それから三年後06
「そんなわけで」
と、教師ゼルダ。
藤色の瞳は、ニコニコしている。
異国部は、座学庵でも、異例処置だ。
あまり鮮やかなフィルターでは、見られない。
ゼルダ自身、名の通り、和の国以外の血を取り込んでいるハーフエルフであるため、閉鎖的な和の国では肩身が狭い。
というのが初期の通念だったのだが、
「異国人は怪物か」
と、昨今が座学庵で、恐れられている。
一義とかしまし娘が、魔術講師になれば、相応の効率性は発揮される。
幼児の頃から超一級の魔術を見てきた異国部の生徒にとって、その驚愕が普遍に変わる時間は、確かに経った。
四年間、背中を追い続けたのだ。
怪物とまでは行かなくとも、怪物の卵程度の威力はある。
その生徒らをして、
「まだへっぽこ」
と呼ばしめる一義たちが、
「何者なるや?」
という話だが。
で、閑話休題。
藤色の声が、かかった。
「今日決まったことですが、一ヶ月後、修学旅行に行きませんか?」
「…………」
少し温度が冷えた。
鼻つまみ者の異国部に、修学旅行の予算が、振り分けられる。
そりゃ裏も勘ぐられるが、
「いいんじゃない」
一義は平然と言った。
別に、
「善意による提案」
と信じているわけでは無いが、予算を振ったと言うことは、それなりの評価なのだろう。
有り難く受け取って、不備も無い。
「ご主人様と……」
「お兄ちゃんと……」
「旦那様と……」
だいたい一義が関わると、大人げない三人である。
慣れた物で、
「旅館に泊まれるの?」
ゼルダに話題提供。
「はい。温泉地の和風旅館。星三つだそうです」
「そりゃ凄い」
そして最終確認。
「男女別だよね? 混浴とか有り得ないよね?」
「そこは大丈夫です」
何せ修学旅行だ。
異性の裸体を、少女たちに見せるわけにはいかない。
「水着を着用しますので!」
「ボンテージでもいいよ!」
「性別という垣根は人類の業だよ」
「哀れかしまし娘」
と思っていると、粘着質な視線が七対十四つ。
碧色。
墨色。
鉛色。
錫色。
丹色。
杏色。
栗色。
当然、生徒の視線だ。
特に何を口にするわけでも無いが、一義に視線が突き刺さっていた。
特に、碧色と杏色の瞳には、熱がこもっている。
「ま、そうなるよね」
心の中で納得。
先述したように、和の国では肩身の狭い異国人。
亜人であるエルフ。
眉目秀麗の少年。
四年間追いかけた背中であり、憧憬であり。
日に日に乙女学を学んで、赤飯を炊いたり自慰したり。
その劣情が、一義に向くのも「宜なるかな」との様子だ。
「ま、ほっときゃ冷めるでしょ」
別に鈍感な一義でも無いから、理解はするが、そも人と亜人とでは、歩む速度が違う。
一義自身は、死にたくなること多々あれど、かしまし娘によってなんとかかんとか生きてはいる。
この負担を、生徒に肩代わりさせようとは、露とも思っていない。
大前提として、
「月子を想う」
が先にあり、
「ヒロインの対処」
は二義的だ。
この辺の塩梅は、さすがに少女に語ることでも無いため、かしまし娘くらいしか理解していないが、むしろだからこそ最後まで黙っているつもりだった。
「それで修学旅行のスケジュールを皆さんで考えるんですけど……」
ゼルダは、藤色の瞳でニコニコ。
単純に楽しみらしい。




