カウンター08
そして一義とかしまし娘はシダラの東方にあるスラム街へと赴いていた。
アイリーンとビアンカとシャルロットの西方ハーレムには各々に命令を実行させている。
原因をつくったのはシャルロットだがシャルロットを責めてもしょうがないというのが一義の判断である。
そんなこんなで誰もが恐れて立ち入らない……警察の防衛力の及ばない地域……シダラのスラム街へと一義とかしまし娘は歩を進めるのだった。
このスラム街では何が起きてもしょうがないとされるのがシダラの住民の総意だった。
それほどまでに危険な場所である。
ボロボロになったアパートその他の建築物が日光を遮り、昼間だというのに薄暗く汚臭のする雰囲気をもったスラム街。
「本当にこんなところに人が住んでるの?」
と一義が問いを投げると、
「シダラは王都ミストに次いで大きな都市ですから……」
姫々がそう言い、
「その性質上スラム街が……貧民層街が出来るのもしょうがないよ!」
音々がそう言い、
「故にファミリーが生活できるのさ」
と花々がそう言った。
街が大きくなればなるほど令状や警察力は行き届かなくなり、一部の地域にスラム街が出来る。
これはもうしょうがないことである。
故に霧の国でも王都ミストに次いで大きなシダラにスラム街が出来るのもやむなしというわけだ。
「ふーん。まぁいいんだけどさ」
そう呟いて一義はスラム街へと足を勧めた。
スラム街に入った瞬間、
「おい兄ちゃん……。いい感じにカキタレ連れてるじゃないか……ええ?」
早速と言うべきか……そんな風にスラム街の住人たるチンピラたちにからまれた。
数でいえば五人。
その一人たるチンピラはマスケット銃を一義のこめかみに押し付けて言う。
「ここを通りたければ財布置いていきな。それで許してやるよ」
「……はぁ」
一義は溜め息をついた。
「それからお前さんのカキタレは俺の相手をさせてもらうぜ。ん? それとも反論でもあるか? 東夷……」
銃を一義のこめかみに押し付けながら無茶な要求をするチンピラにうんざりとして、
「姫々……」
と一義は言った。
「はい……。ご主人様……」
そう答えて……姫々はハンマースペースから銃を取り出してチンピラのこめかみに押しつける。
「……っ!」
絶句するチンピラ。
「どっから銃なんてもんを取り出しやがった!」
「そんなことはどうでもいいんです……。ご主人様から銃をどけて……くださいますよね……?」
問うように命令する姫々に、
「わかった。わかったよ。俺が悪かった。だから撃たないでくれ」
銃を手放してハンズアップするチンピラ。
一義は言う。
「殺していいよ」
「はい……。ご主人様……」
「ちょ……ま……!」
チンピラの焦りなど気にせず姫々は引き金を引いた。
ダムダム弾にも似た銃弾がチンピラの脳を撃ち抜き、パァンと空気の壁を破った破裂音がスラム街に響く。
「てめぇ!」
「野郎っ!」
「このぉ!」
「なめてんじゃねえぞ!」
死体となったチンピラを気にせず残り四人のチンピラが殺気立つ。
しかして相手が悪かった。
ハンマースペースから無限に火器を取り出せる姫々。
魔術の威力において右に出る者の無い音々。
金剛の魔術故に不死の耐性を持つ花々。
そして銃弾の弾道すら見切る一義。
彼らの前にはチンピラのナイフなど通用するはずもなく……チンピラの集団は仲良く死体と化した。
「ぐ……が……」
音々の魔術を生き延びたチンピラが地に伏して呻く。
「ああ……まだゴキブリが一匹残っていましたか……」
這いつくばった羽虫を見るような目で姫々はチンピラを見ると、その額にマスケット銃を突きつけた。
「たす……助けて……」
哀願するように言うチンピラに、
「逆の立場ならどうしますか……あなたは……?」
そう問うて、
「さようなら」
姫々は引き金を引いた。
最後のチンピラが死ぬ。
「まったく……入った瞬間これか……。先が思いやられるね……」
一義はやれやれと呟き、
「音々……」
と音々を呼ぶ。
「なあに? お兄ちゃん!」
「相対座標維持で魔術障壁を張って。とりあえず僕の分だけでいいから」
「うん! わかった!」
快活に頷くと、
「斥力結界」
と音々は呪文を唱えて一義の周囲に斥力の魔術障壁を張った。
そしてシャルロットが白状したクリスタルの取引先へと向かう一義とかしまし娘。
その道中……今度は十五人のチンピラに囲まれる一義とかしまし娘。
チンピラの一人が言う。
「お前らはここの……スラム街のルールを破った。素直に金と女を差し出せば穏便に済んだはずだが、こうまで派手にやられちゃな……」
「で、どうするのさ?」
「お前らを殺す……!」
そして十五人のチンピラが襲い掛かってきた。