三人の姫は20
「大丈夫なんですか……?」
姫々が問う。
「何が?」
と一義。
二人は水着を着ていた。
入浴の時間である。
「わたくしの妹を導いてくれて感謝しますわ」
「あー、はいはい」
サラリと一義は流す。
「わたくしなら幾らでも抱いてくださって良いんですのよ?」
「却下」
「むぅ」
不機嫌になるマリア。
「ギロチンが怖いからね」
一義は肩をすくめた。
「お兄ちゃんの嘘つき!」
「面白いね旦那様は」
音々と花々も否定した。
「僕、何か悪い事した?」
「鉄の国におけるご主人様の発言力がメキメキと……」
「このまま鉄の国を乗っ取る気!?」
「それならあたしは構わんがね」
「何を言ってらっしゃるのでしょう?」
一義は皮肉気に返す他知らなかった。
「でもマリア殿下もハーレムに……」
「クイーンもでしょ!」
「ナタリアも可能性があるね」
「否定は出来ないけど……」
少なくとも一義の意図では無い。
一義のせいではあるが。
「パワーレールガン……見事な物ですわ……」
マリアが言った。
ギュッと一義の腕を抱きしめて。
「連続的二次現象の積み重ね。その様な技術で才能を補完するとは」
「マリア殿下も魔術を覚えたいクチ?」
「いえ、脳を壊してまで得る能力ではありませんわね」
「ん。良か事良か事」
心から一義は言った。
「で、大丈夫なんですか……?」
姫々の繰り言。
「さぁてね」
「場合によってはマジカルカウンターが発動する可能性も……」
「その時はその時じゃない?」
「ご主人様が守ると?」
「多分花々の役目だと思うけど」
「あたしかい?」
「だいたいマジカルカウンターは亜人の形で現れるからね」
「うーん……」
花々は腕を組んで悩んだ。
「音々でも良いよ!」
「まぁね」
音々の自負も実力に裏打ちされた物だ。
少なくとも魔術という一点に置いて、一義とかしまし娘の中ではトップである。
「連続行使を教えても良かったのですか?」
「別段特許を取れるような事じゃないし」
それは確かだ。
「後は脳のスイッチを覚えれば好きにしてくれって感じ」
「出来ますか……?」
「才能事態は僕の四千倍近く有るんだ。可能でしょ」
「ふむ」
マリアが思案した。
一義のキャパで超音速を実現する。
ソレが如何な特異で以て為されているのか。
完全に想像の埒外である。
一義にしてみれば当たり前の感覚ではあるが、
「んなわけあるか」
が他者の通念だ。
空間把握能力。
対象座標の捉え。
連続的魔術多段行使。
そを可能とする脳のハイスピードスイッチ。
パワーレールガンはソレらの結晶だ。
であれば脳の壊れ方が一般から逸脱していることの証明でも……無論あるのだが。
それを、
「ナタリア殿下には可能か?」
はある種の命題だろう。
「知らない」
無責任な一義だった。
もっとも他に答えようが無い。
連続的魔術多段行使は教えられて出来るようなものでも無い。
とはいえ一義の四千分の一の努力で可能となるのだから、
「目が無い」
とは一義も思っていないが。
水着美少女たちに取り囲まれながら一義は呑気に背伸びした。
「後は殿下の才能次第だね」
一義とかしまし娘は可能としている。
一義がそうである以上、かしまし娘にも当然ではあるのだ。
が、他者にソレが可能かはいまだ試したことがない。
仮に出来たとしても、
「その場合は致命的な脳の欠陥を抱えることになる」
という事実は消えない。
「当人が好きでやってるから文句は言えないけど」
そう言う他無い一義だった。
「ご主人様……」
「お兄ちゃん?」
「旦那様………」
かしまし娘が寄り添う。
「罪な人ですわね一義は……」
そんなマリアの言を一義は否定できなかった。




