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いけない魔術の使い方14


「むー」


「む……」


 ナタリアとローズマリーは唸る。


「ふっ……ふっ……ふっ……」


 ルイズが素振りをしていた。


 早朝。


 三人は一義の指導を受けながら魔術や剣術の訓練をする。


「頭が下がりますね……」


 そう言ったのは姫々。


 水出し紅茶を水筒からカップに注いで一義に手渡す。


「ありがと」


 一義はソレを飲んでいた。


「むー」


「む……」


 魔術組はサッパリだった。


 教えて出来るものでも無いため、こればっかりは資質と努力の粉末を時間と云う名のお湯に混ぜて弱火でトロトロ熱しないと完成しない。


 ルイズの剣術は日に日に練度を増してきている。


 天性の物だろう。


 剣の申し子と呼べるかもしれなかった。


「剣は手の延長。手とは第二の腕の関節。剣を我が身に取り込んで使役する」


 そういう一義。


 紅茶を飲みながら。


「師匠?」


「何?」


「手合わせを」


「構わないけど」


 姫々から刃引きされた刀を受け取り腰に差す。


 ルイズも刃引きされた片手剣を両手で持った。


 一義は柄に手を添え、鞘から刀を抜かなかった。


「刀……抜かないと始められませんよ?」


「もう始まってる」


 一義は簡潔に言った。


 肉体の膂力が一本の芯として体を貫いている。


「……っ!」


 何万回、何十万回と木刀の素振りをしているルイズだからこそ直感で分かった。


「からかっているわけではない……」


 と。


「何の技術です?」


「居合いという」


「いあい……」


 片膝を立てて腰を浮かす。


 ルイズには奇妙な体勢の術理に見える。


 もっとも、


「…………」


 その裂帛のプレッシャーが虚仮威しであるはずがないが。


 ジリと地面を踏みにじる。


 覚えた剣術の理に従って最小限の動きで最大の戦果を。


 そういう風に肉体を改造してきた。


 なのに動けない。


 予感があるのだ。


 一義の剣の間合いに入った瞬間、斬られるとの予感が。


「この程度は見抜くんだね。真面目に訓練している証拠だ」


 一義は賞賛したが、あくまで余裕の産物。


 ルイズはあまりと言えばあまりな一義の剣圧に二の足を踏んでいた。


 一義から動く気配はない。


 すり足で居合いの体勢のまま距離を詰めることも出来るが、あえて一義は動かなかった。


 この絶対殺害勢圏をルイズがどう攻略するのか。


 興味はそっちにある。


 少しだけ体を揺らした。


「師匠の重心がぶれた」


 ルイズはそう判断して、一瞬で一義に飛びかかろうとし、


「が……っ!」


 体に制止を命ずる。


 その負荷だけで肉体を少し壊す。


「へえ。見切ったね」


 たった一瞬の出来事。


 わざと隙を見せて誘いをかける。


 ルイズが間合いを詰めたところで体の力を剣に集める。


 次の瞬間、神速の抜刀の気配が殺気を伴った濃霧となってルイズを威嚇する。


 結果、一義の刀の間合いの外で立ち止まったルイズは肉体への負荷を自身にかけた。


 体力を消耗し、筋力に傷を付ける。


 剣の打ち合いもせずに相手にダメージを与える。


 即ち居合いである。


「師匠は有り得ないね」


「お褒めいただき光栄だね」


 そしてシャランと刀を抜く。


「さて、では打ち合おっか」


「居合いはもう良いの?」


「別にルイズが死にたいって言うなら居合いでトドメをさしてもいいけど……」


「うへぇ」


 ルイズは言葉が見つけられなかった。


 当たり前だが。


「じゃ、行くよ」


「胸をお借りします。師匠」


 そして二人は丁々発止を繰り返した。


 ルイズはミュータントとしての能力全開だ。


 その悉くを凌駕する一義が、


「一体何者だ?」


 という話である。


「さすがご主人様……」


 姫々はほくほく顔だった。


「むー」


「む……」


 ナタリアとローズマリーは魔術の顕現に悩んでいた。


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