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一年後10


「美味い」


「またそれですか」


 ステファニーは不満らしい。


 幼い子どもでも思うところはある。


 一義のメイド服は姫々が精力的に作っている。


 曰く、


「ご主人様に苦労はかけられません」


 とのこと。


「座学庵祭でウェイトレスやらせるのは良いの?」


 と、尋ねると、


「プレイですから」


 かなりギリギリを攻められた。


 ともあれステファニーの不満だ。


 何かと言えば茶の論評。


 さすがに幼い子どもばかりが集まっているため、手先の器用さは持ち合わせていない。


 自明の理だ。


「そこでわたくしの出番です」


 と鼻息荒く姫々。


 家事全般に精通している一義にとっての生命線。


 無論、一義も出来ないわけではないが、


「無精」


 の一言で片付けられる。


 ある意味で正しい魔術の使い方。


 色んな意味で、


「駄目人間」


 と評せるためステファニーにしても困ったモノだ。


 先述通り姫々から茶の淹れ方を教わっているのだが、


「美味い」


「美味い」


「これも美味いな」


 飲んでいるだけの一義の評価は、一辺倒に偏っていた。


 姫々の茶より幾分苦かったり渋かったり程度の感想はあるが、基準が自分であるため他者の努力の結果は、


「美味い」


 で完結してしまうのである。


「真面目に評価してください!」


「してるんだけどなぁ」


 ぼんやりと。


「先生はもう!」


 色々と憤懣やるかたない。


 とはいえ三つ子の魂は業の深いことだ。


「あえて言うなら、姫々の茶の方がもう少し美味いな」


「何処が足りないのでしょう?」


「知らん」


 これは本音だ。


 そもそも茶の機微が分かるなら、相応の対応はしている。


「…………」


 無言でザンティピーが紅茶を差し出す。


 ステファニー同様に、一義を魔術の講師と仰ぐ女生徒だ。


 年齢は異国部一律であるため、当然幼女。


 第二次性徴はまだ先と言えるだろう。


 メイド服を縫う合間に紅茶を淹れたらしい。


 監修、姫々。


「美味いな」


 やはり型通りの答えしか返さない。


「…………」


 杏色の瞳は嬉しそうだ。


 一義も少し前から気付いたことだが、ザンティピーは喋らない分、心の揺り動かし方が可憐で儚げだ。


 表情はあまり作らないが、時折双眸に喜色や悲色の光が透ける。


「よしよし」


 頭を撫でると、


「…………」


 心地よさそうに杏色の双眸が細められた。


 一義は一人暇をしている。


 時折、生徒たちの淹れた茶を飲んで、


「美味しい」


 というだけの簡単なお仕事。


 教室……座学室の茶屋化は、かしまし娘と担任講師たるゼルダの役割。


 七人の幼女はメイド服と茶道を修める。


 結果、


「暇」


 と相成る。


 けれども昼寝はするつもりもなかった。


 というより一義は眠ることを非常に恐れる。


 とかくフラッシュバックは睡眠中が最も多い。


 夜寝て襲われるならいいが、さすがに生徒全員が幼女のここでトラウマを刺激されれば格好がつかないだろう。


 結果、のんびりと穏やかに暮らすのだった。


 のらくらともいう。


 座学庵は異国部。


 異国人の吹きだまり。


 元より和の国は閉鎖的で、独特の感性が国を支配している。


 黒髪で黄色い肌。


 和服にわらじ。


 無論和の国に住む以上、異国部の幼女たちも和服は着ているが、あまり似合っているとも言いづらい。


 愛らしさは目減りしないとしても。


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