いいや。一義……君はハーレムに対して率直だ。それはとても愛おしいことなんだよ。それはとても尊いものなんだよ」
「価値観の相違だね」
繰り言をする一義だった。
「正直僕も一義の想いは重いものだと思うよ。でも……それでも……一義のその想いは正しいんじゃないかな?」
「正しければいいって問題でもないと思うけど……」
「いいや。それでいいんだよ。君が既に死んでいる亡者に想いを寄せたってそこに非難される謂れはないさ。君は君の純情を大切にすべきだ」
「でも……これは愛じゃなくて恋だ……。想いを与えるものじゃなく……想いを求めるものだ……」
「いいじゃないか。それが即ち想い人への価値なんだろう?」
「それは……そうだけど……」
一義はガシガシと後頭部を掻く。
「それでも……!」
とこれはビアンカ。
「それでも一義の想いは幻想ですわ……! 一義のそれは無意味ですわ……!」
「うん。それもわかってる」
「わかっていません! 一義は叶わぬ恋に身をやつしていますわ! それが無意味と知っても止めるつもりがありません! それは地獄ですわ!」
「でも……それが僕だから……」
一義はケーキを食べながら苦笑するのだった。
「…………」
ハーモニーが無言のままパフェを食べるのを止めて一義の袖を引っ張った。
桃色の瞳は不安に揺れている。
「ハーモニーは可愛いね。僕もハーモニーのことは好きだよ」
一義はそう言ってハーモニーの桃色の頭を撫でるのだった。
「一義……あなたは何だかハーモニーには優しくありませんか……?」
ジト目で責めるようなビアンカに、
「まぁハーモニーは可愛いからね」
ホケッと一義は言うのだった。