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カウンター07


 それは唐突に起こった。


 正確には一過生九組のトランスセットの講義の時間にジンジャーが起こした。


「うわっ! うわああああああああああ!!!」


 と、恐怖におびえるジンジャーだった。


 ジンジャーは広い多目的ホールで虚空を見ていた。


 その虚空に強固で強大なパワーイメージによる強迫観念を想像していた。


 そしてその……ジンジャーの想像通りにパワーイメージは再現される。


「グアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ビッグトロールがジンジャーの自滅観念として具現化した。


 トロール。


 それは青い皮膚に皮の衣服を身に纏い棍棒を持ったデミヒューマンである。


 一般的なトロールは全長が二メートルを超える強大な姿で、手に持った棍棒で人間を撲殺する天災の象徴なのだ。


 しかしてジンジャーが具現化したのはビッグトロール……トロールの亜種であった。


 その全長は四メートルを超え、持っている武器たる棍棒もそれに見合った強大かつ巨凶の棍棒であった。


「グアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 とビッグトロールは吼えて、


「グアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 トランスセットの指導をしている講師を巨大な棍棒で叩き潰した。


 棍棒に叩き潰されて血だまりと化した講師を見て、


「きゃあああああああああああああっ!」


「いやあああああああああああああっ!」


「うわあああああああああああああっ!」


 と絶望の悲鳴が響いた。


 ジンジャーのマジカルカウンターとして生まれたビッグトロールは多目的ホールにて破壊の限りを尽くした。


 それは暴風の再現だった。


「グアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 と吼えて、手当たり次第に棍棒を振るうビッグトロール。


 劣等生の集まる一過生九組に対抗する術は無い。


 ビッグトロールを押さえるだけの戦力をもたないが故に劣等生なのである。


 ビッグトロールは棍棒で周囲の学生を叩き潰しながらジンジャー目掛けて襲い掛かる。


「グアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ジンジャーを殺さんと襲い掛かるビッグトロールを見据えて、一義は、


「っ!」


 魔術による加速を行ないビッグトロールの棍棒からジンジャーを救った。


 ジンジャーをお姫様抱っこしたまま、一義はビッグトロールから逃げ出す。


 ジンジャーの被害妄想の具現化であるビッグトロールはジンジャーを殺すために追いかけてくるのだった。


「グアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 と吼えてジンジャーを抱きしめている一義目掛けて襲い掛かるビッグトロール。


 今の一義にはビッグトロールに対抗する術を持たない。


 故に逃げるしか手は無い。


 多目的ホールから外に出て、ビッグトロールから逃げる一義。


 棍棒にて学院の棟を破壊しながら一義とジンジャーを追いかけるビッグトロール。


 途中途中でビッグトロールはすれ違う学院生を撲殺してのける。


 それはあまりにも無軌道な暴力の再現だった。


 しかして一義は無力であっても一義のハーレムは有力である。


「ご主人様……大丈夫ですか……」


「お兄ちゃん、大丈夫!?」


「旦那様。大丈夫かい?」


 そんなかしまし娘の声に安堵する一義だった。


 そして姫々がハンマースペースからマスケット銃を取り出しビッグトロールの両目を射抜いた。


 音々は巨大なファイヤーボールを撃ってビッグトロールを焼き焦がせた。


 最後に金剛の魔術が掛かっている花々がビッグトロールの頭部を殴り潰した。


 そうしてジンジャーのマジカルカウンターは収まったのだった。




    *




「ああー……この効能……《クリスタル》だね」


 そんなシャルロットの言葉に、


「クリスタル?」


 クネリと首を傾げる一義。


 場所は王立魔法学院の医療課……その隔離病棟の一室。


 ジンジャーは意識不明になっていてベッドに縛り付けられている。


 そしてマジカルカウンター対策として攻性魔術師を二人……監視につけていた。


 そんなジンジャーの病室で、ジンジャーの寮部屋から見つかった麻薬を持ってきたかしまし娘からその麻薬を受け取り、シャルロットが効能を試して、結論付けたのだった。


「クリスタルとは何なんですの?」


 とこれはビアンカ。


「一言でいうなら覚醒剤だね」


「覚醒剤……ってアッパー系の麻薬だっけ?」


 記憶の隙間からうろ覚えの知識を取り出しながら一義。


「うん。けどクリスタルはただの覚醒剤じゃないんだ」


「というと?」


「一般的な覚醒剤より少々精神的依存症が強くて少々肉体的依存症が強くて少々幻覚性が強くて少々脳をやっちゃって少々肉体を蝕むってだけなんだけど……」


「少々もそれだけあれば……」


 一義はうんざりと言った。


「本当に少々なの?」


 とこれは音々。


「まぁ少々というか中々というか多々というか……ちょっとばっかし一般的な覚醒剤とは気合の入り方に一線を画しているのは否定できない」


「…………」


 一義はガシガシと後頭部を掻く。


「で、ジンジャーは大丈夫なんですか?」


 問うたのはアイリーン。


「うーん? 大丈夫じゃないね」


 あっさりとシャルロット。


「大丈夫じゃないんだ……」


「うん。先にも言ったけど精神的にも肉体的にも依存症が有り得ないくらい強いからね。ジャンキーまっしぐらだろう」


「そんな危険な薬に手を出したってか」


 苛立ったように一義。


「まぁ幻覚性も強いから魔術を使うには向いているけどね。実際マジカルカウンターという形でジンジャーも魔術を発動させたんだし」


「体を蝕まれちゃ意味ないでしょ」


「そうかな? どんな酷いことになっても力が欲しいってのは無力な奴が持つ一般的な願望だと思うけどね」


「それはそうだがね」


 シャルロットの論に頷いたのは花々である。


「そういえば前に言っていたね。シャルロット……。サンタナ焼きとともに麻薬を運んできたって。此度のクリスタル……君が運んできたんじゃないかい?」


「うん。そうだよー」


 あっさりと自白するシャルロット。


「花々……」


 とこれは一義。


「なんだい旦那様?」


「シャルロットにバックブリーカー」


「あいあい」


 そうしてシャルロットは花々によってバックブリーカーをかまされるのだった。


「痛い痛い痛い! ギブ! ギブアップ!」


 悲鳴を上げるシャルロットを気にせず花々はバックブリーカーを続ける。


「さて……」


 一義は意識を失っているジンジャーを見て、


「麻薬を使ってまで魔術を求める……か」


 一義は嘆息する。


「ご主人様……」


「お兄ちゃん……」


「旦那様……」


 かしまし娘が心配そうに一義を呼ぶ。


「まぁ自業自得と言えばその通りなんだけど……落とし前はつけさせてやらないとね」


 面倒くさそうに一義は後頭部を掻いた。


 そして、


「シャルロット……取引をした相手について洗いざらい話してもらうよ」


 いまだ花々の肩にてバックブリーカーをかまされているシャルロットは取引相手についての情報を洗いざらい話した。


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