表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/315

それから三年後06


「そんなわけで」


 と、教師ゼルダ。


 藤色の瞳は、ニコニコしている。


 異国部は、座学庵でも、異例処置だ。


 あまり鮮やかなフィルターでは、見られない。


 ゼルダ自身、名の通り、和の国以外の血を取り込んでいるハーフエルフであるため、閉鎖的な和の国では肩身が狭い。


 というのが初期の通念だったのだが、


「異国人は怪物か」


 と、昨今が座学庵で、恐れられている。


 一義とかしまし娘が、魔術講師になれば、相応の効率性は発揮される。


 幼児の頃から超一級の魔術を見てきた異国部の生徒にとって、その驚愕が普遍に変わる時間は、確かに経った。


 四年間、背中を追い続けたのだ。


 怪物とまでは行かなくとも、怪物の卵程度の威力はある。


 その生徒らをして、


「まだへっぽこ」


 と呼ばしめる一義たちが、


「何者なるや?」


 という話だが。


 で、閑話休題。


 藤色の声が、かかった。


「今日決まったことですが、一ヶ月後、修学旅行に行きませんか?」


「…………」


 少し温度が冷えた。


 鼻つまみ者の異国部に、修学旅行の予算が、振り分けられる。


 そりゃ裏も勘ぐられるが、


「いいんじゃない」


 一義は平然と言った。


 別に、


「善意による提案」


 と信じているわけでは無いが、予算を振ったと言うことは、それなりの評価なのだろう。


 有り難く受け取って、不備も無い。


「ご主人様と……」


「お兄ちゃんと……」


「旦那様と……」


 だいたい一義が関わると、大人げない三人である。


 慣れた物で、


「旅館に泊まれるの?」


 ゼルダに話題提供。


「はい。温泉地の和風旅館。星三つだそうです」


「そりゃ凄い」


 そして最終確認。


「男女別だよね? 混浴とか有り得ないよね?」


「そこは大丈夫です」


 何せ修学旅行だ。


 異性の裸体を、少女たちに見せるわけにはいかない。


「水着を着用しますので!」


「ボンテージでもいいよ!」


「性別という垣根は人類の業だよ」


「哀れかしまし娘」


 と思っていると、粘着質な視線が七対十四つ。


 碧色。


 墨色。


 鉛色。


 錫色。


 丹色。


 杏色。


 栗色。


 当然、生徒の視線だ。


 特に何を口にするわけでも無いが、一義に視線が突き刺さっていた。


 特に、碧色と杏色の瞳には、熱がこもっている。


「ま、そうなるよね」


 心の中で納得。


 先述したように、和の国では肩身の狭い異国人。


 亜人であるエルフ。


 眉目秀麗の少年。


 四年間追いかけた背中であり、憧憬であり。


 日に日に乙女学を学んで、赤飯を炊いたり自慰したり。


 その劣情が、一義に向くのも「宜なるかな」との様子だ。


「ま、ほっときゃ冷めるでしょ」


 別に鈍感な一義でも無いから、理解はするが、そも人と亜人とでは、歩む速度が違う。


 一義自身は、死にたくなること多々あれど、かしまし娘によってなんとかかんとか生きてはいる。


 この負担を、生徒に肩代わりさせようとは、露とも思っていない。


 大前提として、


「月子を想う」


 が先にあり、


「ヒロインの対処」


 は二義的だ。


 この辺の塩梅は、さすがに少女に語ることでも無いため、かしまし娘くらいしか理解していないが、むしろだからこそ最後まで黙っているつもりだった。


「それで修学旅行のスケジュールを皆さんで考えるんですけど……」


 ゼルダは、藤色の瞳でニコニコ。


 単純に楽しみらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ