いけない魔術の使い方05
一義はのんべんだらりとしていた。
基本的に学院の講義に潜り込んだりルイズとナタリアの指導をしたり、後はハーレムの女子たちの御機嫌取りで時間を浪費する。
ので、息抜きに学院の図書館で読書をしていた。
ありふれた英雄譚である。
そこに、
「隣、いいかい」
そんな緑色の声が降ってきた。
「どうぞ」
本から目を逸らさずあっさり受諾。
「…………」
「…………」
しばし沈思黙考。
「ん?」
隣に座った声の主を確認する。
緑色の髪に緑色の瞳。
ついでに美少女だが男用のスーツを着ている。
「シャルロット」
そういう名の少女だ。
「そう言えば鉄の国がクライアントだっけ?」
「概ね……だけどね。基本的にはフリーの運び屋だよ」
「何故学院に?」
「何。えらく優秀な東夷が来ていると聞いてね。となれば顔を見なければ損だ」
「そりゃ恐悦至極」
一義はページをめくる。
「ナタリア殿下の専属講師だって?」
「ま、袖擦り合う程度ではあるけどね」
「けれどもレールガンを教えたそうじゃないか」
「誰に聞いたの?」
「花々」
「さもあらん」
「ルイズどころか三人の王女殿下に、更に若くして学院教授にまで上り詰めたクイーンがハーレムに入ったって」
「特別棟に行ったのかな?」
「君を訪ねてね」
軽やかな声だった。
テンポの良い言葉はシャルロット特有のものだ。
「仕事は良いの?」
「既に済ませたよ」
「また麻薬じゃないだろうね?」
「いや、今回は毒」
「なら問題ない……か」
一義はこと毒の耐性においては自負がある。
「まぁ注意は怠らないことだね」
「僕が毒殺されるとでも?」
「殺されることは心配してないけど……ちとファンダメンタリストが怪しい動きをしているみたいなんだ」
「何時ものことでしょ」
「バッサリ斬りつけるね君は」
シャルロットは苦笑した。
「帝都でもポンコツ暗殺者に命を狙われたし」
「そうなのかい?」
「うん。ポンコツだったけど」
「ポンコツね」
思案するシャルロット。
「事情を知っているわけでもないみたいだね」
「あまり興味をかき立てる類のものでも無いしね」
シャルロットは肩をすくめた。
「一義はどの程度学院にいるんだい?」
「一週間程度」
「ふむ」
頷いて、
「僕も一緒していいかい?」
「構わないよ」
一義はページをめくる。
「でも元来の根無し草じゃないの?」
「報酬も貰ったししばらくは遊んで暮らせるね」
「器用な生き方だよねぇ」
「一義が不器用すぎるだけだと思うけど」
「否定は出来ないなぁ」
実際その通りではある。
仮に一義が器用ならハーレムの幾何級数的な増大など起きはしない。
「だから愛らしいんだけど」
シャルロットの言葉は愛情表現と言うにはからかいの彩が乗っていた。
「まさか姫殿下お三方まで虜にする辺りもはや無敵じゃないかな?」
「しがらみだよ」
「その上でね」
「むぅ……」
「しかし陛下はよく許したね」
「父親としての立場なら黙認するんだとさ」
「陛下から直接そんな言葉を?」
「酒の席でね」
一義は茶を飲んでいたが。
「一義はどう思っているんだい?」
「特に何も」
「少しくらい期待しても良いんじゃないかな?」
「まぁその通りではあるんだけど……」
何だかなぁ。
そんなアンニュイな気持ち。
「というわけで」
何がというわけなのかは分からなかったが、
「僕も特別棟に泊めて?」
シャルロットはそんな提案。
「そりゃ構わないけど。大丈夫?」
「何が?」
「姫殿下がいるんだよ?」
「ああ、旧知の仲だから」
「あ、そ」




