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一年後07


「それじゃ散歩してくる」


 月の出る夜。


 一義の日課だ。


「茶を淹れてお待ちしております」


「ご苦労さんです」


 姫々のメイド根性も据わった物だ。


 いい加減慣れた感じ。


「さて」


 歩き出す。


「月子」


 その通りに月を見やる。


 永遠を象徴する記号。


 にしては早々に散ったが。


「桜か」


 と突っ込みたいところだが、


「僕の責任」


 一義の心情は其処に有る。


 誰が何と言おうと構わない。


「自分が月子を殺した」


 一義にとっての真実だ。


 時折考える。


 出会わなければ良かったのかと。


 慚愧もなく。


 懺悔もなく。


 後悔もなく。


 ただただ他人として青い空だけを共有する存在。


「何故自分は月子を守れなかったのか?」


 あるいは、


「守るために矛盾を発現させなかったのか?」


 無形の針となって心臓を刺す。


「本当に」


 月を見上げる。


「愚鈍だ」


 そんな自評。


 少なくとも全てが終わった後に獲得するのは遅きに失する。


「最低……といえるのだろうか?」


 想い人を守れなかった。


 そして、


「…………はぁ」


 一義以外の誰もがソレを責めなかった。


 月子の死を悲しんだのは父親と一義くらい。


 その父……征夷大将軍にしても一義を責めることはしなかった。


 偏に、


「馬鹿娘が」


 墓に向かって呟いていた。


 立つ瀬が無かった。


 本当に。


 ……本当に。


 せめて誰かに責めて貰えれば、


「あるいは……」


 反抗心が芽生えてこれほど自責せずに済んだかもしれない。


 今更だが。


「とりあえずはまぁ」


 夜月を見上げる。


「忘れてなんかやらないから」


 苦笑。


 自嘲。


 けれど確かに一本の芯として一義を貫いている。


 ただソレだけが一義のレゾンデートル。


「さて、散歩しますか」


 とことこと歩く。


「むぅ」


 そこで知り合いに出会った。


 栗色の髪の幼女。


 イヴォンヌだ。


 幼い童顔。


 月光を頼りに見て取る。


「何してるの?」


 一義は気安く声をかけた。


「一義先生か」


 大樹を抱いているイヴォンヌが一義を見やった。


「俺の金剛でへし折れるかと」


「まだ無理じゃないかな?」


「だろうな」


 嘆息。


 大樹から離れる。


「一義先生は花々先生と長いのか?」


「心を通わせる程度には」


「その頃から花々先生は強かったか?」


「理不尽なほどにね」


 一義がソレを為した。


「やはり人間には……俺には無理だろうか?」


「そんなこともないけどね」


 サクリと。


「本当か?」


「うん。希だけど実績がないわけじゃない」


 特に和の国はオーガに恵まれている。


 ソレを模範する人間も居はするのだ。


「先生は何故此方に?」


「デート」


「?」


 当然一義は一人でしかいない。


 殊更説明する気にもならないが。


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