ドラゴンバスターズ07
「では彼女さえ排除できれば鳥の国はドラゴンに手を出せませんわね……」
ギラリとビアンカが瞳に狂気を乗せる。
「自分から戦争は駄目だと言ったくせに」
「しかして炎剣さえいなくなれば後はこちらのモノですわ」
「可愛い女の子は大事しなきゃいけないよ」
「まさか炎剣までハーレムに入れるおつもりですの……一義は」
「そんなつもりはないよ。ただ可愛い子が傷つくのが許せないだけ。とにかくここは僕に任せて」
「一義がそう言うのなら……」
しぶしぶとビアンカは食事を続けた。
そして一義は一心不乱にパンを食べ続ける桃色の幼女……炎剣のハーモニーに話しかけた。
「ええと、もしかして君は炎剣のハーモニー? 僕は一義。よろしく」
「…………」
ハーモニーはパンを食べる手を休めず、話しかけた一義を見て、
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
十数秒視線を交錯させる。
そして
「…………!」
狼狽えたように席から転げ落ち、くわえたパンを食べながら顔を真っ赤にした。
「…………! …………!」
言葉には発せず、しかして見るからに狼狽するハーモニー。
「大丈夫。とって食べたりしないし、東夷だからって魂を穢したりもしないよ?」
「…………!」
フルフルと首を横に振るハーモニー。
「違うの?」
問うた一義に、
「…………」
コクコクと頷くハーモニー。
「じゃあなんで狼狽えてるの?」
「…………」
言葉にせずパンを食べるハーモニー。
その顔は耳まで真っ赤になっており、一義から見てもとても可愛らしい幼女だった。
「あ、もしかして僕に惚れた?」
茶化して場の空気を和らげようとした一義の言葉に、
「…………」
コクリと一回だけ……しかし決定的に頷くハーモニー。
「え……?」
困惑する一義。
「ご主人様……」
「お兄ちゃん……」
「旦那様……」
「一義……」
かしまし娘とビアンカが「またか」と怨嗟の声で一義を呼んだ。
「待った待った待った。僕はジョークのつもりで……」
「…………」
桃色の幼女……ハーモニーはパンを咀嚼、嚥下すると一義の服の袖をキュッと握った。
まるで子猫が構ってほしくて引っ掻くような……そんな仕草だった。
「炎剣のハーモニー様……? そのような戯言はおよしください……」
「そうだよ! お兄ちゃんは音々のモノ!」
「それも違う。旦那様の嫁はあたしだよ」
「一義はぁ……わたくしたちの気持ちを知っての狼藉ですの!?」
「だから……そんなつもりじゃなかったって……」
しどろもどろに言い訳をする一義に、
「言い訳ですか……ご主人様……」
「言い訳!? お兄ちゃん!」
「言い訳かい? 旦那様」
「言い訳ですの!? 一義……!」
四方から美少女が問い詰める。
「…………!」
そこに、一義を庇うようにハーモニーが立ちふさがる。
「その行為はなんでしょうか……ハーモニー様……」
「何のつもりさハーモニー!」
「なんのつもりだいハーモニー」
「何がしたいんですの炎剣……!」
「…………」
言葉は発しないが、それでも一義を庇おうとする意志だけはハーレムたちにも伝わった。
「あー……」
と一義は頭を悩ませた後、
「ハーモニー……」
とハーモニーに問う。
「君は僕に惚れたの?」
「…………」
コクリと頷くハーモニー。
「一目惚れ?」
「…………」
コクリと頷くハーモニー。
「冗談じゃなく?」
「…………」
コクリと頷くハーモニー。
「ハーモニーはドラゴンを狩るためにここにやってきたんだよね?」
「…………」
コクリと頷くハーモニー。
「諦める気はない?」
「…………」
フルフルと首を横に振るハーモニー。
「でも危険だよ? 君みたいな可愛い子が負うべき使命じゃない」
「…………! …………!」
可愛い、をトリガーに真っ赤になるハーモニー。
そんなネンネなハーモニーを抱き寄せて、
「いやぁ。可愛いねぇハーモニーは。お持ち帰りしたいくらい。変な趣味に目覚めちゃいそう……!」
一義はそう言うのだった。
「…………! …………! …………!」
一義に抱きしめられながら照れてハーモニーは赤い顔をさらに朱に染める。
「ご主人様……」
「お兄ちゃん!」
「旦那様」
「一義……!」
ハーレムたちが嫉妬に狂うが、そんなことを気にせず一義はハーモニーを抱きしめて猫可愛がりをする。
「…………。…………」
ハーモニーは無言のまま子宮に抱かれる胎児のように幸福に包まれた顔で一義の愛を受け止めるのだった。
「ご主人様……食事に戻りますよ……」
そう言って姫々が一義の右耳を引っ張る。
「お兄ちゃん! まだ食事を終えてないでしょ!」
そう言って音々が一義の左耳を引っ張る。
「旦那様。食事の時間だ」
そう言って花々が一義の右頬を引っ張る。
「一義……わたくしたちの間についてたっぷりと話をしなければなりませんわね」
そう言ってビアンカが一義の左頬を引っ張る。
「痛いよ四人とも……」
両耳両頬をハーレムに引っ張られて一義は食事に戻るのだった。
「…………」
そんな一義をポーッと恋する乙女の桃色瞳で見続けるハーモニーであった。