いざ鉄の国12
馬車にて鉄血砦跡の村に着く。
一義が顔を出すと村人たちの表情が引きつった。
白い髪。
白い目。
黒い肌。
長い耳。
エルフ。
あるいは東夷と呼ばれる種族だ。
大陸西方にとって亜人は災害だという通念である。
実際に一義もヴァンパイアと戦ったことがある。
正確には花々が、ではあるが。
ともあれ人間至上主義にとって亜人は忌避の対象だ。
ましてそれが悪名高いエルフとくれば恐れない方がどうかしている。
「申し訳ないね」
ルイズが謝った。
「鉄血砦が堕ちてから鉄の国の住人はエルフに怯えて暮らしてるから」
「つまり自業自得と」
一義は堪えてなかった。
忌避される。
恐怖される。
畏怖される。
そんなことは学院で十分慣れている。
未だに敵意と軽蔑と忌避と恐怖の視線は一義を捕らえて離さない。
であれば鉄の国の住人が一義を見て恐怖したところで何らおかしなことはないのだ。
むしろ、
「申し訳ない」
という気分にさえなる。
とまれこれで鉄の国に入ったのだ。
村から延びている街道の間際にランナー車が止まっていた。
「アレに乗るのだろう」
そんな想像は容易い。
とはいえ馬で三日。
今日は鉄血砦跡の村に止まることになった。
「鉄の国ねぇ」
一義は生ハムをあぐあぐ。
「一応和の国から霧の国の学院に入学した都合上鉄の国にも寄ったんだよね?」
「うーん」
その辺りを解説すると面倒事になるため、一義は曖昧に誤魔化した。
サンドイッチをあぐあぐ。
「で、後はランナー車……と?」
「そゆこと」
頷くルイズ。
「本当に鉄の国の皇帝に会わなきゃいけないの?」
「陛下……というより王女殿下にだけど」
「僕に興味を持っているってアレ?」
「うん」
ルイズは肯定した。
「なんだかなぁ」
それが率直な感想。
が、
「まぁいっか」
とどんぶらこっこと流した。
一義の興味は皇立魔法学院だ。
その空気を感じ取れるのなら王女の二人や三人……会って憚ることもない。
「一応それなりの礼は取ってね?」
忠告するルイズ。
紹介する手前ルイズまで不遜の対象になりかねない。
その程度のソロバンは一義も弾ける。
ただ、
「面倒だなぁ」
それも本心だ。
さりとてルイズを蔑ろにも出来ない。
「やるだけやってみる」
口約束だが。
「すっごい不安」
「駄目だったらルイズも霧の国に逃げてくれば良いじゃん」
「あー……」
「駄目なの?」
「とは言わないけど……僕にだって大切な物はあるんだよ?」
「じゃあそれごと」
「考えとく」
「もし邪魔する連中が現れたら花々が何とかするよ」
「旦那様……」
花々は半眼になった。
呆れたからでは無い。
むしろその判断が的確だからだ。
重火の姫々。
絶防の音々。
金剛の花々。
どれ一つとっても生中な戦力ではない。
が、物事には一長一短という事項がある。
姫々は奇襲に特化している。
音々は防御に卓越している。
そして花々は攻撃性に分がある。
防衛戦では姫々と音々に一歩譲るが、こちらから仕掛ける場合は二人を上回る能力を持つ。
何せ金剛だ。
剣も銃も肌を傷つけること叶わず、人体を粘土細工のように破壊してのける膂力。
こと攻めに関する限り一義のハーレムでは最強の一角だ。
「というわけで鉄の国に飽きたら亡命も視野に入れておいてね」
一義はさっぱりと言ってのけた。
「……考えておきます」
ルイズもそれなりにソロバンを弾いたのか。
言葉には憂慮が含まれていた。
一義の知ったこっちゃなかったのだが。
実際にアイリーンやハーモニーという前例もある。
別段無理筋な提案でもない。
「後はルイズの意思次第」
あぐりとサンドイッチを食べる一義だった。