いけない魔術の使い方02
「ではあなたが銃力の!」
老人……学院長はかしまし姫ならびに公賓扱いである一義たちに宿代わりのスペースを提供するために先導していた。
いわゆる王立の特別棟の様に王侯貴族用の棟があるらしい。
かしまし姫たちは別段特別棟で寝泊まりしなくとも最高級ホテルを用意して貰えるのだが、頑として、
「一義と一緒」
という。
「ギロチンも近いかな?」
何となくそんなことを思う。
閑話休題。
「まぁ銃力の一義ではあります」
「鉄の国へは何をしに?」
「観光」
事実だ。
なんだか帝都を境に流れがおかしくなっているが、元々一義はルイズに付き添って皇立魔法学院に顔を出したかっただけなのだ。
「噂には聞いております」
「あまり聞きたくないけどね」
「はは、ご謙遜ですな」
「謙虚が美徳なんで」
「だからどの口が?」
ハーレムの総意だ。
「パワーレールガン……でしたか?」
「伝わってるのね」
「それはええ、もう……」
学院長はヒゲを撫でながら愉快そうだった。
「銃力のが鉄の国の戦力となっていただけるのなら心強いのですが……」
「生憎と憎んでもいない人間殺せるほど器用でもなくてね」
戦争の本質だ。
本来なら顔も知らず関係も築かない人間同士が、
「殺し合う」
という関係を作る場。
別段戦争を責める気は無いが、
「もうちょっと生産的なことに精力を使えば?」
そんな風に嘯く一義だった。
「これは手厳しいですな」
学院長は笑った。
同種の思いはあるのだろう。
もっとも学院そのものが戦争による悪徳の象徴とも取れるが。
「ところでどうやって鉄血砦を攻略したのでしょう?」
「誠意ある説得と少しの癇癪」
ぬけぬけと言ってのける。
丁寧に説明する義理もない。
迂遠にそう云ったのだ。
「銃力のは辛辣ですな」
「まさか。温厚な平和主義だよ」
「だからどの口が?」
またしてもハーレムの総意だ。
「ともあれこちらで如何でしょう」
皇立学院の特別棟に着いた。
綺麗に石を切り取った白亜の棟。
なるほど。
王族が使用するにこれ以上はないだろう。
「特別棟周辺に少数精鋭の三十人の護衛。学院全体においては五百人の巡回兵を。使用人は三十人揃えましたが足りなければ仰ってください」
学院長は一礼する。
かしまし姫と公賓に対する心遣いが見て取れる。
「ここまでせんでも」
とは一義のぼやきだ。
聞くことが出来たのは耳ざとい花々だけだったが。
そして一義とハーレムが中に入り、部屋割りをする。
一義は事情が事情なため二人部屋を選ばざるを得ず、かしまし娘がそこに割り当てられるのも必然。
事情を知らない鉄の国のハーレムには不評だったが、こればっかりは一義の業だ。
月子の悪夢。
月子への責任。
月子に対する罪悪感。
それを真に理解できるのがかしまし娘であるから慰められるのもかしまし娘だけだ。
事情は説明しなかったが真摯な(?)説得によって一義の部屋割りはそう決まった。
「遠慮なさらなくても」
「対応と思えば」
「大好き!」
かしまし姫はあまり道徳を持っていないらしい。
頭の痛くなる一義。
「僕も構わないけどねぇ……」
ルイズも同調した。
「却下」
袖にする一義。
「かしまし娘とはヤってますの?」
「いんや」
「でも同衾……」
「抱き枕みたいなものだよ」
「私も!」
「都合が悪い」
特に美少女お姫様三人に迫られて興奮を覚えるガラでもなかった。
「ハーレムなんですから好きにしていいんですのよ?」
「だから好きにしてる」
「放置プレイ?」
「そっちの問題」
「先行投資と思えば唾を付けたくならない?」
「別に」
一義は使用人の淹れた茶を飲みながらかしまし姫のアプローチをヒラリヒラリと躱してのけるのだった。
「一義は童貞ですから……」
「そうだけどさ」




