いけない魔術の使い方02
「また増えてる……」
「また増えてるな……」
「また増えてるぞ……」
「また増えてやがる……」
「まぁた増えて……コンチキショウ!」
銀色と黒色と赤色と金色と青色と緑色と燈色と桃色の美少女たちを引き連れている一義は、そんな衆人環視の針のむしろとも云うべき視線にさらされた。
「…………」
ハーモニーが居心地悪そうに桃色の瞳を揺らして一義の制服の袖をギュッと握る。
不安の発露である。
一義はそんなハーモニーを抱き上げて、
「大丈夫だよハーモニー。みんなハーモニーが可愛いから見つめてるだけだよ」
ニッコリと笑うのだった。
「…………! …………!」
顔を真っ赤にしてコクコクと頷くハーモニー。
そうして一義率いる混成一個旅団がロードランナーを見ながら正門を通り過ぎると、深緑の髪に深緑の瞳を持った美少女……シャルロットが、
「じゃあ僕は図書館に行くよ。また夕食時に会おうじゃないか」
そう言って群れから外れた。
「うん。じゃあね。シャルロット……良き日を」
「ああ、君もだ。一義……」
そう言って二人そろってニヤリと笑って通じ合う。
「なーんかさぁ」
音々が切りだし、
「だね。旦那様とシャルロットって……」
花々が言葉を受け継ぎ、
「妙なところで通じ合ってませんか?」
ジト目のアイリーンがそう締めくくった。
「うん。気の置けない友人ってあんな感じなのかなぁって思うよ」
「男女の友情はありえると思っているタイプなんですの一義は……」
と、これはビアンカ。
「当たり前じゃん。人間は誰と誰ともが仲良くできる可能性を秘めている。男女だからって友情が成立しないなんて思うのは極論だよ」
「それも極論だと思うんですが」
と、これはジンジャー。
「君たちの嫉妬は可愛いね」
くつくつと一義が笑うと、
「「「「「「おべんちゃらは結構です!」」」」」」
とハーモニーを除くハーレムは抗議した。
「…………」
一人ハーモニーだけがパァッと笑った。
「花々、通訳よろしく」
「可愛いって言われたことが純粋に嬉しいみたいだよ」
「そうなの?」
「…………」
コクコクと頷くハーモニー。
「それでご主人様……これからどうなさるのでしょうか?」
「僕とかしまし娘とハーモニーは学院長室に。アイリーンは好きにして。ビアンカは研究室に顔を出すべきじゃない? ジンジャーは素直に講義を受けといて。なんなら魔術の訓練でもいいよ」
「「「「「「はーい」」」」」」
とハーレムが頷く。
「じゃ、ハーモニー……いこっか」
そう言ってハーモニーの手を握ろうとした一義目掛けて、
「いーちーぎっ!」
快活な声が聞こえたかと思うと、燈色の髪に燈色の瞳を持った年上の美少女が突進かつ抱きしめてきた。
一義はボディコントロールによって、もつれて転がることだけは回避したが、そんなことを気にせず、
「一義! 一義は可愛いねぇ! わたくしどうにかなっちゃいそう!」
「雷帝様。お戯れを」
「アイオンって呼んで!」
「はい。アイオン。離してくれます?」
「うーん。いや!」
「お姉ちゃん! 一義から離れる」
抗議したのはジンジャー。
「ジンジャーもハーレムなんだっけ! 姉妹揃っていい感じだね!」
会話の成立しないアイオンであった。
「それで! 一義! どうするの! 一年九組ってことは魔術覚えられないんでしょ! お姉さんが専属コーチになってあげようか!」
「僕の場合、魔術は使えるけどマジックキャパシティが他人の数千分の一ってだけですから……。どうしようもありませんよ」
「でも一瞬なら魔術も使えるんでしょ?」
「それはまぁ一瞬なら……」
ガシガシと後頭部を掻く一義。
「ま、とりあえずディアナに面会に行きますので学院長室に行きながら話を詰めませんか……?」
「うん! それがいいね!」
「というわけで抱きつくの止めてもらえます?」
「なんで!」
「ハーレムたちの視線が痛いからです」
「お姉さんもハーレムの一員だぞ?」
「でも今日かぎりで王都に帰るんでしょう? ドラゴンバスター……ビアンカも無事帰ってきたことですし」
「だから限りある時間を一義に使いたいの!」
「さいですか……」
はぁ、と一義は溜め息をつくのだった。
「お姉ちゃん……自重して……」
「ジンジャーも抱きつけばいいじゃん!」
「そんなことしたら一義が歩けないじゃん!」
ガルルと威嚇するジンジャー。
「ご主人様……あまりに奔放すぎるかと……」
「お兄ちゃん……なんでそんなにフラグ立てるかなぁ!」
「旦那様、嫉妬にも限度があるよ」
かしまし娘もそう抗議してきた。
「一義、あなたという人はどこまで……!」
とこれはアイリーン。
「反魂……殺竜……炎剣……雷帝……なんかもう一義のハーレム……わたくしたちだけで小国くらい滅ぼせそうな勢いですわ」
うんざりとビアンカ。
「あはは。もっともだ」
一義は笑うほかなかった。
「…………」
ハーモニーは相も変わらず黙ったままで一義の袖をギュッと握るのだった。
「「「「「雷帝までかよ……」」」」」
そんな衆人環視の批判と侮蔑の視線を受けながら一義は学院長室を目指すのだった。