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いけない魔術の使い方06


 とりあえず昼間の時間を図書館で潰して、特別棟に戻ることにする一義とシャルロット。


 シャルロットは、


「ふふ」


 と悪戯っぽく笑っていた。


「…………」


 一義の顔は引きつっている。


 一義の右腕にシャルロットが抱きついているためだ。


 誰もが羨む美貌を持つシャルロットをエスコートしているとなれば、それは無論シャルロットに興味を持つ人間には面白くない。


 二人揃って知ったことでもないが。


 そんなわけで仲睦まじく舗装された道を歩いていると、


「ファイヤーボール!」


 そんな呪文が聞こえてきた。


 もっとも呪文を唱える前に、その魔術師の敵意は汲み取っていたが。


 斥力場を発生させてファイヤーボールを弾く。


 鏡面に光を当てるように綺麗に反射してファイヤーボールは放った術者に襲いかかる。


「フォースシールド」


 術者は防御の魔術で炎の塊を防ぐ。


「夕食は何だろうね?」


「ま、楽しみではあるけどね」


 特に何事も無く一義とシャルロットは歩く。


 特に襲われたことについては無味無臭にも近い感想だった。


「使用人が作るの?」


「そうらしいけど」


「姫々とアイリーンなら自分で作りたがりそうだけど」


「まぁどっちに転んでも痛くは無いよ」


 さくさくと歩き去って行く。


「アイスショット!」


 さらに術者が魔術を行使する。


 やはり弾かれる。


「さすがにここでは和の国の材料の調達は難しいのかな?」


「どうだろう?」


 二人揃って首を傾げる。


 そこに、


「巫山戯るな!」


 激昂する件の術者。


「止まれ銃力!」


「はぁ……」


 ため息をついて止まる。


 術者と相対した。


「何か用?」


 特にさっきまでの凶行は念頭に無いらしい。


 それがまた術者の心象を逆撫でる。


「お前は……殺す……!」


 殺意炯々の術者……学院の生徒だろう少年に、


「そうですか」


 一向に取り合おうとしない一義。


 既に分析は終わっている。


 彼我の戦力差は予想値と現実値であまり違わない。


 要するに、


「敵にもならない」


 一義がそう判断してもしょうがなくはあった。


 そもそもファイヤーボール程度に詠唱を必要とする時点で二流半だ。


 わざわざ講義するのも面倒なので黙っているが。


「とりあえず殺すに値する何かがあるの?」


「忘れたとは言わさんぞ」


「そう言う台詞を言われることに限って忘れてたりするんだけど……」


「鉄血砦を陥落させたろうが」


「まぁその程度は覚えてるよ」


 さすがにそこまでお粗末でもなかった。


「要するに弔い合戦か」


 シャルロットが言う。


「そなの?」


 問う一義ではあったが大体のことは理解した。


「要するに少年の知己が鉄血砦に居たんだろう?」


「兄さんの仇だ!」


「はぁ。まぁそりゃ復讐するに正当な理由ではあるけど……」


 どうしたものか?


 一義の率直な反応でもある。


「だから殺す! ファイヤーボール!」


 突きだした手の先に火球が生まれると、それは人の頭蓋ほどの大きさになり、そして躊躇いなく射出された。


 少年に向かって。


 少年の手の先から生まれた火球は射出された瞬間に斥力場でベクトルを反転させられ術者そのものを焼き滅ぼす。


 防御も回避も間に合うわけもない。


「一義」


「何?」


「さらに魔術に磨きが掛かってない?」


「そうかな?」


 これについてはシャルロットの見当違いだ。


 一義は戦力として完成されている。


 その器用さの段階をシャルロットが見くびっていたと云うだけのことだ。


「どうする? アレ……」


 シャルロットが指差したのはこんがり焼けた少年だ。


「良い感じの焼き加減だから食べるならご自由に」


「本当に君って奴は……」


 他の人間ならジト目になるところだろうがシャルロットは屈託無く笑った。


 そしてまた歩き出す。


 一義と少年のやりとりを見ていた生徒が保健棟に治癒魔術の権威を呼びに駆けていった。


「助かるかな?」


「どうだろ」


「君は本当にブレないね」


「そうでもないよ」


 苦笑する一義。


「何時も迷ってばかりだから」


「君でさえもかい?」


「生きている者の業だよ」


「違いない」


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