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いざ鉄の国09


「あー……」


 これは超感覚を持たないハーレムたちの感想だった。


 誰一人として緊張感を持っていない。


 代表して一義が言った。


「何もこの馬車を襲わなくても……」


 それは全員の総論だ。


 不幸な巡り合わせとしか表現できない。


 銃力。


 重火。


 絶防。


 金剛。


 反魂。


 そして皇帝直属騎士まで居る。


 一人として山賊に後れを取る人物は居なかった。


 それを山賊は知らないのだ。


 ともあれ対処が求められる。


 馬の悲鳴が轟いた。


 馬車のソレだ。


 馬車自体は音々の斥力結界に守られているが、


「弓矢が襲った」


 という感覚が、


「無事だった」


 という結果を塗りつぶして馬に混乱を与えた。


 御者が馬をなだめたが完全に馬車は止まる。


「さてどうしよう?」


 一義は少し悩んで、


「音々。来て」


 と音々を指名した。


「はーい。お兄ちゃん」


 音々は軽く頷いて一義と一緒に馬車を降りた。


 斥力結界の範囲内で馬車の車体から出ると、一義たちは山賊二人と視線を交わした。


 見張り役なのだろう。


 馬車を襲って止める。


 その後に連絡役が本陣を呼びに行く。


 ご愁傷様だがそれはともあれ。


「おい。お前ら。殺されたく……」


 二人の山賊が手入れのされていない青竜刀を構えて脅しをかけようとした瞬間、先に一義が魔術をかけた。


 銃力の魔術……パワーレールガン。


 加速されたのは弾丸では無く山賊たちだったが。


「音々。漸近境界」


「はーい!」


 空高く打ち上げられた後、落下してきた山賊たちを水平に布かれた音々の漸近境界が受け止める。


 落下による衝撃は無い。


 飛ぶ矢のパラドックスの再現であるから当然ではあるが。


 そして地面すれすれで《落ち続けている山賊たち》に一義は声をかける。


「ごきげんようミスター」


「な、何だテメェら!」


「とりわけ名乗るほどの者じゃ無いよ」


「何しやがった」


「魔術で上空に放り投げて、こっちの子が漸近境界を作って受け止めているだけだよ?」


「漸近境界?」


「飛ぶ矢のパラドックスの具現。要するに座標としては限りなく境界に近似するけど位置エネルギーから速度エネルギーへの変換が無尽蔵に行なわれている状態。まぁ空気抵抗がない分だけより残酷だけどね」


「何を言ってる?」


「漸近線って知ってる? 数学は習ってるかな?」


「教養が出来れば山賊なんてやってない」


 ごもっともだった。


「要するに」


 と山賊を受け止めている真っ黒の障壁を指差して、


「仮にこの子が」


 と音々の頭をポンポンと叩く。


「魔術障壁を解いたら君らは上空千メートル以上の高みから落下する程度の衝撃で地面に叩きつけられることになるね」


「……っ!」


 さすがに山賊の顔が引きつった。


 とはいえ漸近境界によって見かけ上の位置が変わっていないだけで位置エネルギーから速度エネルギーへの変換への負債は今も高く積み上げられている。


 モグリの金貸しも真っ青な負債の雪だるまである。


「そろそろ二千メートルからの落下に相当するかな?」


「じょ……冗談だよな……?」


「確かめてみる? 僕は別に構わないけど……」


「待て! おいが悪かった!」


「とは言ってもね……」


 人差し指で鼻先を掻く一義。


「経済を回すには盗賊の類は邪魔なんだよ。商人が安全に商品を運べないと相場が上がるから」


 商人は輸出入をするにあたって冒険者ギルドや傭兵ギルドに護衛を頼むが、その護衛代……つまり給料は売る商品に反映される。


 結果として質の高い護衛を雇えば商品の値段は相応に高騰するのだ。


 であれば血を吸われる前に蚊を叩き殺すように、経済に支障が出ないように山賊を殺すのは当然の意見でもあった。


 そこまで語ると、


「じゃあ山賊止めるから! 見逃してくれ!」


 日和る山賊。


「別に良いけど」


 一義もさっぱりしたものだ。


「ただし条件が一つ」


「な、何だ?」


「君らのアジトに案内して?」


 軽やかに笑って伸ばした人差し指を教鞭のように振るう一義だった。


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