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いざ王都10


「一義様とハーレムの皆さん。どうぞお席に着いてください」


 そこはミスト王城の女王ミストの私室。


 ベッドは天蓋付きで……部屋の隅の本棚には所狭しと大陸東西の本が並び……床は柔らかな感触を与えるカーペット……天井にはガラスでできたシャンデリア……ガラスの窓から見えるのはシンメトリーに整えられた壮大な庭。


 ベランダに白いテーブルがあるということは庭を見下ろしながらお茶が出来るということであろう。


 そんな派手な部屋模様に臆さず、一義は一つだけ浮いている本棚に目をやる。


 本棚には大陸東方の大国……禅の国の哲学書から大陸東方の歌劇の台本まで一通りそろっていた。


 女王……ディアナがビブリオマニアなのだろうと結論付ける一義。


 そしてディアナの私室の中心に置かれたテーブルは六人掛けで、すなわち一義と姫々と音々と花々とアイリーンとディアナが座れるようになっていた。


 各々が各々の席に座る一同。


 ディアナは一義の隣に優先的に座った。


 それを見届けた後で、


「…………」


 無言のままディアナの侍女が紅茶を淹れ、茶菓子をテーブルの中央に置く。


 とディアナが「やってしまった」という顔をする。


「あ、これは申し訳ありません一義様……もしかして東方のお茶の方が良かったですか? 私ったらついいつものように紅茶をセレクトしてしまいましたが」


「紅茶で結構だよディアナ。それから侍女さんもありがとう。いい香りだね、この紅茶」


「…………」


 侍女は無言のままペコリと頭を下げると、ディアナの私室から出ていった。


「変わった侍女だね」


「生来からの気質で無口なんだそうです。でも仕事は的確で速いので重宝していますわ」


「なるほど……」


 納得して紅茶を一口。


 発酵した茶葉の香りが口内に広がる。


「うん。いいお茶だ」


 一義はそう評した。


「でしょでしょ?」


 うんうんと頷くディアナ。


「それでそれで……! ドラゴンバスターバスター様……!」


 とディアナはわざと二つ名の方で一義を呼ぶ。


「何でしょう?」


「あのドラゴンバスター……ビアンカをどうやって倒してのけたんですの? 瞬殺と聞きましたが……!」


「それより女王陛下。審議する案が二つあり申す」


「私のことはディアナとお呼びください」


「なら僕のことも一義って呼んで」


「では一義様。審議……とは?」


「いや……ええ……?」


 むしろそのためにわざわざ王都まで来たのに何を言ってるんだコイツは、という言葉を呑み込んで、


「ディアナが欲したサンタナ焼きの受け渡しと、反魂のアイリーンを霧の国に……ひいては王立魔法学院に学生として所属させるための手続きだよ。まさか忘れたとは言わない……よね?」


 一義は提案する。


「ああ……そう言えばそんなこともありましたわね。では運んできたというサンタナ焼きを見せてもらえますか?」


「こちらに」


 とサンタナ焼きの入ったアタッシュケースをディアナに渡す一義。


 ディアナはケースを開けてサンタナ焼きを確認し、言った。


「はい。確認しました。それから反魂のアイリーン様の処遇を決めなければと聞きましたわね。アイリーン様はどうなさりたいのです? アイリーン様のような御方なら鉄の国と同じく宮廷魔術師の地位をもって遇することもできますが……」


「私は……王立魔法学院に在籍したいです。一生徒として」


「でもさすがにアイリーン様のネームバリューから云ってそれは難しいと思うのですけど……」


「しかして私を霧の国の宮廷魔術師にしては鉄の国から反感を買うと思うのですが……」


「あー、それもそうですね……」


 めんどくさいという文字を顔に書いて紅茶を飲むディアナ。


「ではこうしましょう。アイリーン様は霧の国の客分として扱い、王立魔法学院の特別顧問として学院に派遣する……という形をとっては」


「特別顧問……ですか。それはいかような地位で?」


「さあ?」


 わからないと言の葉の張本人たるディアナが首を傾げる。


「さあ……って……」


「そもそも特別顧問なんて制度がありませんもの。まぁそれは権力でどうにかなりますし……無理矢理学院にねじ込みますよ。後はその肩書きを使って学院で好きにすればいいんではなくて?」


「つまり学生でも教授でもない地位につく……と?」


「そういうことですわね」


 あっさりと頷くディアナだった。


 それからテーブルに乗せられているベルをチリンチリンと鳴らすディアナ。


「…………」


 無言の侍女がおずおずと部屋に入ってくる。


「宰相をお呼びなさいな」


 そんなディアナの命令に答えず、


「…………」


 ペコリと一礼することで応え、侍女は部屋から出ていった。


 アイリーンとディアナが王立魔法学院での処遇についてアレコレ議論を交わしていると、いかにも貴族然とした格好の老齢の男が部屋に入ってきた。


 そのシルクよりもなめらかな服の繊維は、服蜘蛛の糸を寄り集めて作ったモノなのだろうと予測する一義。


 そしてそれは正解だった。


 ディアナにかしずいて用を聞く男……宰相に、


「反魂のアイリーン様を王城の客分として扱い特別顧問として王立魔法学院に派遣します。手続きを」


 特別顧問とは、と問う宰相に、


「まぁ要するに穀潰しですよ。給料も教授と同程度で、そういう地位だけ作ってアイリーン様をねじ込みなさい。これは国王案件です。何よりも優先して取り掛かりなさい」


 と説明および命令をするディアナ。


 肯定して部屋を出る宰相。


 ディアナは紅茶を一口飲んで、


「これで明日にはアイリーンは王立魔法学院の特別顧問です。まぁ……てきとうにやってください。顧問ですから生徒を指導してもいいですよ?」


「骨折り……ありがとうございます」


 と礼を言うアイリーンに、


「そんなにかしこまらないでください」


 とディアナはニッコリ笑う。


「しかし大事だよね? ディアナ自ら動かなくていいの?」


「私は御覧の通り美少女ですから……」


 そんなディアナの言葉に、


「?」


 首を傾げる一義。


「つまりお飾りってことですよ。細かい事務は宰相や大臣がやってくれます。私はまれに陳情を聞いたり宰相の監視をするくらいで……あとは国王案件を処理するくらいですね」


「国王案件……」


「戦争を起こすか否かの判断……です」


「まぁ確かにそれはディアナでなければなりませんね」


 納得して一義は紅茶を一口。


「私は鉄の国との関係は国境紛争に留めたいのですが、どうも大臣の中には過激な連中が数人混じっているらしく……そいつらを押さえることも私の仕事と言えば仕事ですね」


 肩をすくめてみせるディアナ。


「ディアナは戦争に反対なのですか?」


「反対ではありませんが最終手段だとは思っています。まずは話し合いの席に着くこと。無用に血を流すのは私の望むところではありません。仮に戦争を起こすとしてもまず真っ先に戦争賛成派の大臣と貴族を戦場に立たせようと思っています」


「なるほど」


 くつくつと笑う一義。


 理にかなったディアナの言葉に、王としての風格を読み取ったのだ。


「ところでところで……一義様!」


「何でしょう?」


「どうやってドラゴンバスターを倒しましたの? 聞くところによれば瞬殺だったそうですが」


「あー……その話に戻りますか……」


 紅茶を一口。


 そしてビアンカとの戦いを説明する一義。


 それは要するにビアンカのファイヤーボールの爆発から魔術による大ジャンプで避けて、なおかつ着地と同時に背後をとり首筋に手刀を入れたというだけの話ではあったのだが。


 ディアナはコクリと首を傾げる。


「そんなことで背後をとれますの?」


「ディアナが思っているより人の視界の上下は狭いものなんです。爆発で視界を埋めた魔術師の目には僕なんて映りませんよ」


「もう一回やれと言われればできますか?」


「そりゃ相手がファイヤーボールを使えれば、ですけどね」


「ならば見せてください!」


「嫌だといったら?」


「打ち首です」


「わかりましたよ……」


 変なことになってきたな……と一義は思わずにはいられなかった。


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