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それから三年後11


 一義と姫々と音々は、ソフトドリンク。


 花々とゼルダが、大吟醸。


 月を見ながら、ホケッ、と、各々の飲み物を、喉に通す。


「商都は賑やかですね」


「まね」


 軽やかに一義。


「慣れていますか?」


「ゼルダと会ったのも商都でしょ」


 団子茶屋の、席取り魔人。


 かしまし娘をウェイトレスとして働かせ、日がな一日ボーッと過ごす。


 そんな毎日だった。


 無論、戦闘訓練は、日課だったが。


 一銭にもならないため割愛。


「それにしても乙女ですね」


「誰が」


「生徒たちですよ」


「あー……」


「一義も罪な人ですね」


「振れば珠散る危険な男だけどねぇ」


「純粋に格好良いですよ」


「ありがと」


 玉露を飲む。


「はふ」


 と音々。


「魔術の方も人外の域に達していますし」


「それは生徒に帰せるべき物」


 幼いなりの無知は、水を吸うスポンジのように、知識と経験を吸収する。


「一義は呑まないんですか?」


「別にそんなわけじゃないけど、何となくね」


 玉露を飲んで、


「ほ」


 と吐息。


「それで生徒たちですけど」


「何か?」


「手を出しちゃ駄目ですよ」


「あー無理無理」


 花々が皮肉った。


「ですね」


「だよ」


 姫々と音々も同意した。


「…………」


 一義は、胸中、何を思うか。


 茶を飲みながら、月を見上げる。


「ヘタレですから」


「ヘタレだからね」


「ヘタレなんだよ」


「…………」


 一義は、胸中、何を思うか。


 殺意を飲みながら、月を見上げる。


「先生方を抱いたりとか……」


「わたくしはオールオッケーなんですけど……」


「音々も!」


「あたしもだね」


「一義の方にその気無しと」


「そういうことです」


「そゆこと」


「然りだ」


 散々だった。


「でしたら小生にもワンチャンあるでしょうか?」


「殺されたいんですか?」


「弑されたいの?」


「墓穴は自分で掘ってくれよ?」


 殺気立つ、かしまし娘。


 さすがにゼルダは、青ざめる。


 藤色の瞳は、戦慄のソレ。


「まぁ気持ちはわからんじゃないが」


 とは一義の談。


「ご主人様!」


「お兄ちゃん!」


「旦那様」


「ま、要熟考ってことで」


 湯飲みを傾ける。


「良い月だねぇ」


 その言葉だけで、かしまし娘は何も言えなくなるのだった。


 天高く。


 手を伸ばしても届かない。


 圧倒的距離。


 なお、その距離でありながら燦然と輝く月。


 その名を冠した乙女が、天に昇ったとしたら、一義は何を思うか。


 かしまし娘には、痛いほど理解できた。


「…………」


 淡々と、一義は、玉露を飲んだ。


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