表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/315

それから三年後07


「というわけで行ってきます!」


 ゼルダは、荷物片手に、馬車に乗った。


 座学庵から、馬車で二日の処に、旅館はあるらしい。


 途中に大きな川があり、季節柄、馬車が通る夜道は、螢が綺麗な景色と化すとのこと。


 二日目は、和の国の城の一つを見学。


 この交渉は、ゼルダに一任されている。


 別に成立せずとも、旅館の周りは見るべき物があるため、


「無益には為らない」


 と太鼓判は押してある。


 で、


「だる~い」


 ゼルダが一ヶ月後の修学旅行のための先行旅行であるため、臨時の教養講師に一義が選ばれた。


「じゃあとりあえず漸近線の復習から行こっか」


 これはヴァレンタインを慮っての講義だ。


「次元って概念があるんだけど――」


「点。線。面。間。ま、色々だね――」


「要するに漸近線を境界として高次元に力学をすっ飛ばす――」


「あーっと、負債を別の形にして放逐するってことで――」


「曰く無限空間の生成ではあるけども――」


 少女たちには、少し厳しい授業だった。


 眠る生徒が半数。


 首を傾げる生徒が半数。


 ヴァレンタインだけはついていけていたが、これは音々の指導の賜物。


「まあ元よりヴァレンタインのための講義だからな」


 一義としても、そこまで熱意は持っていない。


「しかしこう考えるとゼルダの存在は思いの外大きいな」


 緑茶を飲みながら、一義はぼんやり再確認。


 教養科目を理解し、噛み砕き、教授する。


 一義も、さすがに長生きしているため、知識は引けを取らないが、


「人に教える技術がない」


 との自己結論。


 そして、


「教養講義は中止」


 と有り得ないことをほざいた。


「何するんですか?」


 ステファニーが尋ねると、


「魔術の訓練」


 結局、一義たちに出来るのは、ソレなのだ。


 ゼルダも出来るが、もうこの四年で、だいたい生徒は、各講師に割り振られていた。


 ウェンディはヴァレンタインに付いていって、音々の数学講座を受けている。


 他の生徒も、めいめいに魔術の鍛錬。


「…………」


 キュッと弓弦が絞られる。


 弓は持ち前だ。


 さすがに「弓を魔術で維持しながら矢も同時に」とはいかない。


 無論、研鑽を積めば話は別だが、今は矢の調達だけでもアーシュラの本懐だ。


 座学庵は竹藪と隣接しており、野生動物相手に弓の腕を試すのが、アーシュラの日課。


 ステファニーの講義は、ザンティピーに任せて、一義はアーシュラを追った。


 姫々はタバサに尽きっきりでコーチ。


 静寂。


 静まりかえった空気。


 それが圧力となって、森林を威圧する。


 我慢勝負だ。


 既に弦は引いている。


 どちらがプレッシャーに負けるか。


 理性を獲得している分、アーシュラに有利だった。


 ガサッ、と、静止に耐えられなかった野ウサギが、飛び出す。


 その刹那の後の先。


 殆ど同時と言える御業で、矢を放つ。


 一直線。


 姫々のハンマースペースの応用で、無尽蔵の矢を取り出せるアーシュラ。


 なお弓は使い慣れ、矢はトランスでイメージを固定しているため、ばらつきが全く存在しない。


「――――」


 野ウサギが鳴いた。


 脚に矢が刺さって、痙攣している。


「上手いもんだ」


 一義の賞賛。


「まだ普通の矢しか具現できませんけど」


「銃は、ときの声にはなるが、音が派手だからねぇ」


「ですです」


「無音の弓が有利な場合もある」


「ま、僕の場合は弓手が将来の目標だったんで、魔術については渡りに船というか二足のわらじというか……」


「アーシュラらしいな」


 一義は苦笑した。


 斥力場の展開。


 離れた場所で、射られたウサギが、直上に跳ねる。


「おや」


 さらに斥力場の展開。


 放物線を描いて、射貫いた野ウサギが、こっちまで運ばれてきた。


「斥力場……」


「ま、活用次第じゃ鬼にも蛇にも為る可能性だね。それはアーシュラの矢も等しく可能性はあるんだけども」


 とりあえず昼食が、少しだけ豪華に、なりはした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ