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いけない魔術の使い方22


 鉄の国の隣国たる風の国。


 その首都に着いた。


「では僕はこれで」


 そうしてシャルロットと別れる。


 シャルロットは仕事を求めて冒険者ギルドに顔を出すらしい。


 気楽気ままな彼女の気質をよく現わしている。


 一義は心からそう思う。


「さて」


 一義は背伸びした。


「僕は僕の都合を優先しよう」


 それは誰にも聞こえない宣戦布告だった。


 なだらかな丘に建てられた風の国の王城。


 城壁が天高く構築され、堀が周囲を囲んでいる。


 跳ね橋が唯一の道であり、そこには見張りが立っていた。


 構わず一義は王城の入り口に足を進める。


「待て」


 見張り役の兵士二人がハルバードを交差させて一義を警戒する。


「何者だ? 東夷……」


「特に名乗るほどでも」


 一義は肩をすくめた。


「陛下や殿下に客が来るとは聞いていない」


「客じゃないし」


「では何だ?」


「テロリスト……が一番近いかな?」


「何の冗談だ?」


 亜人、東夷、エルフ。


 そんな一人が王族に喧嘩を売ろうというのだ。


 理解できなくて当然。


 むしろ出来る方がどうかしているだろう。


「とにかく」


 と一義。


「通らせてもらうよ」


 一義は一歩踏み出した。


 不埒者。


 見張りの兵士二人がそう判断したのも仕方ない。


 というか事実だ。


 であれば手心を加える必要も無い。


 二人の兵士が二つのハルバードを振った。


 それは仮想的には一義の身体を両断するはずだったが、


「!?」


 そうはならなかった。


 矛盾。


 斥力による完全防御。


 兵士が手に握っている柄だけ残してハルバードは切っ先を消失させた。


 兵士が狼狽えるのも無理はない。


「ま、お務めご苦労さんと云うことで」


 一義は二人の見張りに手を添える。


 フルアーマーで固めている二人の兵士を死なない程度に弾く。


 結果として無力化。


 別段一義は殺人に悦楽を見出すタイプでは無い。


 単純に自分の世界を守りたいだけだ。


 そこに邪魔となる小石があるなら蹴っ飛ばすが、見張りの兵士には適応されない。


 そして跳ね橋を渡りきって閉められた城門に手を添える。


 パンと音がした。


 別段無音で消すことも出来るが一つの宣戦布告だ。


 警笛が鳴った。


 兵士に緊張が奔った。


 一義としても、


「さもあろう」


 と理解はしていた。


 再度になるが不埒者。


 そうには違いないのだ。


「何者だ!」


 兵士の誰何も尤もだろう。


「単なるテロリストです」


 一義の返答も中々だ。


「ふざけおって……!」


 兵士たちが襲いかかる。


 剣を振るう。


 矢を射る。


 魔術を行使する。


 ありとあらゆる害意が一義を襲う。


 一義は涼しげな顔でソレらを無力化した。


 斥力による絶対防御。


 そを打ち破る概念は未だこの世界には無い。


 鼻歌交じりに王城へと侵入する。


 特に苦労は無い。


「何としても止めろ! 我々の示威をテロリストに見せつけるのだ!」


「云いたいことは分かるけどさ……」


 一義にしてみれば一義と敵する兵士たちこそ無念でしょうがない。


 武器も魔術も効かない相手をどう止めろというのか?


 武器を失っても城の護衛兵として体当たりを敢行してくる兵士も居たが、徒労と無意味に終わった。


 一義が斥力で弾いてお終いである。


「こうなれば……!」


 兵士を指揮する軍団長が指示を飛ばす。


「陛下たちを安全な場所へ! 少なくとも陛下や殿下だけは守らねば」


 気持ちは痛いほど分かる。


「残念無念だけど」


 一義はぼやいた。


 既に斥力の結界は張っている。


 逃げようとして逃げられるものでもない。


 ほとんど同情じみているが、この事態を引き起こしたのは一義自身である。


 経過はどうあれ。


「ま、いいんだけどさ」


 一義は襲いかかる兵士たちを無力化してズンズン城内を進んでいく。


 王城はパニックに陥っていた。


 さもあらん。


 一人のテロリストが王城の戦力を歯牙にもかけないという時点で悪夢だ。


 そしてそのテロリストが王族を狙っているという。


「命を賭けてでも止める」


 そんな武威が兵士たちには有ったが、命を賭けようと賭けるまいと一義にとっての十把一絡げには相違なかった。


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