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いけない魔術の使い方21


「それにしてもそれほど戦争がしたいかなぁ」


 一義はえっちらおっちらと進む馬車の中で愚痴っていた。


 鉄の国の帝都。


 そにあるファンダメンタリストの中核は殲滅した。


 他の都市にも教会はあるが少なくともハブ型の命令系統である以上、頭を潰されれば機能に支障をきたすだろう。


 一義のあずかり知らぬ事ではあるが。


 ちなみにペネロペは生きている。


「あのぉ」


 とペネロペは言ったものだ。


「自分に給料を払ってくれる人がいなくなったんだけどこの先どうすれば?」


「僕のハーレムに入りなよ。姫々とアイリーンの御飯は美味しいよ?」


 そんなわけでそんなことになった。


 アイリーンやフェイが居る以上ペネロペが加わっても別段論じるほどでもなかった。


「一義は懐が深いね」


 隣でシャルロットが笑う。


「皮肉でしょ」


「他にあるかい?」


 悪びれない辺りは、


「さすがシャルロット」


 と云った気分だ。


 一義とシャルロットの二人だけ。


 鉄の国の隣国……風の国に向かってえっちらおっちらと旅をする二人。


 ファンダメンタリストに致命的な一撃を見舞った以上、急ぐこともない。


 そんなわけで二人は風の国にゆっくり向かっていった。


「国の都合はあれど一義に喧嘩を売るとはね」


「国って云うか王族の暴走だけどね」


 少なくとも一義は風の国の国民までは恨んでいない。


 むしろ仮に一義がこの事態を収拾できず国民が戦場に引き出されることを考えれば同情さえ呼ぶ。


 そうならないために風の国に向かっているのだが。


 国境で身分を証明して風の国。


 それから二人は観光旅行を楽しんだ。


 最終的な目的は首都である。


 風の国の第一王子と話を付けること。


 エースはこっちにある。


 であるため特に気負う必要も無い。


 まったりと旅が出来た。


 途中で東方食堂を見つけて食事を取る。


 一義は蕎麦を、シャルロットは天ぷら定食を、それぞれ注文して食事とする。


「で、結局王族に喧嘩を売るんだよね?」


「結果としてそうなるのかな?」


「僕が案内するのは首都までだよ」


「うん。まぁ。恨まれるのは僕だけでいいし」


「そこまで分かってるなら何も言わないけどね」


 一義の不敵にシャルロットは感嘆すら覚えた。


 一国と喧嘩して勝てる戦力。


 こと矛盾としての一義においてはハーレムの総力すらも凌駕する。


「いけない魔術の使い方とはまさにこのことだ」


 シャルロットはそんな思念を持った。


 ほぼ正答だが。


 天ぷらをサクサク。


「君は力が嫌いじゃなかったっけ?」


「大嫌いだよ?」


「なら何故振るうのさ?」


「必要だから」


「否定しておいて?」


「誰しもが僕に干渉しないなら僕だって力を使ったりしないよ。僕の力の使い方はいつだってカウンターだから」


「とはいってもね」


 シャルロットは皮肉気だ。


「結局のところ君のさじ加減だろう」


「否定はしない」


「ま、僕は給料を貰えればそれでいいんだけど」


 シャルロットは運び屋だ。


 此度は、


「一義を風の国に運ぶこと」


 を仕事としている。


 給料は先払いで納めている。


 である以上、仕事を完遂するのもシャルロットの意地だった。


 もっとも仕事の関係上、


「一義とは無関係」


 を貫かなければ干からびるのも事実ではあるので、ある程度の所で手を引くつもりではある。


 一義としても、


「シャルロットに面倒事を背負わせる気は無い」


 と明言しているため強制はしていない。


「良い人だね。君は」


 シャルロットは苦笑した。


「そ~かな~?」


 一義は懐疑的だ。


 そもそも本当に良い人なら自分の都合で人を殺さない……そう思ってしまうのだ。


「誰かのために怒れるというのは貴重な資質だと思うけどね」


「結果だけ語れば自分のためだけどね」


「本当に君が我が儘な気質ならハーレムなんて出来ないよ」


「…………」


 一義が珍しく照れていた。


「本当にシャルロットは……」


「何かな?」


「寄せては返す波のようだ」


「君に熱中しない女の子が一人くらい居ても良いだろう?」


「それはまぁね」


 蕎麦を手繰りながら一義も同意する。


「気ままに吹く風のようだ」


 と一義はシャルロットを定義する。


 掴もうとしても指の間から抜けていく不定形。


「そんな乙女心もあるのか」


 なんてことを思う一義だった。


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