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傷心者と小心者11


 午後の講義。


「よろしく御願いします」


 ステファニーは一義に礼をした。


「そう固くならなくても良いよ」


 笑ってやる。


「魔術にはリラックスが必要だから」


「リラックスですか?」


 碧色の瞳が困惑を映す。


「あとコンセントレーション」


「はあ」


「そんなわけで力の認識から始めるんだけど」


「力」


「斥力」


「せきりょく……」


「んーと」


 しばし考える。


「例えばジャンプするときは地面を蹴る必要があるでしょ?」


「です」


「その力を……地面を蹴ることなく発動させる。そう言えば分かる?」


「いえ。その」


「例えばこんな感じ」


 斥力場の発生。


「っ?」


 ステファニーの体が宙に浮いた。


 ジャンプ。


 地面は蹴っていないが。


 着地するステファニーに、


「これが力」


 ニカッと笑う一義だった。


「力……」


「光と同じく単純でね。だからこそ万物に有効活用できる」


「…………」


「だから極めれば攻守共にバランスが良いのが斥力なんだよ」


「覚えられますか?」


「少し難しいけどね」


 目に見えないためイメージが掴めない。


 体験と瞑想で少しずつ理解するしかないだろう。


「薬は服用した?」


「はい」


「じゃ、トランス状態の変換から入ろっか」


「トランス」


「本当はあまり勧めたくはないんだけど」


 子どもに幻覚剤を服用させて魔術を教える。


 一般的には非難の対象だろう。


 まして異国部にいるのは幼女七人で全員だ。


「未来ある若者に其処までさせるのかな?」


 そんな感じ。


「力。斥力」


 禅を組んで瞑想。


「最初から上手く行く必要は無いよ。魔術の有徳はゆっくりが基本だから」


「はい」


 素直に頷くステファニー。


「力。力」


 しばし瞑想が続いた。


「…………」


 一義はぼんやりと彼女を見る。


 七、八歳くらいだろうか。


 音々が居るため言い訳は出来ないが、一義はロリコンではない。


 それでも、


「愛玩的な意味」


 での、


「可愛い」


 は座学庵異国部に共通していた。


「…………」


 そこに杏色の少女が近づいてくる。


 ザンティピーだ。


「…………」


 喋らないのは聞いている。


 実際声を聞いたこともない。


「何か?」


 座禅を組んでいる一義が斥力場に触れて宙に浮いた。


「……っ」


 多少驚きながらも危うげなく着地。


「わお」


 と一義。


「魔術使えるの?」


「…………」


 喋りこそしなかったがコクリと首肯。


「偉い偉い」


 頭を撫でると赤面するザンティピーだった。


「じゃ、とりあえず瞑想だね」


「…………」


「ライティング。光の魔術から」


 五秒しか維持できない人間に言われても説得力無しだが。


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