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カウンター01


「月子は月子……月子って呼んで」


 灰色の髪に灰色の瞳に長い耳を持った灰色の美少女は和服を纏い、跪く一義にそう言った。


 灰かぶり。


 それが灰色の姫に名づけられた通称だった。


 だから灰色の姫……灰かぶりは……自らの容姿を好きではなく自らの名前たる月子という名称を尊んだ。


「了解しました。月子様……」


「様もいらない。敬語もいらない。月子って呼んで? 友達になって?」


「しかし……それは……」


 跪いたまま動揺する一義に、


「呼んでくれなきゃお父様にあることないこと告げ口しちゃうよ?」


 月子は悪戯っぽくそう言った。


「月子……」


「うん! よろしく! ねえ? あなたのお名前は?」


「一義……と……」


「一義……真理って意味だよね? いい名前だね」


「恐縮です」


「だから敬語は駄目だって」


「……ありがとう」


「どういたしまして! 一義!」


 そう言ってエルフの姫……月子はニッコリと笑うのだった。


 中略。


「一義はカウンターインテリジェンスとして月子の護衛をするんだよね?」


「はい」


「でも月子に守ってもらえるほどの価値はあるのかな?」


「というと……?」


「しょせん月子は灰かぶり。くすんだ灰色の灰かぶり。そんな奴を誰が狙うの?」


「…………」


「人間とエルフとのハーフで……大名たるお父様の子として生まれたってだけで城に住み……周りから疎まれている月子に守られる価値はあるの?」


 城の高みから城下町を眺めながら月子は問う。


 城は月子にとっての鳥のかごだ。


 出ることは許されず……毎日を城内で過ごす月子だった。


 そしてそれは月子の護衛をすることになった一義も同様である。


 とまれ、


「それは僕には知りえないことだよ。僕はただ……言われた通りに月子の護衛をするだけだ。それに……」


「それに?」


「僕と月子は友達だ。なら傍にいるのは悪くない」


 一義はガシガシと後頭部を掻きながらそう言うのだった。


「えへ……いーちぎっ!」


「なんだろ?」


「えへへ……何でもない……こともない……」


「どっち?」


「ありがと」


 そう言って月子と一義はじゃれあった。


 中略。


「ふええ……一義……一義……」


 月子は泣きながら一義に抱きついた。


「また姉様方に虐められたのかい?」


 抱擁しながら一義が問う。


「月子はいらない子だって。月子はエルフの子だって。だから必要ないって」


「そんなことないよ」


「でも……でも……」


「僕は月子が好きだ。だから月子は僕の言葉だけを気にかけて。いいじゃないか。誰に何を言われようとも。繊細な心を持った愛おしい月子のことを知っているのは……僕だけでいいんだよ」


「うん……うん……ありがとう……一義……」


 月子は一義の腕の中で泣くのだった。


 中略。


 一義はこの世に生れ落ちてから忍となるべくして育てられた。


 強靭な肉体。


 明晰な頭脳。


 強力な魔術。


 過激な毒性。


 それらを持ち合わせ、エルフの中でも随一の忍と相成った。


 そして一義は月子の父親である大名に月子の護衛として雇われた。


 人とエルフのハーフ……それが月子に纏わりつく汚名だった。


 ただの一般人なら珍しいことでもない。


 しかして月子の父は和の国の大名だったのである。


 人である父とエルフである母の火遊びとして結果……月子は生まれた。


 当然ながらそれは四方八方からの非難をよんだ。


 それでも月子の父は月子を引き取り、一義という護衛をつけ、そして誰の目の無いところでは真摯に月子を想っていた。


 敵だらけで排斥だらけの月子にとっては一義だけが味方だった。


 正室や側室は無論……その子らにさえ貶められる月子を、一義は抱きしめて慰めて優しくあやした。


 時には月子の身代わりとなり悪意を受けることもあった。


 ある意味でエルフである一義はハーフエルフの月子の受ける排斥を一番理解できたとも云える。


 無論……父である大名の遺産の相続権など存在しない月子にとって真なる味方は一義だけだったろう。


「一義……一義……恐いよ……悲しいよ」


 毎日毎日そう月子は泣いた。


 その度に一義は、


「大丈夫だよ月子。何があっても僕が守るから」


 そう月子を慰めた。


 中略。


「一義は魔術が使えるんだよね?」


「ええ、そういう風に育てられたからね」


「何か使って見せてよ」


「では……」


 と溜めて、


「花吹雪」


 一義は呪文を唱える。


 一義のパワーイメージは世界に投影されて、呪文の通りの花吹雪が月子の父の城の……月子にあてがわれた部屋に充満した。


「ふわぁ……すごいすごい……!」


 月子は部屋に充満した花吹雪に喜んだ。


「この花は桜?」


「うん。桜の花吹雪だよ」


「うわあうわあうわあ……桜色の花吹雪……綺麗だねぇ」


「恐縮です。姫……」


 花吹雪の中で一義は月子に跪く。


「あ、またそんな意地悪するんだ……」


「ふふ、申し訳ない月子。あまりにその……月子と花吹雪が神秘的だったから」


「ふえ……月子……神秘的……?」


「ええ、錬金術でもこうはいかないというほどの美少女だよ?」


「でも月子……ハーフエルフ……」


「僕に至っては純粋なエルフ……夷だよ。でもそんなことは関係ないんだ。美しいものは美しい。月子は魅力的な女の子だよ」


「あのね……あのね……一義……」


「なんだい?」


「月子……はね……いつでも……一義に……感謝……してる……」


「感謝されるようなことはしてないけどね」


「ううん……感謝ばっかり……。一義は月子を……月子として見てくれる……。そんなことに月子はいつも救われているんだよ……?」


「そうなの?」


 問う一義に、


「そうなの」


 頷く月子。


 桜吹雪が舞う。


「だからね……一義……」


「なんだい?」


「月子は一義の事が好き……なんだよ……?」


「…………」


 沈黙する一義であった。


「…………」


「…………」


 しばし桜吹雪の中、沈黙が続き、


「いや……しかし……それは……」


 狼狽える一義であった。


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