いけない魔術の使い方18
とりあえず指導もひとまず済んで、一義たちは学食で昼食をとっていた。
毒気を抜かれたペネロペも一緒だ。
元より敵対心もなかったため普通に乙女たちの輪に加わっていた。
「お兄ちゃ~ん?」
「旦那様?」
「一義?」
「にゃはは」
「あはは」
「ありえませんわ」
「これが業」
「はわわ」
「…………」
「あう……」
そんな有様。
対する一義は、
「知ったこっちゃない」
で通していたが。
今更大河に一滴の水が加わったところで一義の心象には何ら影響しない。
淡々とスパイスライスを食べるのだった。
「やはり面白いね一義は」
シャルロットは皮肉っぽく笑う。
「嫉妬してくれて構わないよ?」
一義の皮肉に、
「大いにするともさ」
飄々と返される。
嫌味が通じないのはシャルロットらしかった。
「ペネロペはアレだろう?」
「知ってるのか?」
「背景くらいはね」
大仰に肩をすくめる。
「何が狙いかは?」
「そこまで関わってはいないよ」
「さいか……」
何故鉄の国に来た一義をファンダメンタリストが積極的に狙うのか?
たしかに道理は無かった。
将を射んと欲すれば……という故事はある。
が、ことファンダメンタリストにおいて急ぐために回り道をするような気性でないことは一義は実感を伴って知っている。
「では何故か?」
それがさっぱり分からない。
スパイスライスをもむもむ。
当然ペネロペも知らない。
である以上、一義は別にペネロペを排除しても不利益を被らないのだが美少女限定で紳士な一義は特に排除する方向に心を寄せなかった。
ペネロペがへっぽこだというのも一因ではあるが。
とはいえ殺意は本物だった。
完全にファンダメンタリストは一義を殺す気でいる。
ペネロペで足りずに毒に長けた暗殺者を追加するほどだ。
一義を殺して得られる利益とは何か?
結局そこで躓くのだ。
「うーん」
唸ってスパイスライスをもむもむ。
一般的に食事をしていると、
「ぜひ……」
嫌な声が響いた。
出はローズマリー。
首と胸を押さえて、
「が……! えぐ……!」
苦しみ出す。
呼吸がままならないらしい。
そのまま呼吸を止めるとローズマリーはコーンスープの注がれている平皿に頭部を打ち付ける。
「…………」
死んでいた。
毒殺。
一義と乙女たちも……そして学食を利用していた学院の関係者も一様に意味が分からず黙り込む。
しばしの沈黙。
呆然に理解が追いつくと、混乱が場を支配した。
「自分の食べた料理に毒は入っていないか?」
そう狼狽えるのも無理はない。
そんな場の混乱とはマイナスの正比例で一義は冷静になっていく。
仮にこれが一義を毒殺しようとして標的を間違えたのなら問題は無い。
さらに……仮にこれがローズマリーではなかったら別の答えもあったろう。
が、一義とローズマリーを殺すことで得られる状況。
そこから逆算する政治的事情。
一つの仮説が立った。
根拠はあまりにも薄弱甚だしい。
とりあえず言質は取らねばならない。
「これ、ペネロペが?」
「まさか」
ペネロペは食事をしながら否定した。
中々肝が据わっている。
「何でこの一国を滅ぼせるメンツの中に居て喧嘩を売らなきゃいけないのか?」
ペネロペはそう言った。
その通りではあった。
であるから一義も殊更にペネロペを疑うことをしない。
「であれば昨夜の奴か」
「多分」
見解が一致する。
「さて。アイリーン?」
「何でしょう?」
「ローズマリーが毒殺された。毒は体内に残って魂を呼び戻して蘇生させても毒でまた死ぬ。分かるね?」
反魂の能力の真実を伏せるための忠告。
「はい」
過不足無くアイリーンは理解した。
「さて、じゃあペネロペ?」
「その疑問符が怖いんだけどな」
「ちょっとお怒りです」
にこやかな一義の背後にペネロペは阿修羅を見た。




