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三人の姫は10


 少しの間があって、


「まぁくつろいでください」


 マリアは一義たちを部屋に招いた。


「じゃあくつろぎます」


 遠慮もへったくれもなく一義はくつろいだ。


 部屋にある仮眠用のベッドに寝転ぶ。


 ハーレムの女の子たちはマリアに続いて屋内テーブルの席に座る。


「飲み物はどうしましょう?」


「紅茶」


 そんな一義に女の子たちも同意する。


 使用人が紅茶を振る舞い茶菓子を置いて去って行く。


「さて」


 とマリア。


 朱色の瞳は興味深そうに寝っ転がっている一義を見やっていた。


「一義?」


「何でっしゃろ?」


「わたくしの物に為りなさいな」


「断る」


 その間コンマ単位。


「帝直属の近衛騎士に成れるんですのよ?」


「そんなものに興味があるなら既に霧の国の王属騎士になってるよ」


 さもあろう。


 ごくごく一般論だ。


 一義はベッドでゴロゴロ。


 たまに紅茶を飲む。


「何なら屋敷を用意しましょう。わたくしを嫁にしてくださるのなら屋敷に幾らでも妾を侍らせられますわよ? 帝都の女性はお父様の寵愛を受けたい一心ですゆえ……綺麗で愛らしい女性がたくさん居ますわ。当然近衛騎士の寵愛を受けたがる女性も多いでしょう。ハーレムの主になれますわ」


「既に為ってるしなぁ……」


 一義がぼんやり答えると、


「うんうん」


 とハーレムの子たちが同意した。


 どちらかといえば呆れの方向で。


 既に両手の指では数え切れない数に膨れあがっている一義のハーレム。


 正直なところ、


「これ以上増えても管理できなくなる」


 などと身も蓋もないことさえ思っている。


「ではわたくしもそのハーレムに入れなさいな」


 マリアの意見は斜め上だった。


「えー……」


 不満と云うより疲労の言葉だ。


「僕が何したよ?」


 自覚が無いのも困りもの。


「多大な戦力を見せつけてくれたじゃありませんの」


「…………」


「それに」


 とマリアは続ける。


「わたくしを通して鉄の国に一定の発言力を持てば諍いの回避も可能では?」


「あー……」


 一理ある。


 そんなソロバンを弾く一義だった。


「ディアナ様もハーレムにいますしあながち理想論とも言えませんね……」


 姫々も同様らしかった。


「ディアナ……というと……」


「霧の国の王様」


「陛下までハーレムに!?」


「向こうが勝手に名乗ってるだけなんだけどね」


 まぁ要するに一義のハーレムに入りたければ挙手して声高に叫べばそれでオーケーなところがある。


「ではあなたが鉄の国と霧の国のメッセンジャーになるというのは?」


「めんどい」


 元より無精だ。


「何故国に奉仕せねばならないのか?」


 が一義は本気で理解できていなかった。


 仮に戦争になったのなら都合上霧の国の戦力にならねばならないが、


「勝手にしてくれ。僕は寝る」


 のスタンスを一義は崩す予定がなかった。


 霧の国にとって抑止力の代名詞ではあるが、本人はあまり自覚していない。


「とりあえずかしまし娘に面倒を見て貰ってハーモニーを弄れればいいかな?」


 程度に毎日を過ごしているのだ。


 国家間の緊張が張り詰めても槍が空から降ってきてもブレない強みが一義にはある。


 褒められたことでもないが。


「それより風の国とはどうなっているのでしょうか?」


 風の国。


 鉄の国を挟んで霧の国と反対にある国家だ。


 国力は鉄の国とほぼ互角。


 かつ統治する貴族たちが好戦的で、色々と画策しているという。


 聞かされても、


「ふぅん」


 としか一義は反応しないが。


「仮に風の国と戦争になればルイズも戦場に立つんですわよ?」


「頑張ってね」


「師匠~……」


 ルイズの嘆きも分からないではない。


「反魂はどう思っていますの?」


 マリアはアイリーンに水を向ける。


「そうですね。風の国を煽って鉄の国を挟撃するのも有りですし、鉄の国を支援して同盟和議を結ぶのも一手でしょう」


「面白くない未来予想図ですわね……」


 半眼になる朱色の瞳だった。


「アイリーンは鉄の国に帰順する気は?」


「もしも確保したいのなら一義を説得すればセットで着いてきますよ?」


「一義?」


「めんどい」


「わたくしの体を捧げますわ」


「間に合ってる」


 何処まで行っても二人は平行線らしかった。


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