いざ鉄の国13
ランナー車はスイスイと進んだ。
まさか王侯貴族の乗り物に襲撃をかける野盗もいないだろうから旅は順調と言える。
無論何事にも例外はあるが、以前に一義たちの乗るランナー車が狙われたのはファンダメンタリストの破壊工作だ。
此度も起きないとは確約できないが仮にそんな事態に陥っても一義たちの痛痒とはならない。
浮遊する車内でカードゲームに興じている女の子と……それを観察している一義。
だいたい四日かけて初めて都市と呼べる類の場所に着く。
「立派なものだね」
一義は感心していた。
「ランナー車ならあと三日くらいで帝都に着くよ」
「そう」
「とりあえずチェックインかな?」
「だねぇ……」
山賊から徴収した三百万スチールがあるため豪勢なホテルに泊まった。
個室を用意して貰ったが、一義は二人部屋だ。
「何で?」
とルイズ。
「女の子と一緒じゃないと眠れないの」
「僕は?」
「駄目」
拒絶も拒絶だった。
「なんでよ~」
「なんでも」
一義は素っ気ない。
というか恥ずかしかったのだ。
一応男の子には見栄がある。
エルフの一義を男の子の範疇に加えるかは疑問だが、少なくとも一義のメンタルはかなり弱い。
そしてそれを共有しているのは今のところかしまし娘のみだ。
要するに、
「自分しか居ない」
とも言う。
「とりあえず御飯にしよう」
話題を逸らす一義。
「じゃあとりあえず」
と食事処に案内される。
市民が使うような場所だ。
「ドレスコードとか食事マナーとか無い方が良いでしょ?」
「まったくまったく」
頷く。
そして時間的に暮れとなったため夕餉とする一義たち。
一義はビーフシチューを頼んだ。
黒パンを浸して食べていたが、
「…………」
どうにも面白くなかった。
味は良い。
が、衆人環視の視線が気に掛かった。
そこにあったのは困惑。
そしてその視線の意味を一義は正確に把握していた。
ルイズへの羨望と共にしている謎の東夷への忌避。
ついでに金色の美少女……反魂が席を共にしているのだ。
疑うなという方が無茶であろう。
その辺り、
「どうしたものか」
と黒パンを千切りながら考えていると、
「視線が気になるなら場所を変えよっか?」
ルイズが提案してきた。
「いい」
と一義。
「ここの食事美味しいし」
フォローも忘れない。
「居心地悪くないの?」
「霧の国で慣れた」
事実だ。
「だから大丈夫」
あははと笑う。
空笑いでは無い。
慈愛のソレだ。
「師匠が良いなら良いんだけど」
そう言ってサイコロステーキを口に運ぶルイズ。
ハム、ベーコン、ウィンナー。
「ふむ」
と思案しているのは姫々だ。
肉の長期保存の技術は鉄の国に一日の長がある。
その上で美味しく加工する。
それは姫々には無い発想だ。
別段霧の国に無いわけではないが、この食堂のソレは姫々をして、
「見事」
と言わせるクオリティだった。
「アイリーンは作れますか?」
そんな風に問う。
一義のハーレムで料理担当の二人だ。
「ええ、やろうと思えば」
アイリーンは謙遜も無く答える。
「ただし一から作るとなると場所を取るんですよね」
「ふむ」
「主にその道に人生を捧げた職人の仕事だ」
とアイリーンは言った。
実際に調理されていない生肉を手に入れるのが難しく、手に入れても熟成や燻製が必要だ。
あまり現実的な発想では無い。
「惜しいですね」
姫々としてはアイリーンは大陸西方料理の師匠であるため、色々と根掘り葉掘り聞いていた。
「…………」
そんな光景を一義は優しく見守る。
姫々が肉料理に触発されただけでも鉄の国に来た甲斐があろうという物だ。
黒パンを千切る。