それから三年後09
二日目。
松林を抜けて、商都へ。
一義たちは、少し目立っていた。
少し……というか、普通に目立っていた。
周りの人間は黒髪に黒眼……黄色い肌。
白い肌は珍しいし、カラフルな髪と瞳も、また珍しい。
「ああ、異国人なんだな」
と一義は思ったが、例外さの度合いで言えば、一義の方が深刻だ。
白髪白眼に、褐色の肌。
浮く事、請け合いだ。
とりあえず旅館にチェックインを済ませ、荷物を置く。
着替えが入っているため、割と重い。
それから二日目は、自由時間と相成った。
とはいっても、生徒たちは少女。
監督役が必要。
割と簡単に、配分される。
一義が、ステファニーとザンティピーの監督。
姫々が、タバサとアーシュラ。
音々が、ヴァレンタインとウェンディ。
花々が、イヴォンヌ。
魔術講義の割り振りと同じだ。
「先生です」
「へぇへ」
「…………」
ザンティピーは、甘える様に、すりよってくる。
「どこに行きましょうや?」
「馬車で通った松林は趣深いね」
「でっかいお城がありますよ?」
「ソレは明日」
ゼルダの交渉の末、城内見学が許されていた。
「とりあえず団子茶屋で一服しますか」
商都の団子茶屋は、人気店が多い。
商人の団子に対する嗅覚が研ぎ澄まされており、辛辣な評価の元、カテゴリー化されている。
商都に於いては、賑わっているところの団子茶屋なら、まず外れが無い。
そんなわけで一服。
みたらし団子を食べて、玉露を飲む。
「幸せ」
一義にしてみれば、美味しい物を食べられれば、ソレで良いらしい。
「じゃあ先生」
「…………」
ステファニーとザンティピーは、一義の腕に抱きついた。
外見年齢が同じ程度であるため、微笑ましい絵だ。
「染め物の見学に行きませんか?」
「いいね」
草木から色を抽出して、織物を染め上げる。
その過程は職人技で、鮮やかな青色が、布を等分に色付ける。
色味に一切の偏りが無く、完璧な均一の着色だ。
呼天と呼ばれる染め物らしい。
「鮮やかに尽きるね」
どんな職人にも言えるが、技術の突出は、感性の垣根を越えて、人を感動させる。
それから染め物を取り扱っている服屋に、顔を出す。
色とりどりの和服。
呼天染めもあった。
色々と試着して、服を買う。
和服だ。
新しい服を買うと、出掛けたくなる。
そんな原理で、おニューの服を着たステファニーとザンティピーは、一義に寄り添って、商都を歩く。
三人ともに、麗しい御尊貌だ。
熟れ違う人間が、押し並べて振り返る。
気にする一義でも無かったが。
しばらく商都を散策すると、一つの喫茶店が目についた。
大陸西方の出張店らしい。
興味本位で入店。
お品書きを見る。
コーヒーやチョコレート、ココアなどが並んでいる。
コーヒーは、一義も飲んだ事があるし、嫌いではない。
チョコレートとココアを頼む一義だった。
ステファニーとザンティピーも各々に頼む。
「お、美味しい」
甘さが濃厚だが、味がしっかりしているため、スルスルと飲める。
「これは気に入ったかも」
「ですね」
「…………」
三人で、カプチーノやらアイスココアやら薬用チョコレートやら、物珍しいメニューを頼んで、回し飲み。
どれも甘かったり苦かったりだが、美味しく飲めた。
「はあ。幸せ」
ステファニーは、アイスココアが、お気に召したらしい。
勘定は一義。
小遣いとして、姫々から、少なからざる金銭を貰っていた。
「次は何処に行きましょう?」
「折角商都に来たんだから露天商を冷やかすとか?」
「…………」
ザンティピーは、甘えるようにすり寄ってくる。
「む」
ステファニーも、また一義の腕に抱きついた。
「本当に君らは僕が好きだね」
「です!」
「…………!」
ギュッ、と、力を込めて、抱擁された。




