いざ王都07
そしてロードランナーが馬の三倍の速度で山道を走る……その車内でアイリーンはポツリポツリと事態を語りだした。
「さっきの黒衣に仮面の人物はフェイちゃん……フェイっていうんです」
「知り合いなのかな?」
問う一義に、
「姉妹です」
とアイリーンが爆弾を落とす。
「「「「…………」」」」
一義とかしまし娘に沈黙の帳が落ちる。
「ええと……」
「それは……」
「ご愁傷様……」
「と言うべきかな……」
と答えに躊躇いが生まれる一義とかしまし娘。
「でもなんでこんなことになったのさ?」
一義が聞くと、
「私とフェイちゃんは孤児だったんです」
さらにまた爆弾を落とすアイリーン。
「「「「…………」」」」
沈黙する一同。
「私とフェイちゃんは親に捨てられてヤーウェ教の教会に引き取られました。そこはヤーウェ教の教会でしたけど……一般的なそれとは違いました」
「ファンダメンタリスト……」
ポツリと一義が呟く。
「はい。私とフェイちゃんが拾われたヤーウェ教の教会は……原理主義過激派……ファンダメンタリストの教会でした」
「…………」
「私とフェイちゃんはファンダメンタリストの刺客となるように育てられました」
「それは……何と言っていいか……」
「気にしないでください。例え教会がファンダメンタリストでも……私とフェイちゃんにご飯を食べさせてくれたのは事実なんですから。だから教会の意向に従うのは当然のことだったんです……」
「そ」
一義はそっけなく言う。
「だから私とフェイちゃんはファンダメンタリストとして、神の教義に反する異端を狩って狩って狩り尽くしました」
それはつまり……幾度となく殺人を行なってきたということだ。
「殺人を行なうことに疑問は感じなかったの?」
「それはもう。だってそうあるべきだと教会に教わって私とフェイちゃんは育ってきたんですから。それが良いか悪いかなんて判断は生まれませんよ」
「まぁそんな環境なら……そうなのかな……?」
クネリと首を傾げる一義。
「はい。幾人も……幾人も……私とフェイちゃんは教会に言われるままに人を殺していきました……」
「ということは……アイリーンはヤーウェ教原理主義過激派……ファンダメンタリストに所属していたってことだよね? それがなんでファンダメンタリストに狙われることになるのさ?」
「ですから反魂の魔術のせいですよ」
「死人を蘇生させる……」
「はい」
頷くアイリーン。
「一年前……フェイちゃんは不治の病にかかりました……」
「不治の……病……?」
「はい。白死病です」
「「「「…………」」」」
沈黙する一義とかしまし娘。
白死病。
それは流行病の中でもバイオセーフティレベルが最も高い病気である
「でも……フェイは生きてるじゃないか……」
「だから私は白死病で死んだフェイちゃんを反魂の魔術で生き返らせたんです」
「…………」
「結果は成功でした。私はフェイちゃんを蘇生させることに成功しました。それが一年前のことです」
「…………」
「そして私は神の第一の教義である《死》に逆らった異端として自らの所属するファンダメンタリストに命を狙われることになります」
「それで鉄の国に……」
「はい。身の安全と引き換えに鉄の国の宮廷魔術師となりました」
「でも……せっかく生き返らせてもらったっていうのに何でフェイはアイリーンを殺そうとするのさ? 感謝こそすれ迫害しようなんて……」
「フェイちゃんは神の定めた教義である死を覆した存在としてファンダメンタリストでも危うい立場を手に入れたんです。だからその原因である私を殺さなければ安全を保障してもらえないのです」
「なるほどね」
一義はうんざりと納得した。
「つまりアイリーンはフェイを生き返らせたことでアイリーン自身とフェイの立場を危うくしたと。そしてそれを覆すにはフェイはアイリーンを殺すしかないと」
「そういうことです」
頷くアイリーン。
「でも姉妹で殺しあうなんて……」
「そんなの間違ってるよ!」
「和解する方法は無いのかい?」
提案するかしまし娘に、
「無理でしょうね」
アイリーンはフルフルと首を横に振った。
「私は一年間鉄の国で一般的なヤーウェ教を学びましたから温厚になりましたが、フェイちゃんは今でもファンダメンタリストに所属しています。故にファンダメンタリストの教義が第一義となっているのです」
「そんな……!」
姫々が悲しそうに言う。
「それって!」
音々が悲しそうに言う。
「悲しすぎはしないかい?」
花々が悲しそうに言う。
「しょうがないですよ。私とフェイちゃんは自我が芽生えた時からファンダメンタリストに染まっているのですから……」
苦笑するアイリーン。
「じゃあ……アイリーンが生きている限り……フェイはアイリーンを狙いつづけるってことなの?」
「そういうことになります」
しっかとアイリーンは頷く。
「それを人は地獄というんだよ」
「でもしょうがないんです。私は白死病で死んだフェイちゃんを助けたかった。神の教義に背いても助けたかった。そして私はフェイちゃんを助けられた。なら……それがこの結果を産んだというのなら、私は喜んでそれを受け入れます」
アイリーンは躊躇いなく断言する。
「まぁアイリーンがそう言うのなら僕に言えることはないけどさ……」
ガシガシと後頭部を掻く一義。
「わたくしにはわからない世界です……」
「音々にもわかんない!」
「あたしなら納得できないがねぇ」
そう呟くかしまし娘に、
「フェイちゃんが生きている。それだけで私は嬉しいんです。だから私はこの結果を受け入れています」
アイリーンはそう首肯するのだった。




