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三人の姫は04


 ともあれ皇帝との面会も終わった。


 牽制もした。


 相互理解もした。


 威嚇もした。


 ついでに約束事も取り付けた。


 一義たちはルイズの客としてそれなりの待遇を保証された。


 広い城の余っている部屋を借りてそこに宛がわれ、一義たちは宿の心配をせずに済んだ。


 一義はキングサイズのベッドを所望した。


 そしてその通りになった。


 簡単な理由だ。


 発作が起きたときにかしまし娘を傍で寝せる必要があるため。


 以上。


 それから食堂で食事と相成った。


 夕餉だ。


 上座に皇帝が座り、そこから王子と王女が順番に。


 下座に一義たちという塩梅。


 料理は豪勢だった。


「よくもまぁ働いてもいないのに」


 そんなことを一義は思う。


 人のことは言えないのだが。


 食事を取っている最中。


 王女たちからの視線を察していたが、


「…………」


 無精の一義は気づかないふり。


 黙々と食事を征服する。


 さっさと食べ終えて去ろうとしたところに、


「お待ちなさいな」


 そんな声がかけられた。


「…………」


 聞こえないふりをすることも出来たが、とりあえず声の主を見やる。


 赤い美少女だった。


 朱色の髪と瞳。


 花々の赤とは少々色味が違う。


「誰?」


 もっともな意見だった。


「わたくしを知らないんですの?」


「まったくもって」


 不敬や不遜を通り越した自然体の一義。


 考えていることは、


「ビアンカとキャラ被ってるな」


 程度だ。


「では自己紹介を」


 朱色の少女は云った。


「わたくしはマリア。お父様の長女ですわ」


「へぇ」


「崇め奉っても宜しくてよ」


「謹んでごめんなさい」


 一義の返答も中々だ。


 露骨に不機嫌になるマリアだった。


「わたくしに逆らいますの?」


 剣呑な光が朱色の瞳に宿るが、その不機嫌はどちらかと云えば幼児の駄々に近い。


 当然一義が気圧されようはずも無い。


 元より『権力』と云うものに良い感情を持っていない。


 それは心的外傷の結果かも知れないし、あるいは自身に与えられた力に裏打ちされた自負かも知れなかった。


「ミスマリア」


 一義は皮肉気にマリアを呼んだ。


「生まれの高貴さに敬服するのは自国の民だけだよ?」


 ディアナをハーレムの一因に加えておいてどの口が言うのか。


 だが一義の本心でもある。


 一義がディアナを気に入っているのは王でありながら無邪気で権力の笠を着ないサバサバした性格故だ。


 人なつっこくて子犬のような愛嬌のある美少女。


 だからこそ一義はディアナに税金を支払っているのだから。


 閑話休題。


「一義」


「何でしょう?」


「わたくしの騎士になりなさい」


「面倒」


 腹の底からの拒絶だった。


 たった二文字。


 が、その簡潔さが雄弁に一義の意思を語っていた。


「……っ!」


 面食らうマリア。


 生まれた瞬間に祝福を受けた身だ。


 誰もが褒めそやし、誰もが敬服する。


 そんな環境に生きていたため自我が膨張するのもしょうがない。


 そんな王女を袖にする一義という存在は、マリアにとって初めての生き物である。


「わたくしでは不服ですの?」


「ん~」


 一義は腕を組んで言葉を選ぶ。


「別に嫌ってわけじゃないんだけど……」


「ならいいじゃないですの」


「逆に光栄でもないし……」


 台無しだった。


「王女の騎士ですわよ!? これ以上の幸福が何処にありますの!」


「別に立身出世には興味ないもので」


 そもそもそんな欲求があるならディアナの騎士になっている。


 そう言うと、


「ムギギ……っ!」


 悔しげにマリアは一義を睨んだ。


「そんな目をされてもなぁ」


 心で呟く一義。


「ていうか僕に何を見出したわけ?」


「戦力ですわ!」


「あっそ」


 考え得る限り最低の答えだった。


 一義が自身の戦力を疎ましく思っていることをマリアが知るはずもない。


 別段地雷というわけでも無いが、鉄の国のために戦力を捧げる気は一義には毛頭無かった。


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