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いけない魔術の使い方19


 結果論を先述するのならローズマリーは助かった。


 ローズマリーとアイリーンを箱に入れて実験。


 結果として生きているローズマリーを観測する皆々。


「うわぁ」


 とドン引きしたのはペネロペ。


 それほどのことなのだ。


「ありがとうございます」


 と快癒したローズマリーはアイリーンに感謝した。


「いえ、この程度」


 と謙遜するアイリーン。


「毒はどうしたの?」


 ペネロペが問うと、


「もちろん魔術で解毒しましたが?」


 さもあろうとアイリーン。


 その通りではあるのだ。


 嘘はついていない。


 誘導はしているが。


 そのために誰にも見られないようにアイリーンは箱の中で魔術を行使したのだから。


「ところで師匠」


 とルイズ。


「姫々と音々と花々は?」


 一義名物のかしまし娘が揃って姿を消したことにルイズは疑念を持った。


「姫々はメイド道を極めるために旅に出たよ」


「音々は?」


「おっぱいを大きくするための旅に出た」


「花々は?」


「大和撫子になるための旅に出た」


「あー……」


 最後の言はシャルロットの理解だ。


 完璧に一義の心情を察してのける。


 そのためにかしまし娘は旅に出たのだから。


「危ないところだったね」


 シャルロットの気休め。


「全くだよ」


 一義も嘆息。


「あのぅ」


 とペネロペ。


「何?」


「自分は助かるんでしょうか?」


「どこまで妥協できるかによるね」


「あー……」


「恨むなら背景を恨んで」


「ですねー……」


 もはや返す否定も弁明もなかった。


 どちらにせよ……詰んでいる。


 チェックメイトだ。


「出来ればそのー……穏便に……」


「大丈夫」


 ニッコリ笑う一義。


 クシャクシャとペネロペの藍色の髪を撫ぜる。


「別に君と敵対する気は無いから」


「それはあくまで自分とは……だよね?」


「まぁね」


「背景は?」


「真っ白な方が都合が良いでしょ」


「あー……」


 説得は無理だ。


 そうペネロペは判断した。


 誤解無くその通りなのだが。


「まぁ十字を切るくらいは許してあげるけど」


「南無三」


 一義の言動。


 そこに込められた力。


 一言一言の威圧。


 自分たちが何を敵に回したのか?


 底冷えする感情でペネロペは漸く理解してのけた。


 あまりにも遅い認識。


 もっとも悔やむという感情は先に立たないのだが。


 自身らが何をしでかしたのか?


 報いを受ける前に分かれば世界はもっと平和になっている道理であるからだ。


「…………」


 もはや論ずるにも値しない。


 殺しておいて、


「殺されるのが嫌だ」


 は通じないのだ。


「で」


 閑話休題。


「ペネロペ?」


「何でっしゃろ?」


「取引に応じてくれるよね?」


「あー……」


 ペネロペに選択肢はない。


 微笑んでいる一義がこの上なく怖い。


 もはや組織の報復がどうのと云うレベルではない。


 基本的に些事だ。


 一義を前にすればそう思わざるを得ないだろう。


「努力する」


 それがペネロペの返答。


「中々だね」


 シャルロットが愉快そうに笑う。


 一義の本気を知る希少な存在だ。


 アイリーンとともに……ではあるが。


「あはは」


 アイリーンも空笑いだった。


 一義の逆鱗に触れることの意味を誰よりよく知っている。


 だからこそ幸せなのだから。


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