いけない魔術の使い方06
昇進試験期も円満に終了して……その数日後。
「一義、君のケーキも美味しそうだね……。少し分けてもらってもいいかい?」
「かまわないよ」
そう言ってフォークでケーキを崩すと一義はケーキの欠片を深緑の美少女……シャルロットの口元まで持っていく。
「はい、あーん」
「あーん」
パクリと食べて、
「うん。美味しいね。ありがとう一義」
「いえいえ」
苦笑しあう一義とシャルロットだった。
ここはシダラの王立魔法学院へと続く大通りに接する甘味処……名を『ロマンス』。
一義とかしまし娘とジンジャーの二過生、三過生、四過生への昇進を記念してケーキバイキングに来ていた。
一義、姫々、音々、花々、アイリーン、ビアンカ、シャルロット、ジンジャー、ハーモニーの九人という大所帯である。
よって五人と四人に席をわけている。
五人の方は姫々、音々、花々、アイリーン、ジンジャーであり……四人の方は一義、ビアンカ、シャルロット、ハーモニーである。
「…………」
ハーモニーはというと黙ったまま山と積まれたケーキを食欲魔神の如く征服にかかっていた。
ケーキの他にも三人前くらいはありそうな巨大パフェまで注文している凄まじさである。
「モンブランもいけるね」
「あーっ! それ音々が食べたかったのに!」
「はっはっは。早い者勝ちだよ音々」
「あんまりやっていると怒るよ!」
「怒ってどうなるというのだい?」
音々と花々は微笑ましく喧嘩していた。
そこに、
「ねえ、音々さん、花々さん……」
ジンジャーが割り込む。
「なぁに? ジンジャー」
「なんだい? ジンジャー」
答える音々と花々に、ジンジャーは燈色の瞳を揺らして、ケーキを食べながら、
「どこの研究室に入るか決めましたか?」
そんなことを聞いてくる。
「どこにも入る予定はないよ!」
「同じくそんな予定はないね」
あっさりと音々と花々。
「でも三過生と四過生は研究室に入らなければ……」
「だってそんなことしたらお兄ちゃんと一緒にいられないじゃない!」
「まったくだ」
ちなみに一義は二過生……研究室に入る資格は持っていない。
「音々さんや花々さんなら引く手数多だと思うんだけどな……」
「お兄ちゃん以外の人間に言い寄られても……ね……」
「まったくだ。旦那様以外の人間に手を引かれるなんてありえないよ」
肩をすくめてみせる音々と花々。
「そうです……か……」
納得いかな気に答えるジンジャーなのだった。
姫々とアイリーンは気が合うのか、
「この生クリームは西方の素晴らしい文化ですね。こんなにふわふわで甘いものを作れるなんて……さすがと申しましょうか……」
「でもでも……姫々が前に食べさせてくれた東方の甘味も美味しかったですよ? あんこ……でしたっけ? 豆を砂糖で煮るっていうのはすごいと思います」
そんな会話をしていた。
アイリーンは姫々に和食を習っている手前か、姫々を持ち上げようとする傾向にある。
まぁいいんだけど、と一義は思いながらケーキを食べる。
そんな姫々とアイリーンのやり取りをポーッと見つめる青色の美少女……ビアンカ。
「なにをそんな曇りない瞳で見てるの?」
と問うた一義に、
「姫々とアイリーンは銀髪と金髪ですごく……その……合うと思うのですわ」
そんな答えを返すビアンカだった。
「そういえば君……百合の気質を持っていたね」
白い瞳に「やれやれ」という思いをのせて一義は苦笑する。
「ていうか百合のはずなのに何で僕のハーレムに入ったのさ? まさかいきなり男も許容できるようになった……なんて言わないよね?」
「そんなことは言いませんわ。そもそもわたくしにとって男は下劣で下賤で下等な生き物だという認識に違いはありませんの」
「僕も男なんだけどな……」
「一義は可愛らしいじゃないですの」
「それって褒めてるの? それとも貶してるの?」
「褒めていますわ。大絶賛中です」
「そう」
アグリとケーキを食べる一義。
「でも何度も言うように僕は男だよ?」
「ですけれど一義は他の男どもと勝手が違いますわ」
「どういう風にさ?」
「わたくしに対して劣情を催さないところとか」
「まぁ……興味無いからね」
「一義はゲイか不能ですの?」
「まさか。可愛い女の子が大好きな一般的な男の子だよ?」
「にしてはハーレムに手を出したりしないじゃありませんの」
「手を出してほしいのかい?」
「一応一義がわたくしにいつ手を出してもいいように下着は選んでいるつもりですわ」
「自身に劣情を催す男は嫌いなんじゃないの?」
「ええ、まぁ……それはわたくしの抱えるパラドックスですわね」
「そもそも劣情を催すってことは女として見るってことでもあるんだよ? なんでそんなに拒否反応を起こすのさ?」
「なんで……と言われましても……わたくし昔から美少女でしたの」
「話……飛んでない?」
「飛んでませんわ。ともあれ美少女故に男のおべんちゃらは聞き飽きていますの」
「ふーん」
「一義が初めてですの……」
「何がさ?」
「わたくしに興味を示さなかった男の子……がですの」
「可愛いとは思っているよ?」
「決闘に負けたらハーレムに入ってあげますと言ったわたくしに『それはメリットっとは言わない』と言ったじゃないですの」
「そりゃメリットじゃないしね」
「そんな風に扱ってくれたのは一義が初めてですの」
「はあ」
アグリと一義はケーキを食べる。
「わたくしに振り向かない男の子は一義が初めてですの。ですから振り向かせたくなるんですわ」
「ふーん。頑張ってね」
「一義はわたくしに想うところはありませんの?」
「だから可愛いとは思ってるって」
「そんな建前じゃなくて……この際わたくしじゃなくてもいいのですけど……ハーレムに手を出そうとは思わないんですの?」
「まぁ僕のハーレムは一人欠けることなく可愛いとは思うけど……手を出すかって言われると否だね」
「可愛い女の子が好きなのに?」
「可愛い女の子が好きなのに」
コクリと頷く一義だった。
「じゃあ仮にハーレム内で序列をつけるなら誰が一番ですの?」
「全員が平等だよ」
「残酷ですわね……一義は……」
「ま、否定はしないよ」
「一義に好きな人はいないんですの?」
「いるよ~」
ケーキを食べながらあっけらかんと言う一義。