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いざ鉄の国05


 月の出る夜。


 一義は何時ものように夜の街に散歩に出かけた。


 月子を想って……のつもりだったのだが……、


「へえ。夜でも市場は少し開いてるんだねぇ」


 平然とルイズがついてきた。


「…………」


 月子とのデートもクソも無かった。


「あ、酒場が開いてるよ?」


「行きたいなら一人でどうぞ」


 一義は苦笑した。


「師匠は酒を嗜まないの……?」


「そんなわけじゃないけど……気分の問題」


 肩をすくめる。


 陰の深い方へと入っていく。


「どこに向かってるの?」


「特に目的地は無いよ」


 ブラブラしながら、


「先にも言ったけど散歩だから」


「ふぅん?」


 ルイズはてこてこと後ろをついてくる。


「闇市とかやっぱりある?」


「まぁね」


「麻薬とか……」


「幾分慎重に取り扱われてるけどね」


「そなの?」


「なんです」


「何で?」




「僕とかしまし娘が麻薬を取り扱った組織を鏖殺したから」




 とは言えなかった。


「警察が有能なんじゃないの?」


 おためごかし。


 実際には貴族が一枚噛んでいて警察力の届かない案件だったのだから、地獄の沙汰も金次第ということだろう。


「そこの嬢ちゃん……ひっ!」


 と絡もうとして一義を見たごろつきが表情を引きつらせて逃げていく。


「さすが師匠」


「どういう意味で?」


「その武勇は戦わずして敵が引くほどの存在……と」


「過分な評価だね」


「でも実際その通りだし」


 こと学院街の裏面では一義に喧嘩を売ることはタブーとされている。


「だから力なんて欲しくなかったんだ」


 口の中でそう呟く。


「でも逃げない人もいるね」


 ルイズは、


「さも当然」


 と言った。


「気づいてるの?」


「ここまであからさまだとね」


 一体どういう経緯でルイズが感知したのかは分からなかったが、一義の超感覚も敵を捉えていた。


 ファンダメンタリスト。


 その刺客だ。


 足音も無く……かつ素早く刺客は一義とルイズに襲いかかった。


 散々見慣れた黒衣仮面。


 手に持つは馬鹿の一つ覚えの毒塗りナイフ。


 迫る敵に対して一義もルイズも戦闘態勢は取らなかった。


 彼我の距離が後五歩……。


 そこで漸くルイズが動いた。


 神速で剣を抜くと刺客とすれ違う。


「…………」


「…………」


 沈黙。


 それから数瞬遅れて刺客の頭部が地面に落ちる。


 追って肉体が崩れ落ちた。


 あまりに鮮やかに切り裂かれて、現象が斬撃のソレに追いつかなかったのだ。


「御見事」


 拍手する一義。


 ルイズは剣に付いた血を拭うと鞘に収める。


「和刀でも無いのに居合いを使うか……」


「ちょっと西方流にアレンジした抜刀術だけどね。僕の監修だよ」


「良いとは思うけど油断はしないでね」


「どゆこと?」


 一義は刺客の死体が手放したナイフを拾う。


「コレ。毒を塗ってあったから」


「うへぇ」


 ルイズの口がへの字に歪む。


「ズルくない?」


「正々堂々なんて観念を暗殺者は持ってないよ。それはルイズに足りない物だ。多分かすっただけで死に至る類の毒だね」


「師匠も毒を使うんですか?」


「まぁ必要があれば」


 毒手という技術があるほどだ。


 身体に毒を付与して相手を殺す術である。


「ソレって毒手の本人がまず死なない?」


「当人は毒に抗体を持ってるから」


「師匠も?」


「ん? まぁ……」


 肩をすくめる。


「大陸西方に出回っている毒程度なら全て抗体を持ってるよ?」


 事実だ。


 こと毒の技術は東方に分がある。


「どうやって?」


「少しずつ慣らしていくの。弱い毒から始めて段々毒の作用を強くしていく。そうやって毒に対抗できる体を作る修行が向こうの暗殺者には普遍的なことだから」


「業が深いですねぇ……」


 さもあらん。


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