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三人の姫は24


 第一王女マリアは戦力としての一義に期待した。


 第二王女ナタリアは魔術の講師としての一義に期待した。


 そして第三王女オリヴィアは……、


「はわわ」


 一義を恋愛の対象として期待した。


 一義は気づけば視線を受けていた。


 その視線の先を辿ると、


「はわわ」


 と狼狽えて逃げる小動物が一匹。


 紅色の髪が廊下の曲がり角に隠れる。


「なんだかなぁ」


 ルイズに聞くに、


「一義の顔の模写を見た瞬間オリヴィア殿下は恋に落ちた」


 とのこと。


 名誉なのか?


 あるいは不名誉なのか?


 どっちとも取れる一義ではあった。


 またヒョコッと曲がり角から顔を出すオリヴィア。


「ども」


 すぐ目の前に一義が居た。


 曲がり角に隠れているオリヴィアの視覚不全を利用して曲がり角のすみまで隠れて待機していた一義である。


「~~~っ!」


 ボッと火照ってオリヴィアは逃げようとする。


 顔も耳も髪と瞳と同色だ。


 即ち紅色。


「血流良くて結構なこと」


 一義はそんな皮肉を言う。


 じたばたするオリヴィアの首根っこを掴んで、


「逃がさぬ」


 と宣言する。


「はわわ」


 オリヴィアは狼狽えに狼狽えていた。


 想い人が目の前に居るのだから乙女として当然の反応ではあるが。


「僕のこと好きなの?」


 一義がそう問うと、


「はわわ」


 ピタリと抵抗を止めるオリヴィア。


 それが言にも勝った。


「一応僕東夷なんだけど?」


「関係……ない……」


「恐縮だね」


 軽く笑う一義だった。


「はわわ」


 やはり狼狽えるオリヴィア。


 少女と幼女の間の年齢だ。


 精神的に未熟であろうし、恋心を制御できもしないだろう。


 とりあえず一義は疑問をぶつけてみる。


「何で僕?」


 至極真っ当な疑問だ。


 一義にとっては……だが。


「はわわ」


 やはり狼狽えるオリヴィアだった。


「そこまでのもんかね?」


 口の中でそう呟く。


「一義は……格好良いよ……?」


「恐悦至極」


 今更だ。


「だから……」


「だから?」


「私のお婿さんになってください……!」


「無理」


 即答。


 というか他に選択肢がない。


「ハーレムが居るから?」


「まぁソレもあるね」


「むぅ……」


 唇を尖らせるオリヴィアだった。


「なんならオリヴィア殿下もハーレムに入る?」


「入れるの?」


「ほとんど言った者勝ちだけど」


「むぅ……」


 それで納得しない辺りは、


「聡明だ」


 と言えるかもしれなかった。


「一義はハーレムを抱えて何とも思わないの?」


「趣味が悪いとは思ってる」


「一義が?」


「ハーレムの女の子たちが」


 実際にその通りなのだからタチが悪い。


 一義としてはかしまし娘さえ居れば他は要らないのだ。


 無論、口に出すほど野暮でもないが。


「仮にだけど……」


 オリヴィアが言う。


 紅色の瞳に慕情を乗せて。


「ハーレムに入ったら一義に優しくして貰えるの……?」


「それはオリヴィア殿下のけっぱり次第」


「むぅ……」


 呻くオリヴィアだった。


 しかして事実には相違ない。


 一義が求めるのは、


「一義に黄金の園を見させてくれる女の子」


 であるのだ。


 いまだ月子に縛られる一義を解放する存在。


 それ故のハーレム。


 それ故の女の子たちだ。


 仮にオリヴィアがソレに当たるなら二人にとってこれ以上は無いだろう。


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