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三人の姫は22


「でも特に何もしてないよ?」


「嘘だ!」


「何を以て?」


「呪いをかけたろう?」


「呪いって……」


 一義は頭を掻いた。


 呪い。


 主に神秘主義者の間で流行っている儀式だ。


 魔術師の使う魔術と違い、儀式そのものに根拠がなく机上の空論であるというのが魔術師たちにとっての通念である。


「魔術に憧れる一般人が手を出す空費な神秘」


 そう呼ばれている。


 無論のこと魔術師が魔術を用いて再現することが出来るため全てが眉唾では無いが、こと一般人において呪いは一種の徒労ではある。


「今更呪いを持ち出されてもなぁ」


「ぬけぬけと……!」


 ペネロペは憤りを感じた。


「で、呪いって何よ?」


「自分は……っ」


「ペネロペは?」


「あなたを殺さないと……っ!」


「そう」


 特に感銘を覚えない一義。


「なのに……っ。自分は一義を殺したくないっ」


「だろうね」


「自覚があるという事はやはり呪いを……!」


「まぁある種のね」


 完全に一義は覚っていた。


 というか分からないペネロペがどうかしているのだが。


「しかし呪いね」


 一義は頭を掻く。


「皮肉な表現だ」


 そう云う。


 あながち間違ってない辺り救いが無いとも言える。


「ちなみに何処からの命令?」


「云うと思うか?」


「そりゃそうだよね」


 特に追求はしなかった。


「拷問して吐かせたりしないのか?」


「やって欲しいならやるよ?」


「むぐ……!」


 お情けを得たとの解釈だった。


「まぁ別に恨まれる事は業みたいな物だから気にしないけどね」


「むぅ……」


 興味が無いと言うことがペネロペの感情を逆撫でる。


「で、僕の呪いはどんなもの?」


「なんかポーッてする」


「ふむ」


「一義のことを夢に見る」


「ふむ」


「何か一義のことを思ってるとふわふわ浮いたような気持ちになる」


「ふむ」


「どういう呪い?」


「ペネロペをこちら側に引き寄せる呪い」


「むぅ」


 ペネロペは呻いた。


「神の教義に反した不信心者の味方になれと?」


「ファンダメンタリストか……」


「はぅあ!?」


 速攻でバレた。


「まぁ多分そうだろうとは思ったけど」


 ほとんど鉄の国で一義を狙うとなれば、王侯貴族かファンダメンタリストくらいのものだろう。


「なんでアイリーンじゃなくて僕?」


 それが有るが故に今まで確信が持てなかったのだ。


 ファンダメンタリストが真っ先に狙うのはアイリーンだろう。


 一義とてブラックリストとして太字で書き記されているだろうが、確実にアイリーンが最優先抹殺対象でないとおかしい。


 そう云うと、


「自分にもわからない」


 ペネロペはうんざりと言った。


 特に、


「一義を殺せ」


 以外の命令は受けていないらしい。


「殺してどうなるもので無いと思うんだけどなぁ」


 思案するもやはり空を掴むしかなかった。


「では自分の処遇は?」


「好きにして」


 一義は言う。


「とりあえず呪いを解いてください」


 やりにくくてしょうがない。


 ペネロペはそう云う。


「そりゃまぁ惚れた相手を殺すことに気が引けてもしょうがないとは思うけど……」


「惚れ……っ!」


 絶句するペネロペ。


「認めたくは無いだろうけどね」


 クスッと悪戯っぽく一義は笑う。


「一目惚れ?」


「他に無いかな」


「一目惚れ……」


 慕情を知らない暗殺者の慕情。


 それはとてもややこしく。


 それはとても疎ましく。


 それはとても不可思議で。


 だからとても貴重な想いだった。


 自覚した以上、呪いは更なる強制力を帯びる羽目になるのだが。


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