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一年後13


 座学庵祭。


 あまり広い学舎でもないが、保護者や来賓は集まっていた。


 一義たち……正確にはゼルダの教室は、異国部ということもあって異彩を放っている。


 碧色。


 墨色。


 鉛色。


 錫色。


 丹色。


 杏色。


 栗色。


 色彩豊かな異国人の幼女が、愛らしいメイド服を着て、接待してくれるのだ。


 銀の姫々。


 黒の音々。


 赤の花々。


 かしまし娘にも注目は飛び火する。


 実際に完成度の高い美少女三人であるから、


「男が鼻の下を伸ばすのもしょうがないですね」


 と云った具合。


 ゼルダは和服に和風のエプロンをして、会計に従事している。


 で、


「…………」


 一義は店の隅っこで、シェイクランスの脚本を読んでのんべんだらり。


 白い髪と瞳。


 長い耳。


 これだけならまだいいが、


「褐色の肌」


 は大陸でも珍しい。


 エルフの業だ。


 無論、白い肌のエルフも居るが、


「一義だけが特別な特徴である」


 とも言えない。


 時折ダークエルフとも呼ばれるが、これは発禁の言動と相成る。


 とはいってもそもそもエルフ自体が、


えびす


 と呼ばれ蔑まれている。


 今更気にする一義でもなかった。


「三番テーブル。紅茶とケーキセット二つ」


「承りました」


「あう。その。ご注文を」


「ああ? コーヒーなんてねえよ。ここは茶屋だ」


 メイド服を着てソレもなかろう。


 とは思えど、花々に任せる。


 脳天唐竹割り。


 無論手加減。


「先生」


 花々には逆らえないイヴォンヌだった。


「お客様は神様です。自称がつくけどね」


 ニコリと笑う。


 破壊的な春爛漫だ。


 当然イヴォンヌの表情も引きつる。


 場合によっては死に到る。


 それくらいは読み取れた。


 一年近い付き合いだ。


 機微の応答は反射的。


「とりあえず失礼しました」


 頭を下げる花々。


「コーヒーは用意しておりません。注文は茶でお願いします」


「なんだ。コーヒーねえの? 詐欺じゃん? 賠償金請求しても?」


 ――元よりソッチの腹か。


 とは一義の思念。


 そういう稼ぎ方があるのは知っているが、


「何もそんなことで一つの命を費やさんでも……」


 そうも思う。


「この額の角が見えませんか?」


 言葉は丁寧だが、行動はウェイトレスの領分を超えていた。


 ごねた客の頭部を掴んでアイアンクロー。


 ミシミシと頭蓋が悲鳴を上げる。


「言っておきますれば」


 丁寧な口調は変わらず。


「鬼の握力は人間の頭蓋程度なら簡単に握りつぶせるので悪しからず」


「悪しではあるだろう」


 とはいえ通念としてどっちに非があるかは明瞭だ。


 そこら辺の立ち位置を、かしまし娘が間違えることはあまりない。


「一義が関わらなければ」


 そこは前提条件だが。


「一義が国を滅ぼしたいなら滅ぼす」


 そういう風に出来ている。


 結局諫める側に一義が回るのだが、今回に関しては冷や水の意味も込めて見逃した。


 花々もさすがに店内で出血や殺人を犯す愚を弁えていたため、


「……がはっ」


 スッとアイアンクローを止める。


 頭を痛めた客が怯えたように鬼……花々を見る。


「それではお客様? 秩序あるご注文を」


「…………」


 他の客まで青ざめる始末。


 いいデモには為った。


 シェイクランスを読みながらそんな感想。


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