いざ鉄の国10
「ここだ」
案外山賊のアジトは近場にあった。
元より連絡役と密に連携が取れなければ意味が無いためしょうがない事情ではあるのだが。
ロープで足以外を拘束されて、
「私は元山賊です」
と上半身に墨入れされた山賊は解放された。
「ご苦労。もう逃げて良いよ」
一義がそう言うと捕まっていた山賊はすたこら逃げていった。
運がいいのかどうなのか。
逃がした山賊の先兵が見えなくなった当たりで本命がゾロゾロアジトから現れた。
連絡役から報告を受けて動き出すまで少しのタイムラグがある。
それが致命的だった。
「うす」
と一義が手を挙げて挨拶。
「誰だお前?」
山賊の本隊の反応はそんなものだろう。
状況を把握していないため得物としている対象には見えていない。
「東夷が何故此処に居る?」
「ま、色々ありまして」
「そっちの嬢ちゃんらは売り物に出来そうだな」
姫々と花々のことだろう。
音々とアイリーンとルイズは置いてきている。
音々は斥力結界による馬車の護衛。
アイリーンは迎撃。
ルイズはやること無しである。
「で、旦那様?」
「うん。まあね」
以心伝心。
「では駆逐しよう」
姫々と花々から殺気が膨れあがる。
それは裂帛の熱風を伴い山賊たちに叩きつけられる。
「……っ!」
いきなり異界化した現状を山賊たちは本能で察した。
基本的に弱者に強く強者に弱い。
山賊稼業において最も必要な能力は、襲う相手の品定めだ。
その上で一義と姫々と花々を無力と見做したのは……もうしょうがないとしか言えない。
だれであれこのトリオが一国を滅ぼす戦力とは読み取れないだろう。
一義はパワーレールガンを行使した。
瞬間。
加速した山賊の親玉が水平に吹っ飛ばされて岩壁に衝突する。
「がっ……!」
呻いて崩れ落ちる。
どうやら意識を失ったらしかった。
「何をした……?」
戦慄と恐怖……それから何より未知に支配される山賊の子分たち。
「特に複雑なことは」
一義は肩をすくめる。
「というわけで……」
また新たに山賊の一人が吹っ飛ばされて岩壁にぶつかり気を失う。
「社会正義の礎になってね?」
ニッコリ笑う一義は大層愛らしかったが、この際山賊には死神の手招きだろう。
火薬がはぜる。
どこから取り出したか。
姫々が手に持ったマスケット銃で山賊の一人の足を打ち抜いた。
同時に花々が山賊の一人の鳩尾に拳を埋め込んだ。
悶絶し吐瀉する。
そして気を失う山賊の一人。
「…………っ!」
混乱が場を支配した。
もっとも逃げられる相手でもないが。
背中を向ければマスケット銃の餌食。
迎え撃てば花々の暴力。
その場で突っ立っていれば一義のパワーレールガンの標的。
山賊にとっては無理ゲーだろう。
無論そうとわかってるから一義たちは喧嘩を売ったのだが。
決着は即だった。
さもあらんが。
それから人生に支障が出る程度にハンデを背負わせてアジトを漁る。
もはやどっちが悪党かは分からないが、特に気にする三人でも無い。
山賊の溜め込んだお宝を奪取して馬車に戻る。
「お兄ちゃん!」
「一義」
「師匠」
居残り組が出迎えた。
そしてお宝を品定め。
もっとも持っていてどうなる物でも無いため、すれ違った商人の馬車と交渉して買い取って貰ったが。
三百万スチール。
スチールは鉄の国での貨幣だ。
まったく大金と言って良かったが、これでもまけた方である。
すれ違った商人にしても霧の国に行く以上……鉄の国の貨幣より現物の方が好ましいという事情もある。
そんなわけで取引が成立し、一定の金銭を得るのだった。
特に使い道があるわけでもないのだが。
宿代にしても過分すぎるし、使わなければ重いしで、
「贅沢な悩みだ」
と一義は困って見せた。
「ですね……」
「だね!」
「だろうね」
「ええ」
「どうなんだろ?」
ハーレムの女の子たちも特に大金に目の色を変える事はしなかった。
有って損する物では無いが、無くて損する物でも無い。
そんなことをせずともやりくりできるのが一義たちであるからだ。
ともあれ商人からついでに買い取ったパンや干し肉を食べて飢えを満たす。
途中の旅人専門の宿屋に止まって、セクステットは一息つく。
それから自由時間である。