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三人の姫は11


 一応客分として帝城で遇される一義たち。


 特に鉄の国に貢献しているわけでも税金を払っているわけでもないのだが、ルイズの世話と先の兵士一網打尽……くわえてアイリーンの帰還(というと正確ではないが)とが混ざり合って下手を撃てない状況になっていた。


 一義としては、


「皇立魔法学院に行きたい」


 がために鉄の国に招待されたのだが、何でも皇帝の娘……王女たちがそれぞれ一義に用があるらしく、それに対応して欲しいと頼まれて仕方なく帝城に滞在している。


 マリアは一義に心底惚れ込んだらしい。


「一義! 一義!」


 と懐いた猫のようにすり寄ってくる。


 よほど一義を買っているよう。


 第一王女は戦力としての一義に興味津々というわけだ。


 対して第二王女は講師としての一義に興味津々だった。


 第二王女……名をナタリアという。


 赤い髪と瞳の持ち主かつ美少女だが赤みが花々やマリアとは少し違う。


 擦れた赤みは緋色と呼んで差し支えないだろう。


 何でも王族でありながら魔術師志望で、帝城に魔術講師を招いて魔術の勉強をしているとのこと。


「イイコトデスネー」


 と一義はスルーしようとしたが、


「相談に乗ってやってくれ」


 とナタリアの父……つまり皇帝に懇願された。


「食べた飯程度は働きますよ」


 と一義らしからぬ反応で第二王女に接触した。


 緋色の髪と瞳の少女。


 年はマリアとさほど変わらない。


 ただし瞳には澱みが見て取れた。


「で? 話って?」


 一義が気にするファクターでもないため単刀直入に切り込む。


 こういうところはある種の尊敬に値した。


 王女相手にも怯まないのは一義の面の皮の厚さを物語る。


 褒められたことでは当然無いが。


 場所はナタリアの部屋。


 テーブルに紅茶の注がれたティーカップが人数分。


「魔術の指導をして欲しいのです」


「魔法学院があるはずでは?」


 ある。


 あるが、


「退学しました」


「何故?」


 王女が白と云えばカラスも白くなるのが常識だ。


 退学制度は霧の国の王立魔法学院にもあるが、仮に王侯貴族を一般生徒と等しく容赦なく退学処分にするはずもない。


 それは鉄の国の皇立魔法学院にも云えるのでは……そう一義は言う。


「どうもあたしには魔術の才能が無いらしく……」


 帝城で講師を招いて指導を受けている。


 そう云うことらしかった。


「使える魔術は? まったく使えないの?」


 何が問題かはまず言葉にしなければ始まらない。


「その……キャパシティが不足していると……」


「キャパね……」


 大体察する一義たち。


「ライティングは出来る?」


「一応」


「どれだけ維持できる?」


「あうう……」


「別段笑わないから」


「六時間です」


 短い。


 それが総意だ。


 もっとも、


「あくまで平均値と比べれば」


 ではあるが。


 大体において一日ほどライティングを維持できて普通である。


 ライティングの維持時間は、魔術におけるキャパの総量を測る指標と言える。


 一般的に一日が平均。


 より上位とも為ると一週間維持する魔術師も居る。


 そんなライティングの維持が六時間。


 仮に王立魔法学院なら迷わず九組に宛がわれるだろう。


 ちなみに入学当初の一義も九組だった。


「六時間ねぇ」


「どうにかなりませんか?」


「どうにかはなるよ?」


「なるの!?」


 驚くナタリアだった。


「姫々」


「何でしょうご主人様……?」


「六時間って何秒?」


「二万千六百秒ですね……」


「じゃあ音々。五で割ると?」


「四千三百二十だよ!」


「何の話でしょう?」


 ナタリアは困惑していた。


「ナタリア殿下が僕の四千三百二十倍の才能を持っているって言ってるの」


「?」


「ってなるよね」


 それはしょうがない。


「僕のライティングの維持時間は五秒だから六時間も維持できるナタリア殿下はすごいな~って話」


「五秒……? え? 本当に?」


「謙遜するならもっと現実的な時間を言うよ」


「でも五秒って……。才能が無いにも程がありませんか?」


「実際無いしね」


 すっとぼける一義だった。


「ま、そんな僕でも魔術師を名乗れるんだから僕の四千倍のキャパを持つナタリア殿下も魔術師になれる可能性はあるってこと」


 ほとんど気休めだが事実でもあった。


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